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058 天乃さんとどぎまぎな一日

 えっと……と言いながら斜め上を向いているイスカを見て、セキレイはふふっと笑う。


「……そんなに考え込まなくても。参考にするだけよ」


 例えばワンピースとか、ショートパンツとか、ビキニとか。ビキニにもいろいろあるのよ、あれとかこれとか――。

 

 陳列されたものを指差しながら、セキレイは解説していく。イスカの脳内で勝手に始まるファッションショー。

 背景は青い海、そこに立つ白い肌のセキレイ。

 ワンピースタイプは確かに似合いそう。

 ショートパンツタイプも、実はやんちゃな彼女にはぴったりかもしれない。

 ビキニは……イスカには少し刺激が強すぎた。好きな子だからというのもあるが、そもそもセキレイは美少女なのだ。誰だって目を奪われる。前方不注意で転ぶ人が出てきそうだ。


「――露出が少ないやつがいいと思います……」


「何で敬語なのよ」


 ――でもなるほど、露出少なめのやつ。セキレイはうんうんと頷いた。

 よかった、引かれてはいないみたいだ。


「……よし。じゃあ下地くん、少し外で待っていてね」


「え?」


「だって何を買ったかバレちゃうでしょ」


 結局、セキレイが袋を片手に出てくるまで、イスカはさっきの柱に寄りかかっていた。

 ――店の外に出られたのは正直、少しありがたかった。






 一階のフードコートで簡単なランチを済ませた後、二人は帰路についた。

 がたごとバスに揺られながら、セキレイはぷるぷると肩を震わせている。

 さっきからずっとこうなのだ。バスに乗る前から――さらに言うなら、フードコートを出た時から。


「――そんなに面白かった……?」


「それはもう……くふっ」


 ことの発端は、イスカが食べ終わったトレイを下げに行った際に男の子がついてきてしまったことだった。

 五歳くらいの子だろうか、兄弟からはぐれてしまったらしいその子はイスカの後ろをとことこと歩いてきて……イスカの顔を見て泣き出した。

 

 ――おにいちゃんじゃない!

 

 イスカはセキレイに言われるまでその子に気付いていなかったので、振り返った瞬間泣き出した男の子に驚いて呆然と立ちすくんだ。

 幸いセキレイがあやしている間に、泣き声を聞いたお兄ちゃんとお母さんが走ってきて、その場は丸く収まったのだが。


「下地くん、この世の終わりみたいな顔してたのよ……何もそんなに絶望したような顔しなくてもって……ふーっ……ふふ」


「いやまあそうだけどさ……びっくりしたんだよ」


「うんうん、そうね、びっくりしたわね」


 片手で口を覆いながら、もう片方の手でセキレイはイスカの頭を撫でた。

 真っ白な肌が朱に染まっているのは照れではなく笑いから。

 その手をやんわりと外したイスカの頬は、それよりもさらに赤かった。

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