057 天乃さんとかわいい水着
広い店内には、服の他にもラケットやボール、サーフボードやトレーニング器具などが並んでいる。
むしろそれらのほうがメインの売り物なのかもしれないが、やはりよく売れるのかファッション系の売り場は入り口からすぐのところにあった。
ここには奇抜な色のものはあまり無い。だいたいが寒色系で、模様が入っていたりいなかったり。
こういうのでいいんだよこういうので、とイスカは少しほっとする。
さっきみたいなのしかなかったらどうしようかと思っていたが、杞憂だったようだ。
無難なものを一つ選んでふと気が付くと、隣にいたセキレイがいない。
振り返れば、なぜか後ろを向いて立っていた。
「……どうかした?」
「――よく考えたら、どの水着にしたか今見ちゃうのってもったいないなって思ったのよ。当日にお披露目するほうが、絶対おもしろいわ!」
楽しそうに説明してくれる。
もちろん私のもね、と付け足すのを聞き、普通ならむしろそっちが本命じゃないか? と思うイスカ。
男の海パンを楽しみにする人がいるのだろうか。まあいいか。
近くにあったビーチサンダルもカゴに入れて、イスカはレジへ向かう。いちおうセキレイからは隠れる側の手で持っていった。
「天乃さんは……そうか、もう買ってあるのか」
「水着? いいえまだよ。今日は私のも買うために来たのだから」
セキレイはちらりと店内を見渡す。
男性用だけでなく、もちろん女性用の水着コーナーもあるにはあったが。
「――どうせなら、かわいいのを買いたいじゃない?」
――ここは自分が入っていい店なのか?
セキレイに連れてこられた店の前で、まず思ったのがそれだった。
まるでお菓子箱をひっくり返したかのようなショーウィンドウ、所狭しと並ぶカラフルな水着は全て女性用のもの。
ポリカーボネートの透明なマネキンに着せられた、下着と見分けがつかないほどの際どいビキニ。
怖気付いているイスカをよそに、セキレイはするりと店内へ入ってしまった。
「……」
さり気なく、店の横にある柱に寄りかかる。
これなら変ではないだろう。
「――何をしているの?」
店の中から、ひょこっとセキレイが顔を出して言った。
「……いや、ちょっと入りづらいというか。男性が入っても大丈夫なの?」
「別に平気よ、私もいるのだし。ちょっと来てくれない?」
おそるおそる足を踏み入れる。
四方八方を水着に囲まれて、別に悪いことをしているの訳では無いのに、なんだか後ろめたさを感じてしまうイスカ。
しかたなく、前をゆくセキレイに目線を固定する。
しゃんしゃん、と音が鳴りそうに揺れる白髪、その間からちらりと覗くミルク色のうなじ――だめだこっちのほうがよろしくない!
「……なにかついてるかしら?」
「ン゙ッ! ……何でもないよ」
あわてて目を逸らす。
幸いセキレイはあらそう、と言っただけで、イスカは胸を撫で下ろした。
けれどほっとしたのもつかの間――。
「下地くんは、どんなのが好みかしら?」
――イスカの心臓は再び跳ね上がった。
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