008 天乃さんと初めての離陸
スカートを抑えながら、セキレイはおじゃまします、と乗り込む。
練習機は前後どちらの席でも操縦ができるようになっているので、座る向きはどちらも前向き。
イスカが前席、セキレイは後席に収まり、ベルトを締める。
「……天乃さん、動翼を見ていてくれる?」
「いいわよ。最初はエルロンかしら?」
「うん。それじゃ――」
イスカは足の間から伸びる操縦桿を、左右に動かした。両側に伸びた翼の後ろが、連動してきいきいと上下する。空ではこれで、飛行機は左右に傾くことができる。
「――異常ないわ」
「ありがとう。次、エレベーター」
今度は操縦桿を前後へ。ぎっぎっ、と音を立てて、上昇下降を担う水平尾翼が可動する。
「エレベーターも大丈夫」
「よし。じゃあラダー」
足元のペダルを踏み込む。後ろの垂直尾翼がばたばた動いて、これも異常なし。
最後にフラップも確認して、どこにも異常が無いことを確認してから、イスカは小さな画面のボタンを押した。
自動管制装置。爆発的に増えた飛行機の利用に対応するため、離着陸の指示を電算機が行うように作られた、この世界の管制システム。
しばらく経って、滑走路の番号と時間が表示された。この時間内に、指定された滑走路から離陸しろという指示である。
イスカはエンジンの出力を上げて、滑走路端の待機ゾーンまで機体を走らせた。
「じゃあ飛ぶか――あれ? 動きにくいな……」
振り返れば、いつもの落ち着きはどこへやら、がちがちなセキレイがそこにいた。
操縦桿をがっちり握り、左手はスロットルレバーの上。
前席と後席の操縦装置は連動しているため、片方を押さえられるともう片方も動かなくなる。
このままだと、操縦ができない。
「……あの、天乃さん」
「な、なにかしら……?」
「いや、僕が操縦するつもりなんだけど……天乃さんが操縦する?」
「えっ――あ、ごめんなさい!」
セキレイは弾かれたように手を離した。
いつも見かける彼女とはずいぶん異なるその仕草に、イスカは少し困惑する。
「――その、誰かの飛行機に乗せてもらうのって久しぶりで……」
「あ、ああ……そうなんだ。それは――仕方ないね」
何が仕方ないのかよくわかっていないながら、イスカはそう返した。少しだけ彼女に可弱さを感じてしまい、気まずくなって前を向く。
「……じゃあ離陸するから」
「は……ええ。わかったわ」
左手のレバーを最大位置へ押し上げる。
排気管がばすんと震え、プロペラの回転が増してゆく。
機体は再び走り出して、接地していた尾輪が浮いて。
翼の下、二つのタイヤだけで地面をつかみ、スピードはさらに上がってゆき――。
「離陸……!」
イスカがぐい、と操縦桿を引くと、タイヤがふわりと地面を蹴った。
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