006 天乃さん航路の始まり
空もだいぶ薄暗くなってきて、格納庫には明かりが灯る。
埃で薄く霞がかった空間の奥に、これまた埃っぽい飛行機が並んでいた。
あるにはあるんだが、と吾妻がぼやく。
ずらりと翼を揃える機体の列は、なかなか壮観な眺めではあった。
――そのどれもが、骨董品レベルのおんぼろ複葉機であることを除けば。
「……すみません、もう少し新しい機体は……」
「ないな。これだけだ」
「……速度はどれくらい出ますか?」
「お前さんの機体の二割程度ってとこだな」
「それはちょっと……遅刻してしまうので……」
「……仕方ないだろう、こんな辺境の飛行場には余り物しか回ってこないんだ。何せ人気の機体は住民が多い街へ回されるからなあ」
特にこいつらはトロすぎて競争に敗れた試作機でな、ハズレ中のハズレなんだ。ゆっくり飛ばす分はいい機体なんだが――と、吾妻は翼の埃を払いながら言う。
「そもそも速度を気にするほど遠くまで飛ぶのはお前ら学生くらいだし、こいつらでも十分、ここの住民は満足してるからなあ。遠出する奴は滅多にいないし」
――しかもこの街の学生って、僕と天乃さんだけだしな。そりゃハズレしか回ってこないよな……と、イスカは素直に納得した。
そうなると天乃さんには可哀想だが、この飛行機を使う他ないだろう。
早起きすればギリ遅刻せずに行けるかも知れないが、まあ僕には関係ないか。
今度こそ、もう居なくてもいいだろう。
イスカはそっと二人に背を向け、格納庫を出ようと歩き出した。
「……そうだ、イスカの後ろに乗ってけばいい。前々から、複座機に一人で乗っているのは芸がねえって思ってたんだ」
「――おやっさんちょっと待って」
いきなり自分に矛先が向いて、イスカは慌ててUターン。
「なんだ、お前ら仲悪いのか?」
「そういうことではないけどさ……」
「そういえばイスカ。お前の機体の機検《航空機継続検査》は使用者二名で出してやってるが、あれ法律違反だからな? いつもお前しか乗ってねぇんだから、本来は倍額の税金はらわなきゃいけないんだぞ」
「……ぐっ」
「まぁ今から誰かと二人で乗るってんなら、見逃してやってもいいが……これからも一人で乗るってんなら、ちょこーっと申請し直さなきゃならないな」
「それは勘弁してほしいというか……というか天乃さんだって、顔見知り程度の人と登校するのは嫌だろうし」
「ってこいつは言ってるが、お前さんはどうなんだ?」
セキレイは目をぱちくりさせた。
さっきイスカから顔見知りのままでいてほしいと言われた手前、明らかに関係を深めそうなこの提案に乗っていいものか。
けれどもイスカのことを特別嫌いな訳ではないし、そこは否定しておきたいと思う。
「――べつに、嫌ではないわ」
「ちょっと天乃さん?」
「じゃあそれでいいだろう。それとも今すぐ機検更新するか? 違反金はお前に請求するぞ?」
ひ、卑怯だろ……と、恨みがましく吾妻を見ると。
――あ、目が笑ってない。この人本気だ。
「最後の確認な。どうするよ」
「くっ……うっ」
もはや逃げ道は残っていなかった。
「――天乃さん。……後ろに乗ってください」
「ええ。――よろしくね」
申し訳なさそうに、セキレイが頷いた。
……明日から、どうなってしまうのだろう。
続きが気になってもらえたら、ぜひブックマークをお願いします!
★評価も頂けると、とても嬉しいです!




