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081 天乃さんの自覚

 目を開けると、見慣れた寝室の天井ではなかった。

 なんでリビングで寝てたんだ? と首を傾げつつ体を起こす。セキレイの後ろ姿が見えた。


「……うん……?」


「――あ、やっと起きた。おはよう」


 白髮を一振りして微笑みを浮かべるセキレイ。

 エプロンを着ているところを見るに、料理をしている最中だろう。何かを炒めている音が、寝起き頭をぱちぱちと突っついた。


 ――ここ、天乃さんの家か……!


「――ごめん! そのまま寝てしまった……!」


「いやいや、私こそ。昨日はたくさん迷惑掛けちゃってごめんなさい」


 セキレイはフライ返し片手に、恥ずかしそうに笑う。


「――先に顔を洗っちゃって。洗面所は出て右、タオルはかかっているの使ってね。朝ごはん作ってるから」


 昨日のお礼も兼ねてだから、食べていって?

 そう続けられたイスカは、遠慮の言葉を飲み込んで頷いた。






「――いいの? こんな凝った……」


「もちろん。というか、ありあわせで作ったものだから凝ってないわよ? 味は大丈夫だと思うけれど」


 テーブルの上には豪華にも一人一皿、こんもりと料理が盛られていた。

 サイコロ状に切り揃えられ、きつね色の焦げ目がついたジャガイモやズッキーニ、玉ねぎに厚切りベーコン。

 その上には半熟の目玉焼きが載せられて、さらに鮮やかな赤色のビーツが薄切りで五枚、皿の縁に添えられていた。


 見たことがない料理だが、立ち昇る香りはいかにも美味しそう。

 トースト一枚で済ますイスカのそれに比べれば、相当凝った朝食である。


「――美味しそう。なんて料理?」


「えっとね――そうそう、ピッティパンナ。本に載ってたのよ。寒い異国の料理らしいわ」


 可愛い名前だな……と思ったら、可愛い名前よね、とセキレイが言った。

 それが少し嬉しくて、イスカは笑って同意する。


「……さて、冷めちゃう前に食べましょ。お塩欲しかったら言ってね?」


「ありがとう。――いただきます」


 そっとナイフの刃を入れると、とろりとした黄身がサイコロ達へと広がった。

 ちょうどよい半熟具合に感心しつつ、いい具合に絡んだそれをフォークですくい、口へ運ぶ。


「――――!」


 からりと炒められた野菜、肉汁たっぷりのベーコン。そこに卵のクリーミーさが加わって、濃厚な味わいが舌の上に広がり、鼻を抜けていった。

 それなのに、油の()()()は全く感じない。


「……どう、かしら?」


「おいしい。――すごくおいしいよ!」

 

 返事をしつつもフォークが止まらないイスカ。

 それを見て、セキレイは嬉しそうに顔をほころばせた。







「朝ごはん、ごちそうさま。とてもおいしかった」


 すかっとした日差しの下、ドアの前でイスカは振り返る。


「ふふ、よかった。またご馳走するわね! ――――あっ……ええ。またごはん食べましょっ!」


 セキレイは言葉の途中で何かに気付き……けれど頷いて続けた。

 白い頬が、少し赤い気がする。日差しのせいで、よくは見えないけど。


「うん。楽しみにしてるね」


 さよならを言って歩き出す。

 ドアが見えなくなる前にふと振り返れば、セキレイは小さく手を振ってくれていた。

 ひらひらと振り返して、昨日来た道を戻っていく。

 よく寝られたからか、足が羽のように軽かった。






「あんなこと言うなんて……また家に来てって言ってるようなものじゃない……」


 閉めたドアを背に、ずるずるとしゃがみ込むセキレイ。

 顔を覆った手の隙間から、そんなぼやきが漏れる。


 頬が沸騰してしまいそうだ。

 イスカが帰ったことで気が緩んだのか、心臓はとくとく、飛び出しそうなほどに鳴っていた。

 いくら抑えても収まらないどころか、添えた手すらも震えだす。


「……はーっ! はぁ……」


 熱い空気を吐息で出して、セキレイは顔を上げた。

 髪の毛が揺れて、耳のあたりがこそばゆかった。


 側にいてくれて。

 受け入れてくれて。

 今までずっと、助けてくれて。

 

 恥ずかしさと昂ぶりが混じり合ったような、初めての感情。

 その名前くらいは、流石に知っている。


「…………私。下地くんが好きなのね……」


 いざ口に出してみれば、ほわほわと身体中に熱が広がっていって、セキレイはまたしても顔を覆いかけたが。


 ――突然鳴り響いた電話のベルにびっくりして、途中で固まった。


 二回目のコールで我に返り、ぱん、と頬を叩く。

 しゅるしゅると頬から朱を抜いて、そそくさと受話器を取った。


「……もしもし、天乃です」


「おおよかった、いたか! 四一区飛行場整備主任、吾妻ヤドリだ」


「あぁ吾妻さん。いつもお世話になってます」


「おおよ。電話したのは他でもねぇ、メーカーで修理しているお前さんの機体についてなんだが――――」

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