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078 救いの手と、その続き

「誰がなんと言おうと関係ない。完璧であろうと努力してできた性格も、無邪気なままの性格も、間違ってなんかいない。どちらも天乃さんらしいから」


「私……らしい……?」


「天乃さんの心は、優しくて豊かなんだ。自然といろんな所に目が行って、小さなことにも気がついて。何かあったら放っておけないし、我先にと動こうとする。素の自分じゃないと言っている今の性格も、皆の空気を乱したくなくてできたんじゃないかな」


 頷きこそしなかったが、様子を見るに図星らしかった。

 きゅうと拳を握り、次の言葉を待っている。


「――僕は天乃さんの、優しい心が好きだ。だから何も変える必要はないよ。陰口を言う奴は、何をやってもどうせ言うから放っておけばいい」


 ――青い瞳に、くるりと光が一巡した。


 言い切ったイスカを、セキレイはしばし無言で見つめて。

 ぴく、と肩を震わせて涙を拭った。


「――そんなので、いいの? 私が間違っていたんじゃないの……?」


「間違ってないよ。誰にでも完璧な人間なんていないんだ。それは天乃さんが一番分かっていると思う」


 セキレイは頷いた。

 少し間をおいて、もう一度。

 そっか、そうなんだ、と呟いて、思い出したかのようにカップを持ち上げた。

 釣られてイスカも口に運ぶ。

 コーヒーはすっかり冷めてはいたが、不思議と頭がすっきりする。


「――下地くん。……ありがとう」


 浮かんだ微笑みは、見慣れたものへと戻っていた。

 胸のあたりが、じんわりと温かくなる。

 イスカは、よかったと頷いた。


 ――――にゃあ。


「…………そういえば」


 自分を忘れてはいませんかね、とココが膝の上でひと声鳴いた。

 二人は顔を見合わせる。

 そして小さく笑いあった。






 ――笑いあったというのに。


 どういうことか、FLAPを後にしてからのセキレイはずっと黙ったままであった。

 緊張からか安心からか、帰りはイスカもどっと疲れが出てしまい、あまり声をかけなかったということもあるが、まさかさっきの微笑みが空元気というわけでもないだろう。あれは芯がある眼差しだった。

 

 不安が残っているのだろうか。

 それとも、他にまだ悩みがあるのだろうか。

 帰り際にマロンがサービスしてくれたクッキーの包みを大事に握り、何か考え事をしているようなセキレイを見ていると、言いようのない不安が忍び寄ってくる。


 冷静になって思い返してみれば、本心のままに話しすぎた。

 あの時は言葉を選んでなどいなかったから、何かセキレイの気に障ることを言ってしまったのかもしれない。

 そこまで考えて、イスカはふと気付く。


 ――勢いで、好きだとか言った気がする……。


 さあ、と血の気が引いた。

 この態度はもしや、それで反応に困っているのでは。


 やってしまったと頭を抱えながら、イスカは燃料供給を切った。

 ぱすぱすとエンジンが止まる。

 風防を開ければ、ひんやりとした夜の風に頬を突かれた。もうすぐ夜の帳が下りる。

 ずいぶんと日が短くなったものだ。

 その暗さに、早々に混ざりたいと思った。


「……今日はありがとう。また月曜日に」


 飛行場の出口で、イスカは言った。

 

「……ううん、私こそ。たくさん、話を聞いてくれて」


 セキレイは相変わらず、ぎこちない。

 何かを堪えているような、そんな声だった。

 それが自分のせいなら、早くここから立ち去るべきだ。


 ――自分が逃げたいだけのくせに。


 心の中で己に悪態をつきながら、イスカは踵を返し……。


「――待って」


 ぴたりとその場で止まった。

 振り返れば、細い指先がイスカの服をそっとつまんで、遠慮がちに引っ張っている。

 思わず顔を見た。

 そして、自分が何か勘違いしていることに気が付く。


 セキレイは、困ったような顔ではなかった。

 悲しみの色もなく、ただ今にも泣き出しそうな顔をしていたのだ。


「天乃さん……?」


「……ごめんなさい。――もう少しだけ、一緒にいたい」

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