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052 イスカの自覚

 スタッフの解説が終わり、ティトたちは急いで部屋を出て、ベンチへ駆け寄った。

 並んで座っていた二人が立ち上がった。


「――イスカ、大丈夫か」


「……うん、もう平気だよ」


「――おう。そうみたいだな!」


 さっきとは目付きが違うことに気づいて、ティトは驚いた。心配そうな表情が、だんだんといつもの軽そうな笑顔に変わっていった。


「――ティト。賀島さん、四重さん。そして、天乃さん。心配かけて悪かった。もう、僕は大丈夫だ」


「はーもう! よかったー!」


「そうですか……それは、よかった」


 喜んだり安心したりと、対照的なエナとカラ。

 ふふ、とセキレイが微笑んだ。こっそり目元を拭ってから、ハンカチをしまった。

 生徒たちががやがやと、皆の後ろを過ぎていく。

 まだまだ、展示は残っている。


「よっし、じゃあ先へ進もー! ちゃんとみんなで!」


「そうだな、行こうぜ!」


 エナとティトが歩き始める。

 カラが二人に振り返って、少しだけ躊躇いがちに、行きましょうか、と促した。

 イスカは頷いて、ちらりと横を見る。

 もちろん、とセキレイが笑った。






 数時間後、空の上。

 学校へ戻るスクールエアの中で、ほとんどの生徒が眠っていた。

 操縦席から扉を挟んですぐ後ろ、客室では一番前に座っていた担任は、背もたれ越しに後ろを振り返る。


「――俺も学生の頃は、一日中眠かったものだ……果たして、どういう理屈なんだろうなぁ」


 しみじみと呟いた。そして膝に乗せていた山高帽子を額に被せて、目を閉じる。


「歳を取って疲れやすくなるのとは、違うよなぁ……」


 ゆっくりと、担任は微睡みの中へ落ちていく。

 一列挟んだその後ろでは、イスカが静かに座っている。目は開いていて、瞬きのときだけ閉じる。

 その隣は、座席表では有馬ティトの席であったが、今は天乃セキレイがいた。

 

 やっぱり少し心配だから、とこっそり席を交換したセキレイは、何度イスカが大丈夫だと言っても聞かずに、ずっと片手を離さなかった。

 眠っていてもそれは変わらず、イスカの左手は未だにセキレイの膝の上にある。

 

 ざらりとしたスカートの感触――強いて言えばその下にある柔らかいものに意識を向けないようにすれば、上から被さる細い手のひらが気になってしまう。

 セキレイの手は、熱でもあるのかと思うほどに温かい。

 

 イスカのすぐ側で、長いまつ毛がゆっくり揺れている。すぅ、すぅと葉擦れのような、微かな寝息も聞こえてくる。

 窓から夕日が差し込んで、セキレイの横顔を淡く照らした。いつものような、けれど少しだけ嬉しそうな微笑みに、目線が自然と惹きつけられる。

 大きく、どくん、と胸が跳ねて。


「――――ああ……やっぱり、そうなのか」


 イスカは天井を見上げた。

 いつからか……いや、会ったときからか。道理で関係が深まることを避けられないわけだ。

 なぜなら、僕は本心で――。


 ――この子のことが、好きなのだから。

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