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055 天乃さんと買い物デート

「――天乃さん……っ」


「今大丈夫? なんだか元気なさそうだけれど」


「ごめん、直前まで母さんと電話してて。またかかってきたのかと思ったんだ……全然大丈夫だよ」


「お母さまと。そうだったの……いいわね」


「……いい、って?」


「何でもないわ。――ところで下地くん、海に行くって話は覚えているかしら」


 喉がごくりと鳴った。

 ――本当にその話だった……! やっぱり行くつもりなのか。


「あ、ああ。覚えてるよ」


「それはよかった。なら水着も買ってあるわね?」


「……いや、まだ買ってない」


 受話器の向こうから、はぁ、と小さなため息がした。自分のそれよりも幾分高くてかわいい音で、イスカの頬が少し緩む。

 すぐに気付いて、ぶる、と首を振った。

 まぁいいわ、多分そうだと思っていたし――とセキレイは話を続ける。

 

「それじゃあ一応、予定を聞いておきたいのだけれど。都合が悪い日ってある?」


「今のところは何もないかなあ……」


「寂しい夏休みね……下地くんらしいけれど」


 苦笑が聞こえて、イスカはぽりぽりと頭をかいた。

 なるようになった結果だろう。自分から友達も作ろうとはしてこなかったし。

 セキレイやティトたちとの交友関係が出来ている今の状況は、奇跡と言っても過言ではない。


「それなら、明日も空いているわね?」


「空いてるけど……まだ水着は買っていないよ?」


「もう。だからその水着を買いに行くのよ」


 ――呆れたその声に、イスカはしばし固まった。






 翌日の朝。

 待ち合わせ場所の飛行場前で、イスカは緊張しながら立っていた。

 よくよく考えれば、これはデートでは……?

 いや意識していなかっただけで、FLAPのときもはたから見ればデートそのものだったのかも、と思いを巡らせ、――あぁ好意に自覚がなかったころが羨ましい。


「おまたせ下地くん。……だけどちょっと早くないかしら? まだ十分前よ?」


「おはよう。――まぁ少し早起きしちゃったから、ね」


 ちなみに嘘は言っていない。ちょっと寝付けなかっただけである。

 セキレイは特に疑うこともせず、そうなの、と納得してくれた。ベージュのスカートをさらりとなびかせ、行きましょ、と歩き始める。

 

 向かう先は飛行場――ではなく、少し歩いた先にあるバス停。今日の目的地は、空を飛ぶほど遠くはない。

 果物の空き箱に平板を渡しただけの、簡素なベンチに座って待てば、五分ほどでバスが来た。

 日焼けしたボンネットがぶるりと震えて、ぽっとガス臭い息をつく。二人はかんかんと段差を上がって、ちょうど空いていた真ん中あたりのシートに座った。

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