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005 イスカはなかなか逃げられない

「おやっさん……」


 イスカは呻いた。

 飛行機に乗っている以上、点検や整備は怠ると死に直結する。かといってそれは誰にでもできるような簡単なものではなく、専門知識が必要な作業。

 誰でもできる、離陸前の簡易チェックとはわけが違う。

 

 そのため各地の飛行場には必ず、利用者の機体を整備する整備士がいる。

 おやっさんこと吾妻アヅマヤドリは、この飛行場の整備主任であり、イスカやセキレイの機体を整備している人物であった。


「……別に、関係者じゃないよ。クラスメイトなだけで」


「お前の交友関係の話じゃない。この事故の関係者だろうと言ってるんだ」


「……まさか僕が機体に細工したとでも」


「馬鹿野郎、お前がそんな真似をするわけない事くらい知っとるわ! ただな、故障した機体に手を加えた時点でイスカ、お前も関係者になるんだよ。これからなんで故障したかを調べなけりゃならないからな」


 手を加えたって……あぁ、キャノピィを無理やり引っ剥がしたことか。

 その行為に後悔はないが、こうなると少し――というか、かなり面倒くさい。

 逃げられないことを悟って、イスカは大きくため息をついた。


「もちろんセキレイの嬢ちゃんも来てもらうが、怪我はしてないんだよな?」


「ええ、大丈夫です」


「それはよかった。じゃあ早速ついて来てくれ――イスカ! 逃げんじゃねえ!」





 

 格納庫の片隅で、三人は話し合う。

 セキレイの言うところによると、直接の原因はバードストライク――すなわち鳥とぶつかってしまったことだった。

 いきなり飛び込んできては避けられず――という、飛行機には珍しくないアクシデントだ。

 パイロットの間ではどうしようもないとされていることではあるが、セキレイは自分を責めるような口調で、淡々と説明していた。


 吾妻はイスカにもしっかりと質問した。

 キャノピィを無理やり開けた時に破砕音がしたことなどを、イスカは伝える。


「バードストライクか……だがそれであそこまで壊れるか? だいたいパワーキャノピィ(電動式風防)まで壊れて脱出できなくなるなんて事例、聞いたことないぞ」


 そもそも回路的に独立しているはずだ……だとか専門的な話になってきて、早くもイスカは取り残されつつあった。

 もしかしてセキレイは分かっているのかと横を向くと、こちらを見ていたらしく、あわてて顔を逸らされる。

 向こうも同じことを思っていたらしい。


「……当たりどころが悪かったのだと思います」


「……まぁそれ以外判断のしようがないな。中を開けてみないとわからん」


 がしがしと頭を掻く吾妻。


「ところで、俺のところで直していいんだよな? 行きつけの修理工場とか、あればそっちに回してもいいが」


「特にないので、よければここで。それから代機をお借りしてもいいですか? 明日も学校があるので……」


「代機……あぁ、確かにそうだよな。クソ、失念してた!」


 まあ見れば分かる、ついてきな――と吾妻は歩き出す。

 制服をびしりと伸ばし、続くセキレイ。

 ここで帰ってしまおうかと少し考えたが……。


「――行きましょう?」


 ちらっと振り返ったセキレイに急かされて、イスカはしぶしぶ二人を追った。

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