083 悩むイスカと意地悪な現実
なんだか、天乃さんがよそよそしい。
イスカはここ数日悩みっぱなしであった。
誤解も解けて、仲も少しは縮まったと思っていた。
頼ってくれてすごく嬉しかったし、家にまでお邪魔したし。
ハプニングだったけど一緒に寝落ちして、お手製の朝ごはんもご馳走になって。
だというのにこの距離感は、まるで誤解していた時へ逆戻りしたかのよう。
「――あ、天乃さん。次の授業なんだけどさ、」
「ごめん下地くん! 先生に呼ばれててっ」
――――とか、
「天乃さん、ドーナツいる? なんか手違いでひとつ多く入ってて――」
「ありがとう、でもご飯食べたばかりなの。 あ、私お手洗い行ってくるわね!」
――――という具合なのだ。
……もしかして、避けられてるのか?
流石に不安が募り、イスカはティトへ相談することにした。
「……どう思う?」
「――まぁ避けられてるのは確かだな」
だぁぁー、と突っ伏すイスカ。
嫌われたわけじゃないと思うぞ、とティトが励ます。
「そうかなぁ……僕が調子乗りすぎたのかもしれない」
「調子乗りすぎたぁ? どこがだよ?」
「…………天乃さん家で朝まで寝てしまった」
「――は?」
「いやなんというか、成り行きというか……慰めていて気付いたら――」
「わかったそれ以上言うな。……確かに調子乗ったな」
だよね、とイスカはため息をつく。
呆れながら苦笑いしつつ、ティトはひとつ聞いた。
「イスカ。もう自分の気持ちには気付いているか?」
「…………うん」
「そうか。――それならこれはいい機会だ」
顔を上げるイスカ。
ずい、とティトは顔を寄せる。
「ピンチはチャンス。この状況を上手く解決すれば、仲は一気に深まる。恋愛にはスパイスが必須だからな、今がまさしくその時だ」
「上手く解決、か……」
「または盤面をひっくり返すのもありだ。リスクはでかいがリターンもでかい」
ただイスカのキャラ的にどうか……いや、だからこそいいのかもな。
ぶつぶつ呟くティト。
「どういうこと?」
「一番シンプルなやつだよ。好意を素直に伝えろ。家にまで行く仲なら問題ないだろ」
それって、と口ごもるイスカに、ティトはにやりと笑って言った。
「ああそうだ。――告白だよ」
「……下地くん」
「――あっはい!」
赤く染まった空の中、唐突に伝声管が震えた。
思わず変な返事を返したイスカに、セキレイが首を傾げる。
「……ごめん、なんでもないよ。どうかした?」
「うん。――今までずっと、一緒に乗せてくれてありがとう」
「そんな畏まらなくて大丈夫だよ。天乃さんと乗るのは……その、楽しいしさ。こっちこそありがとう」
なんで今? と今度はイスカが首を傾げる。
ただそれを尋ねる前に、でもねっ、と高い声が割り込んできた。
「やっぱりちょっとは負担になるはずよ、燃料とか二人分だもの。だからこれからは、少し楽になるはずっ!」
「…………どういうこと?」
話が全く見えてこない。
もしくは無意識のうちに、気付いていないふりをしているのかもしれない。
「私の飛行機ね、ようやく修理が終わったみたいなの。もうすぐ戻ってくるって吾妻さんから連絡があって」
ずっと下地くんに甘えてばかりだったから、これでようやく迷惑かけずに済むわ――――。
高度を上げたときみたいに、いきなり耳がおかしくなった。
ふわふわと、声がうねっているように聞こえる。
すぐ後ろにいるはずのセキレイが、はるか遠くから話しかけているようだった。
「…………戻ってくるのは、いつくらい」
靄がかかったような頭から、イスカはかろうじて言葉をひねり出した。
少し間が空いて、ぼそりと声が返ってくる。
「…………明後日よ」
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