表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/99

070 天乃さんと借り人

 ティトとエナが異次元の走りを見せ、二人三脚を白チームの圧勝で締めくくったあとも、競技は続いていく。


 一つ前の選抜リレーとは打って変わり、借り人競走は緩んだ雰囲気の中で始まった。

 個人の運動能力はあまり関係がない上に、借り人のお題もランダムとなれば、勝負の分かれ目は運の良し悪し。ぴりぴりしても仕方がない。

 数少ない、肩の力を抜いて楽しめる種目である。


 スタートラインに、選手が横一列で並ぶ。

 一番手前に、セキレイとカラがいた。


「セッキー! カラー!」


 応援席からぶんぶんと手を振るエナに、二人は小さく手を振り返す。

 青色の視線を感じて、イスカも控えめに手のひらを揺らす。ご機嫌なセキレイの振りは、エナやカラよりも少しだけ長い。

 

 イスカは選手たちから目を逸らそうとして――。


「あれは……」


 見覚えのある顔を見つける。

 遠目にも整っている顔立ちの、その男子は。


 (――大吉キリも出るのか)


 いつかの校外学習で、セキレイにアプローチをかけてきた「王子」であった。

 




 

 ピストルの鋭い音が響いた。

 一斉に選手たちが、ばら撒かれた紙を拾いに走る。

 とはいえ書かれたお題が見えないよう二つ折りになっていて、しかも一度取ったら替えられないというルールがあるため、足並みはばらばらだ。

 速くても遅くても、結果はあまり変わらない。


 猛ダッシュを決めた数人が紙を片手に悩む横で、小走りでやってきたセキレイがお題を拾い上げる。

 人差し指でぱらりと開き、記された文字を読む。


「………………」


 セキレイは瞬き二つ分の時間だけ、少し考えた。


 ――そしてふわ、と白髪が揺れる。


 微笑みをたたえて振り返ったその先に、さっきまで座っていた応援席があった。

 我関せず、という顔のイスカが見えた。






「――おっ、天乃が来たぞ」


 横でティトが呟いた。

 もしかしたら自分に――? と、男子勢がにわかに活気づく。

 女子のほうへ行ってくれたらいいのにな、とイスカは少し思う。ただの嫉妬だけど。

 さっ、さっ……とセキレイが立ち止まる。

 応援や野次の飛び交う校庭で、その声はやけにはっきり聞こえた。


「――下地くん!」


 ぎろ、と周りの目がイスカへ集まる。


「――えっと、僕……?」


「ええ。借り人として、来てくれないかしら?」


 フリーズしかけたイスカの肩に、ティトがぽんと手を置いた。行ってこいよと、背中をぐいと押す。


「……わかった」


 ぎらぎらした周囲の視線から逃れるように、イスカが立ち上がった、まさにその時。


「――少しいいかい、天乃くん」


 1-Bの全員が、その声のほうへ顔を向けた。

 エナが顔をしかめた、その主は。


「……大吉くん」


 王子じゃん、と誰かが言った。

読んでいただき、ありがとうございます!

面白いと思っていただけたら、ぜひブックマークをお願いします。


励みになりますので、★評価や感想もお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ