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060 天乃さんの興奮と不注意

 キャペリンハットを頭に載せ、防水バックを肩から提げて、セキレイは準備万端とばかりに振り返った。


「行きましょうっ!」


 ざりっと小さな段差を下りると、地面はコンクリートから細かな砂へ。

 潮の香りを吸い込みながら、さくさくと歩いてゆけば――。


「来たーっ!」


 目の前にはどこまでも続く、ヒスイ色の海が広がっていた。

 白いしぶきを立てて、波がするすると押し寄せる。

 転じたそれを追いかけるように、セキレイはとてとてと駆けていった。

 いったん止まってバックを置く。その上に帽子を載せてから、また走り出す。

 両手を空けた彼女は思いきり、まるで子どものように、海へとダイブ。

 ぱしゃんっ、勢いよく水しぶきが上がった。


「――すごい、冷たくないわ! 気持ちいい!」


 ようやく追いついたイスカへ、満面の笑みを咲かせるセキレイ。

 置いてきた荷物を振り返ってから、イスカも足を踏み入れる。


「――本当だ」


 思っていたより温かくて強い流れが、ふくらはぎを撫でた。そして二人を避けるように分かれて、さぁっと戻っていく。

 

 幼い頃以来の、久しぶりな海。なんだか全てが新鮮に感じて、自然と笑みが浮かんだ。

 肩まで海水に浸かったセキレイが、こっちこっちと手招きをする。

 進もうとして波に押し戻されるイスカを見て、おかしそうに彼女も笑った。





 

 ちゃぷん、と耳元で音がする。

 砂浜から少し離れると、意外にも波は穏やかで、こうやって仰向けになって浮かんでいても沈むことはない。

 だらーっと脱力して、二人はゆらゆらと揺られていた。ちなみに言い出しっぺはセキレイだ。


「……平和ねぇ」


「――うん」


「休みってこうであるべきなのかも……」


「確かに」


「……でも、もっと刺激があるのもいいわねー」


「――もしかして、飽きた?」


「……ふふ、バレちゃった」


 ざば、とセキレイは立ち上がる。お団子にした後ろ髪から、つるると水が滴り落ちた。

 つられてイスカも体を起こし、並んで浜へと歩く。


「貝殻拾いしましょ! 珍しいのがあるかも……下地くんは貝殻詳しい?」


「いや、全然わからないな……」


「じゃあ見分け方教えてあげる。――綺麗なのが珍しいやつよ!」


「そう……なのか?」


「だいたいね。サクラガイとかクチベニガイとか……まあ貝殻の模様とか大きさって個体差があるし、どれでも珍しいと言えば珍しいのよ。目に留まったらどれもお宝!」


「──そうなんだ。意外と詳しいね」


「生き物好きだもの!」


 セキレイは楽しそうに言って、ばしゃばしゃと足を踏み出す。

 

 ……その足は、流れ着いていた海藻を踏んだ。


「――ひゃっ……!」


 がくん、と体が仰け反る。

 すかさずもう片方の足が動いたが……運悪く波に引っ張られて、バランスを保てない。

 上にあったはずの空が、目の前に広がった。


 (ころぶ……!)


 思わず、セキレイは目をぎゅっと瞑った。

 ばしゃ、と音がして、硬いものが首に当たった。

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