065 天乃さんと心からの頷き
「……分かった。走る時のフォームが違うんだな」
ティトが手をぽんと叩いた。
小走りに戻ってきたイスカが、フォーム? と聞く。
「そうだ。見てっと、イスカは足を伸ばしきらない――ランニングの時のフォームで走ってる。俺はどっちかって言うと大股で走るから、そりゃズレるわな……」
――まあどっちがいいとかはないし、イスカに合わせてみよう。
ティトがそう言いながら紐を結びなおす。
「……じゃあ改めて。さん、はいっ」
――なんかスピード出ないな……。イスカ、今度は俺に合わせてくれ。
「わかった。足を伸ばす感じだね」
「おおよ! さん、はいっ」
――――――――リズム合わねえ!
二人はぺたりと座り込んだ。
あっちを立てればこっちが立たず。
走れはするけど、いまいちぱっとしない。
どぅするかねえ、とティトは天を仰いだ。
「……ティトに合わせるよ。リズムを掴めばなんとかなると思う」
「それもそうなんだが……相手に合わせてると、ふとしたときに危ないからなぁ。運動に慣れてないイスカにそれは酷だろ」
むうと唸る二人の前を、完璧にタイミングが合ったペアが横切っていった。
この時間、練習をしているのはイスカたちのクラスだけではない。今のは1-Cクラス――赤チームの選手だろう。
……速いな、あれと戦うのか。ティトがぼそりと言った。
「そういや、天乃と賀島のペアは上手くいってるのか?」
「……確かにそういえば」
中央のトラックには姿が見えず、二人してきょろきょろと見回す。
「あ、いた」
「あ? どこだ?」
「あそこだよ、校庭の端っこ……ほら走り出した」
「……割と近くにいたな。――って転んでんじゃねえか!」
俺らのクラスやばいぞ、と頭を抱えるティト。
セキレイがエナに手を伸ばし、立ち上がるのが見える。
「……セッキー、足長いぃーっ!」
響き渡るエナの嘆き。
「……ん?」
それを聞いて、ティトは考え込む。
どうしたのかとイスカが覗き込むと、がしっと肩を掴まれる。
「……な、なに?」
「――俺、名案を思いついたわ」
ティトはにやりと笑って、立ち上がり――。
「――おぅい賀島と天乃ーっ! ちょっといいかー!」
そして手を振りながら大声で叫んだ。
「――どしたの有馬」
「お前らにちょっと提案がある……というか大丈夫か? ぼろぼろじゃねえか」
ぽてぽてと歩いてきたセキレイとエナは、歴戦の勇者感が漂っていた。幸い怪我はしていないものの、白い体操服はところどころに土がついている。
「うええー。大丈夫だけどさ、もー悔しい! せっかくセッキーと二人三脚なのに、すぐコケるんだよ」
口を尖らせ、じたばたするエナ。
タイミングはぴったりなのだけど……と苦笑いするセキレイにうんうんと頷いて、でもセッキーの歩幅と合わないの! と文句を垂れた。
「ああ、それは見てて分かった。それでなんだが、ペアを交換しないか? 俺と賀島、天乃とイスカで」
「ちょっとティト!?」
「走り方見てると、そのほうが合いそうなんだよ。天乃は足を伸ばしきってないし、賀島は歩幅の差があるからかめちゃくちゃ伸ばしてる。俺とイスカも上手くいってないんだが、ぶっちゃけ同じ原因でな。走り方が似たやつ同士をくっつければいいんじゃねって」
なるほど、とセキレイが頷く。
エナは口に手を当てて、あらやだ、とでも言いそうににやにやして言った。
「……有馬ぁ、そんなにあたしたちの足を見てたんだぁ?」
「そりゃああんだけコケまくってたら目につくからなー」
「あぁ?」
「……もう二人とも」
セキレイがやれやれと仲裁して、私はいいと思うけれど、とエナに聞く。
エナはセキレイを見た。
「……セッキーとがいい」
「わがまま言わないの。一回試してみましょう? このままじゃ二人とも泥んこになってしまうわ」
「むー……」
渋々エナは紐を解く。
青い瞳は次に、イスカへ向いた。
ティトの手が軽く、背中を叩く。
「――下地くんは、それでいい?」
胸を押さえて、ふーっと息を吐いて。
うん、とイスカは頷いた。
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