062 天乃さんと夏の思い出
ケセラ海岸は、いわば穴場の海水浴場だった。
そのため人もまばらで、人混みを避けてきた家族連れや落ち着いて遊びたいカップルが数組いるくらい。
人気の海水浴場――例えばルティナ海岸――によくいるような、ナンパ目的の男性グループは見当たらない。
だがそれでも、セキレイを見る目は少なくなかった。
陽光に輝く白い髪。
わずかに幼さが残る、整った顔立ち。
すれ違ったカップルの片割れが無意識に目線を引きつけられて、隣の彼女に叩かれていた。
当のセキレイ本人は気付く素振りもなく、ときどき立ち止まってはしゃがんで貝殻を拾っている。
「わ、これは珍しいやつだわ!」
小さいレモンのような塊をつまんで、ほら、とイスカに見せる。
「これは……貝なの?」
「そうよ、タカラガイって言うの。昔の人はお金に使っていたらしいわ」
ひっくり返すとギザギザした裂け目が空いていた。ここに中身が入っていたのだろう。
お宝そのものだわ、と嬉しそうに笑って、セキレイはイスカに顔を寄せた。
「下地くんは何か見つけた?」
「――こんなのとか」
手のひらを開く。それは大きな巻き貝だった。
色は薄い茶色であまり綺麗なものではないが、ころんとした見た目が気になって拾ったものだ。
意外なことに、いいのを拾ったわね、とセキレイは目を細めた。
「……これはね、海を閉じ込めた貝なのよ!」
耳に当てて、うんうんと頷く。
こうやるのよ、と言って、かぽっと耳が貝殻で塞がれる。
「――あぁ、なるほど」
言われれば確かに、こぉお、と波のような音がした。
波というより海風のような。
音が内部で反響して、そう聞こえるのだろうか。
「今日のおみやげ、これは絶対持って帰りましょ! 私のも探そうっと!」
「待って、天乃さんにあげるよ」
「ほんと? じゃあ私、下地くんの分を探すわね!」
それじゃああげた意味がない……と思ったが、口には出せず。
意外にもなかなか見つからず、出店で軽く食事をしてから始めた二回戦めでようやく見つけたころには、日はすっかり傾いていた。
「……ふぅ。すっごく楽しかった!」
仮設のシャワーを浴びて砂を落とし、二人は機体まで戻ってきた。
粗末だが更衣スペースもあったおかげで、着替えはもう済んでいる。真っ白なワンピースが少し眩しい。
「ふふ、下地くん焼けてる!」
「そうかな……自分だとあまり分からないけど」
「私は分かりやすいわよ? ほら!」
後ろを向いて、セキレイが髪を持ち上げる。
真っ白なうなじが露わになる。
「ちょっ……」
「よく見て、紐の跡があると思うの」
「あーうん、そうだね……」
「ちゃんと見た……?」
「見た、見たから!」
「むー……まぁいいわ」
戻された白い髪を、飛び立つ飛行機がさらりと揺らした。一機、また一機と、並んでいた飛行機がプロペラを回し始める。
貨物扉をぱかんと閉めて、二人も操縦席へ乗り込んだ。
「……ねぇ、下地くん」
スタートスイッチを押す直前、伝声管が震える。
「どうかした?」
「――今日は、楽しかったかしら」
もちろんだよ、とイスカは振り返った。
誇張抜きに、世界が広がったような気がする。
誘われなければ海なんて来ることもなかっただろうし、それに何より……。
セキレイと一緒に来られたことが嬉しかった。
言葉には出さなかったが、そんな思いを抱くイスカ。
「……誘ってくれてありがとう。とても楽しかった」
セキレイがにぱ、と微笑む。
名残惜しさを振り切るように、エンジンがばすんと身震いをした。
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