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044 深まる? 五人の輪

 四人の顔が、一斉に音がした方を向く。


「――――有馬さん……」


「悪ぃ、忘れ物を取りに来ただけだったんだが……」


 頭をぽりぽり掻きながら、ティトは扉を閉めて、


「――すまん。入るに入れないまま、ばっちり聞いちまった!」


 ばちん、と両手を合わせた。

 顔を見合わせる四人だったが……すぐに誰からともなく苦笑が漏れる。


「――いいよ、二人に話したならティトにも言わなきゃだったし、ちょうどよかった」


「……そうか。それはありがたい」


「有馬、まさかとは思うけどさ、バラしたりしないよね?」


「俺が友人を貶めるような事すると思うか?」


「――って言ってるけど下地、どうなの」


 おい、とつっこむティトを無視して、評価をイスカへ丸投げするエナ。

 イスカは笑って頷いた。


「もちろん思わない。助かるよ、ティト」


「たりめーだ! 人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてなんとやら、だ」


 ひく、と笑顔が引きつる。

 

「――こいじ? ごめんなさい、何のことかしら?」


「えっ、やっぱりそうなの!?」


 セキレイが首をかしげた。

 エナとカラが身を乗り出し、イスカは慌てて否定する。


「それは誤解だって言ってる! てかもう分かるだろ今の話で!」


「ああ、そういうきっかけだった訳だな?」


「違うし、分かってて言ってるよね?」


「有馬、後で詳しくね」


「賀島さんも悪ノリしないで」


 ぽかんとするセキレイの隣で、つっこみを入れまくるイスカ。

 そんな様子を見て、カラが小さく吹き出した。






 飛行場までの道を五人で帰る、初めての放課後。

 誤解も解けて……と言っていいのかは微妙なところではあるものの、イスカは心底ほっとしながら歩いていた。

 

 セキレイたち女子勢は二、三歩先で会話に花を咲かせている。隣を歩くティトはにやにやしながら、イスカの肩を組んだ。


「イスカ、俺はお前を見直したよ。まさかあの天乃と二人きりで登下校してるなんてな……やるじゃねえか」


「……言っておくけど、なりゆきでそうなってるだけだからね。そういうつもりはないから」


「嘘つけー。天乃のこと、嫌いな訳じゃあないんだろ?」


「……それはそうだけど」


 ――確かにセキレイのことは嫌いではない。それどころか、好ましく思ってもいる。

 あざとさを感じさせない心遣い。柔らかな物腰。二人の時にだけ見せる無邪気な性格。ふとした時に向けられた笑顔にどきりとしたことも、一度や二度ではない。一人の人間として、イスカはセキレイが好きではある。

 

 ――だけどその好きは友達としての好きで、恋愛感情ではないはずだ。そもそも恋愛なんてしたことがないし、自分には釣り合わないにも程がある。

 少し卑屈な考えをしつつ、イスカはやっぱり違うな、と首を振った。


「……ふーん。じゃあ今のところは、そう言うことにしておいてやるよ」


 やれやれ、とティトは笑みを崩さず言った。

 そういうのって、心の奥で気持ちは決まってるんだよ。そして割とすぐに自覚するもんだ。

 早く素直になれるといいな、と口には出さずにティトは思う。

 そうこうしているうちに、校門まで来ていた。


「――じゃあ皆、またな!」

 

 飛行機を使わないティトが別れる。


「――聞かせてくれてありがとね、セッキー!」


「困ったら、いつでも助けになりますからね」


「――ええ。二人とも、ありがとう」


 手を振ったエナとカラは、最終便のスクールエアへと走っていった。

 見送りながら、イスカとセキレイはお互いを見る。

 そして小さく、笑い合った。


「――なんというか、どうなる事かと思ったけど」


「ええ。……かえってよかったかも――あら?」

 

 一人だけ戻ってくる人影に気づいて、セキレイの言葉が途切れる。

 走ってきたエナは怪訝な顔のセキレイににこりと笑って、


「下地下地、ちょっと」

 

 イスカを呼んだ。


「……何かな」


「一応言っておくね。まあ大丈夫だとは思うけど、念のため」


 ――――セッキーに変なことしたらコロすから。


 耳元で発せられた冷たい声に、不覚にも背筋を震わせるイスカであった。

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