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082 天乃さんと初めての気持ち

「そんなこと思うわけないに決まってるでしょっ!」


 週明けの昼休み、食堂にエナの声が響いた。

 周りの視線が集まったが、揉めているわけでもないのですぐに散る。

 イスカとセキレイが事の顛末を、エナたち三人に説明している最中であった。


「セッキーが人を見下してるなんて思うやついるの? 信じらんない!」


「理想的すぎるからこそ、そういう誤解も出てくるのでしょうけど……というか、ただの悪口ですよそれは」


 女子二人が憤慨する。

 三人にはとりあえず、「皆に高慢だと誤解されていると思い込み、コミュニケーションを避けてしまっていた」ことが理由だと説明した。

 本当はさらに素の性格やらトラウマやらが関わってくるのだが、そこまで明かしはしなかった。

 過去の人付き合いの失敗から完璧であろうとしてきた、くらいは話したが。

 

 三人に余計な心配をかけたくない、とセキレイが言ったためでもあるし、言わなくても理由としては問題ないだろう。嘘をついているわけでもない。


 ティトが頷きながら、熱くなりかける二人をなだめる。

 イスカが隣を見ると、セキレイはほっとした顔をしていた。


「……ありがとう。心配かけて、ごめんなさい」


「セッキー悪くないから大丈夫。それとあたしたち、絶対にセッキーの味方だから。悩みがあったら、今度はあたしたちにも相談してよね!」


「――うん。わかったわ」


 控えめな微笑みを向けられて、エナはすっと顔を逸らす。その先にあったのは、いまいち冴えない男子の顔。セキレイを助けた、今回の功労者だ。


「……んで、セッキーの騎士さんはどうやって姫を助けたのかな? 切っていないカードがあるとか言ってたけど」


「うっ……それは忘れてほしい……」


 今さらながら恥ずかしくなるイスカ。

 咳払いをしてから、お茶しながら話を聞いただけだよ――とだけ言っておく。


「え、デートってこと?!」

「――それも猫ちゃんが癒してくれるところでね。私が話しやすいようにって気を使ってくれたのよ」

 

 被せるように言って、セキレイはいたずらっぽく微笑んだ。ほんの少し自慢げだった。

 エナとカラがひゃーっと黄色い歓声を上げる。


「やるじゃん下地ぃ! 隅に置けないねー!」


 イスカはかちこちに固まっていた。

 ティトがばしん、と背中を叩く。


「――なに……?」


「よくやった」


「…………ありがとう」


 かはは、と豪快に笑うティト。

 はぁあ、と息を吐くイスカ。

 そんな二人にエナが言った。


「――それじゃ、男子たちは先に戻ってもらおうか……」


「ん? どうしてだ?」


「ちょーっとデートについてセッキーを尋問しなきゃだから。もちろん殿方禁制で」


「……えっ。ちょっと待ってエナ、聞いてないわ!」


「そりゃ今決めたからね。あーんな自慢げに言われちゃ気になるって! ねーカラもそうでしょ?」


「……まぁ。後学のためにぜひとも詳しく」


「カラまでっ!?」

「そーゆーわけで。有馬頼んだっ」


 なるほど了解、とティトは親指を上げて見せる。

 

 ――え、なにもグッドじゃないんだけど。

 天乃さんは……あ、墓穴を掘ったって顔してる。


「……そうだ、もう昼休み終わ――――」

「そうだな、先帰ろうぜイスカ」


 がしりと肩を組まれ、出そうとした助け舟はあえなく撃沈された。

 諦めろ、と目で語るティト。

 セキレイが心配だったが振り向くことさえ阻止されて、イスカは教室へと連行されていった。






「――――で、セッキーは下地のこと好きなの?」


「えぇっ!? えっと――えぇと……」


 顔を見合わせるエナとカラ。

 珍しく口ごもるセキレイを横目に、ひそひそ話し合う。


 (ねえ、こんなセッキー見たことないんだけど)


 (ええ、セキレイも動揺するのですね……)


 (これガチのやつじゃない? どう思う?)


 (――判断するには私の経験が足りません)


 「いや間違いないね。そっか好きになっちゃったかー」


 少し大きくなったエナの声に、セキレイはびくっとして顔を逸らす。

 青い瞳が揺れに揺れて、否定しようとして口を開いて、けれど言葉はでてこなかった。

 そんなセキレイに、エナが手を伸ばす。ぽん、と肩を叩いた。


「大丈夫、隠さなくていいから。あたしたちは味方だよ」


「…………う……」


 朱に染まった顔を隠すように、セキレイは突っ伏した。

 ふぅう、と観念のため息か漏れる。


「――――なんで分かったの……?」


「そりゃセッキー、いつもとぜんぜん違うもん。恋する乙女、って感じ! ねえ、カラ?」


「まあ、分かりやすく違いましたね」


 ……しかたないじゃない、誰がを好きになるなんて初めてなんだものっ。腕の隙間からぼそぼそ言い訳。


「で、でも誰にも言わないで。恥ずかしいし、とくに下地くんに知られてしまったら――――!」


「もちろん言わないよ! だけどうーん……下地にはバレてるんじゃないかなぁ……」


「――――――――え」


「だって全然隠せてないんだもん」


 あーでも下地は鈍感そうだし、大丈夫か。

 そんな続きの言葉は、すでにセキレイの耳には入っていない。


「下地くんにバレてる……好きって、バレてる?」


 がば、と顔を上げた。


「…………セッキー? おーい」


 ――――――――。


 ――――――――――――っ!


 ばふっと顔が爆発した、そんな風にセキレイは感じた。

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