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049 天乃さんの思いやり

「どうしたイスカ……!? すごい汗だぞ」「……えっ、どしたの下地?」「下地さん!」


 まわりにいた班の皆が一斉に声をかけた。

 集団の後ろの方にいたからか、他の生徒たちはそんな彼らには気付いていない。相変わらず、歓声や悲鳴が映像を彩る。


「……ごめん、何でもない。ちょっとした貧血」


「そんな訳ないでしょう!」


 セキレイが――いつも落ち着いている天乃セキレイが、小さくも鋭く一喝したことに驚いて、イスカ以外の三人はびくりと固まった。

 気づかず見もせず、セキレイは立ち上がったイスカの手を取って扉へと引っ張っていく。


「天乃さん……?」


「――外へ出ましょう。少し休むのよ、私も居てあげるから」


「い……いいよ、一人で行ける……」


「下地くん。――しーっ」


 人差し指を唇に当てるセキレイ。

 ようやく硬直が解けたティトたちが、光が入ってこない程度に扉を開けて、二人と共に部屋の外へ出た。

 少し離れた船窓の下に休憩用のベンチを見つけ、イスカはそこに座らされる。

 セキレイがその横に腰を下ろした。


「――ごめん、みんな。少し休んだらよくなると思うから、先に戻ってて」


「いったいどうしたってんだよ……本当に大丈夫なのか?」


 ティトが顔を覗き込もうと、イスカの前にしゃがもうとする。それを片手で制して、イスカは笑顔を作った。


「平気だって。早くしないと解説終わっちゃうよ。レポート書くのに必須なのに」


「ですが――」


「みんな。下地くんは私が見ているから大丈夫よ。それに三人が聞いていれば、あとで内容を共有できるでしょう? 全員でここにいるより、そのほうがいいと思うわ」


 セキレイの言葉には説得力があった。

 不安そうな顔のまま、ティトたちは頷く。

 扉の隙間から三人がするっと戻って、最後にエナのかかとがその向こうに消えてから、セキレイは少しだけイスカに寄った。

 丸まった背中に、そっと手を置いた。

 

 ――縮んで震えていた心が、優しく広げられていくような、そんな感じがして。


 イスカの寒気が、ゆっくりと溶けていく。


「……落ち着いた?」


「――うん。ありがとう」


「よかった。それにしてもどうして急に――――あっ……」


 何かを思いついて、セキレイは目を見開く。

 引っ張ってきたままのイスカの手を、少しだけ強く握って言った。


「……戦闘機、でしょう」


 跳ね上がりかけたイスカの背中を、細い腕がゆっくりと撫でた。

 再び大きくなりかけた拍動を、包み込むように和らげる。

 無意識に動揺していることに気づいて、イスカは目をつむる。大きく、息を吐く。

 強ばっていた肩の力がゆっくりと抜けた。


「……そうだね。こればかりはどうも、トラウマで」


「…………」


 答えずにセキレイは立ち上がる。

 そしてイスカの前で、しゃがみこんだ。

 その透き通った瞳で真正面からイスカを見据えて、ゆっくりと、言葉を紡いだ。

 

「――下地くん。その辛いこと、私に話してくれないかしら」

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