040 天乃さんと訝しむ二人
特に変わったことのない、いつもの放課後。
夏もいよいよ本格的に始まり、そろそろ夏服にしようかと皆が思いはじめた、そんな空の下。
イスカはふと気になって、伝声管を掴んだ。
「……天乃さんって、帰り道誰かに誘われたりしないの? いつも一人で飛行場まで来るのって、よく考えれば意外だけど」
「……あぁそれは、帰りは一人がいいってお願いしているからよ。下地くんと帰るようになるよりもずっと前からね」
――そうでもしないと一人になれなかったし、ずっと気を張っているままになってしまうから。
遠くを眺めながら、セキレイが答える。
「……だけど下地くんとだったら平気。もう素の私を知っているもの、楽に居られるわ」
「――そう言ってもらえて助かる。一人の時間を邪魔してるんじゃないかって思ったから……」
「まさか。……そもそも乗せてもらっておいて、文句なんて言わないけれど」
――いつかエナとカラにも言わなきゃだわ、ずっと隠し通せる訳もないし。真面目な顔でセキレイはつぶやく。
はたから見れば、誤解を生みかねない状況であることは間違いないので、なんとなくで明かすことは避けたい。機を見計らって……できればあまり驚かれないくらいの場が整ってから。
ぐだぐたと先延ばしになりそうな予感を感じながら、二人の放課後は過ぎていった。
同時刻、少し離れた空の下。
二枚のプロペラを快調に回して、スクールエアが進んでゆく。
先ほど二つめの経由地を出発したところで、そこで生徒がぞろぞろ降りた。乗っているのは残りの半分ほど。
クリームイエローのボディに空いた丸い窓から、エナは肘をついて外を眺めていた。
あ、と何かを思いついて、景色から目を離す。隣に座っているカラに話しかけた。
「……そういや、最近セッキー楽しそうじゃない?」
「――そうですか……? いつも通りな気がしますけど」
「いいや、あたしには分かる。目の奥が違うんだ」
「目の奥って……そんなにじっくりと見るものでもないでしょうに……」
「あたしは見てるよ? だって推しの目だもん」
「そうですか……」
自信満々に言いきるエナに、ため息をつくカラ。
エナはころっと表情を変えて、むーっと悩み始めた。
「なにかあったんだろうな、なんだろうな……やっぱり彼氏でもできたのかな」
「……セキレイ、恋愛にはあまり興味なさそうですけどね。告白全て断っていますし」
「いやわからない。女心ってのは突然変わるものなんだよ、もしどこかで運命の出会いでもしたんだったら! いやー、さみしいなあ……」
「なに妄想に本気で落ち込んでいるのですか……」
呆れ声のカラに、エナはむすっとしながら向き直って言う。
「カラは気にならないの? セッキーいつも一人で帰りたがるけど、実は彼氏と会うためとかだったら! もし! そうじゃなくても、一人で帰るってのはちょっと……匂わない?」
「――まあ気にはなりますけど。人のプライバシーに踏み込んでまで知りたいとは……」
「ちっちっち。そうやって物事を知ろうとしないから時代に取り残されるんだよ? これからの時代は自ら行動して知ることが大事なんだから!」
「それ、集会の学校長の受け売りまんまですよね」
「……とにかく! 決めた、明日セッキーをスパイするよ。ほんとに一人で帰るのかを!」
「やめましょうよ……」
「推しの秘密は蜜の味……バレなければ大丈夫!」
「もし知ったらセキレイが悲しみますよ」
「じゃあそうならないようにカラも手伝って」
今すぐにでも飛び出していきそうなエナ。経験則から、こうなった彼女はもう止められないことを知っているカラは、こめかみをぐにぐにと揉んだのだった。
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