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039 天乃さんの意外な好み

 ごゆっくり、とマロンが去っていった後。


 「――あれ、下地くんの飛行機よね。ストルクⅡ」


 カウンターの奥に並んだミニチュアを眺めながら、セキレイが口を開いた。

 灰色や紺やら、くすんだ色が多い翼の中で、キャメルイエローの機体は良く目立つ。

 

 ずっと乗っているの、と聞かれて、イスカはそうだな、免許取ってからずっと……と話し始めた。


「――実家で使ってたんだ。それで僕が引っ越すときに持っていっていいって言われて、それ以来かな」


「なるほど、だから年季が入っているのね――あ、もちろんいい意味よ。いい感じの剥げた塗装って格好いいと思うもの」


 気を遣ったのかと思いきや、本気でそう思ってるようなセキレイ。いつもよりも――そもそも今日はずっとそうだが――目が生き生きとしている。


「……ストルクって初期型からほとんどモデルチェンジされてないのよね。それなのに三十年くらいずっと使われているのって、本当にすごいと思うの。設計は古いけど堅実だし、何より壊れにくいってよく言われているし、そんな名機に乗れているなんて下地くんに感謝しなきゃ!」


「…………それは、どういたしまして」


 高いテンションに圧倒され気味のイスカ。

 ……それはそうと、さっきからセキレイの頬にキャベツが一かけくっついている。

 気づく様子もないので、イスカはちょんと、自分の頬をつっついた。

 首をかしげて、セキレイは頬を触る。気がついた。


「――あらら、失礼」


 素っ気ない顔でナプキンを取る。表情はそのままだった……が、ほんのり耳が赤い。

 可愛いな、とイスカは思った。誤魔化すように一口コーヒーを飲んで、話を戻した。


「……天乃さんって、もしかして相当飛行機が好きなの?」


「……もちろん。そう言ってるでしょう?」


「……いや、猫好きとか犬好きとかそういうあれかと思ってて。まさか塗装の話までするとは思わなかったから」


 セキレイは少し息を呑んで、かすかに目を伏せた。

 

「――ごめんなさい。引くかしら」


「いやいや、引かないよ!」


 イスカは慌てて首を振る。意外だっただけで、思ってたよりマニアックだっただけだから、などと言い訳を連ねる。

 そうね、それは私でも思うわ――と苦笑するセキレイ。


「……空は、晴れるときは晴れて、荒れるときは荒れるでしょう? もちろんそこには意思なんてなくて、ありのままの色を写すの。私はそれが羨ましくて、空へ連れて行ってくれる飛行機が好きなのよね」


「――いいな。空へ連れて行く、か。そんなふうに飛行機を見たことはなかったよ。いいと思う」


「ありがとう。そう言ってくれて嬉しい」


 さら、と白髪が揺れる。

 まだ温かいカップを置いて、セキレイはにこりと笑った。

 白熱電球でほんのり暖色に染まったその姿は、いつものように綺麗で、さまになっていた。

 不覚にもどきりとしたイスカだったが――。


「ところで、下地くんのストルクⅡはストルクⅠの改良版でね――!」


 ――マニアックな話を再開したセキレイから笑いを隠すように、カップを持ち上げたのだった。

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