007 イスカと朝の夢
まわりのひとたちが、みんな大声でさけんでいた。
車が何台かあつまっていて、いつもみたいにパパが帰って来るのをまっているのだと思ったけれど、なんだか様子がおかしかった。
だれも嬉しそうじゃない。
だれも笑ってない。
不安だったりあせっていたり、そういう気持ちが風に乗ってやってくる。
ぼくはまわりを見たかったけれど、ママの手がそれをさせてくれなかった。
「ねえママ、どうして見せてくれないの? パパのひこうき、もうすぐ帰ってきちゃうのに」
「……パパね、飛行機がぼろぼろになっちゃって恥ずかしいから、イスカに見せたくないんだって」
「ぼろぼろでも、パパのひこうきはかっこいいよ!」
「……そうね、でもパパは恥ずかしいのよ。だから見ないであげて?」
「……うーん。わかった」
ぼくがそう言ったとき、みんなの声が大きくなった。
「――来た、帰ってきたぞ!」
「消火遅れるな、機体が止まったらすぐだ!」
「くそ、間に合ってくれ!」
ひくくて、やさしい音。空のむこうからかえってくる、パパのひこうきのなき声。
だんだんと近づいてくる。
「パパー!」
ぼくは音の聞こえるほうへ手をふった。
そしたら少しママの手がずれて、すきまから空が見えた。
そしてゆっくりおりてくる、パパの白いひこうき。えほんで見た流れ星みたいに、きれいな赤い尾をひいて――――。
「――――ッ!」
イスカは飛び起きた。
棚の上の目覚まし時計がけたたましく鳴り、窓の外はほんのり明るい。
いつもの朝が来ていた。
「はぁー……」
あくびとため息の混ざったものを吐き、ベッドを出て洗面台へ立つ。鏡の中から、青白い顔が見返してくる。どこか薄汚れた感じがした。
いやな記憶ごとそれらを洗い流そうと、イスカは思い切り顔に冷水を叩きつけた――――。
飛行場に着くと、カバーを脱がされた機体が出発を待っていた。
基本練習機「ストルクⅡ」。キャメルイエローの塗装が目を引く、かつては空軍で訓練に使われていた単発機。
前席に訓練生、後席に教官を乗せて、一人前のパイロットを数多く育ててきた名機のうちの一つが、イスカの愛機である。
「……お、来たか。簡易チェックは済ませといたぞ」
「朝からありがとう、おやっさん」
「いいってことよ。それじゃあ気を付けてな。美少女とのフライト、楽しんでこい」
ばちんとウインクをして、吾妻はどかどかと去っていった。
――イスカとしては余計なお世話なのだが。
小さなため息をついて翼に登る。からからとキャノピィを開けていると、フェンスの向こうで揺れる白い髪が目に入った。
きょろきょろが不意に止まったのを見ると、どうやらこちらに気づいたらしい。
とりあえずそろりと手を挙げると、セキレイはすたすたと走ってきた。
「おはよう下地くん。……しばらく、お世話になるわね」
「おはよう天乃さん。こちらこそ」
ただの顔見知りという間柄らしく畏まった挨拶を交わしてから、セキレイは機体にぺたりと触れた。
「――あなたも、よろしくね」
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