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073 天乃さんの変化

「エナ、カラ。明日のお昼はひとりの時間にさせてもらいたいのだけど、いいかしら」


「ん? そういえば前はよくやってたっけ。いいよー!」


「そうですね……最近はずっと一緒だったので忘れていました。どうぞ私たちのことはお構いなく」


「――ありがとう」


 そう言うと、セキレイはするりと立ち上がる。

 どこ行くのと聞いたエナに、お手洗い、とだけ答えて教室を出ていった。


「…………」

「――どうしました?」


 黙りこくったエナにカラが尋ねる。

 顎をさすりながら、むぅと唸った。


「セッキー、なんだか……機嫌悪そう?」

 

「――そうですか?」


「うん。なんだかいつもと違う感じ……」






 ふっと振動がなくなり、斜め下へ体が押し付けられる。

 放課後、空の中。この頃は乾いた秋晴れが続いていたが、今日はどんよりと雲が降りていた。

 翼の裏に脚を引き込み、ストルクⅡは雲の下を飛ぶ。


「こんな天気、久しぶりだね」


「ええ、そうね」


「……ティトがさ、こういう日は頭が痛くなるって言ってたんだ。僕は特になんともないんだけど、天乃さんはどうかな」


「私はいつも通りよ」


「……そうか……」


 ぼそりと消えた声の後で、エンジン音だけが相変わらず響いていた。


 ――天乃さんが、どこか変だ。


 いままで機内で会話の主導権を握っていたのは、だいたいいつもセキレイだった。

 初めの頃ならまだしも、素の性格がバレてからは、彼女はイスカとの雑談を絶やすことはほとんどなかった。

 あっても数分のうちには何かしら、言葉のやり取りがあったものだが。


 ――今日のように、離陸してから十分近くも無言が続くことなんてことは前代未聞だ。


 なんだかむずむずしたイスカが話題を振るも、簡素な返事が返ってくるばかり。

 話はいっこうに広がらず、セキレイは再び黙ってしまう。


 なにか嫌なことでもしてしまっただろうか、と考えてみるも、あいにく心当たりが全くない。

 そもそも何かトラブルになるほど、今日はセキレイと話してすらないのだ。


 まるで、二人で通学していない頃の関係性に戻ってしまったような。

 誰に対しても優しくて単調な、完璧美少女の仮面を被ったまま、セキレイはイスカに接していた。


 バックミラー越しに見える顔はわずかな微笑みこそ浮かべてはいるものの、喜怒哀楽がはっきりしない作り物めいた表情をしている。

 相変わらずの整った美しさが、逆に心配になるイスカだった。






 翌日も、その翌日も、それが続いて。

 三日も続いたとなれば、セキレイと親しい四人はさすがに気づく。

 イスカは機内で、エナとカラは教室で、雑談ついでに探りを入れてみるも、セキレイのガードは固かった。

 ティトも様子を見てはいたが、完全なお手上げ状態。

 クラスの皆にとってはいつも通りのセキレイなので、噂などにはならなかったが。


「――ねぇ、下地たちは気付いてるよね?」


「……何の話かな」


「……セッキーのこと」


 昼休み、教室から出ようとしたイスカとティトへ、エナが声をかける。その後ろにはカラがいるのみ。

 セキレイは、すでに出ていった後だった。


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