036 天乃さんとわくわくの島
海の上を五分ほど飛ぶと、陸地が姿を現した。
向こう岸に着いたという訳ではなく、島である。それもある程度の人口が住む、比較的栄えている島だ。
お目当てのカフェは、このフィッツ島にあるらしい。
「――見えてきたわ!」
後席のセキレイが、前方を覗き込む。
近づくにつれて、緑のかたまりだった島影がはっきりしてきた。意外にも広い道が走っていて、カラフルな屋根も多い。
端っこにぽつりと、茶色く絨毯のような滑走路が見えた。雑誌には一つしか飛行場がないと書いてあったから、あれがそうなのだろう。
自動管制装置をオンにする。ちょうど空いていたらしく、すぐに着陸許可が出た。
「――海の側の滑走路っていいわね、気持ちよさそう」
セキレイは羨ましそうな声で呟いた。
同意を返しながら、イスカはスロットルを絞る。
滑走路脇にはいくつかの単発機が、真上からの日差しを受けて眩しそうに整列している。
出迎えを受けるかのように、二人の乗ったストルクⅡはゆったりと滑走路へ降り立った。
小さな飛行場には――イスカたちの地元もそうだが――旅客ターミナルなんてものはなく、出入口も看板が打ちつけられているだけの質素なものだった。
ぎあ、とフェンスの扉を開ければ、なだらかな丘が広がっている。目の前には平べったい石で作られた階段が、上へ向かって伸びていた。
「――ほら、早くっ!」
一段飛ばしでひょいひょい駆け登ってゆくセキレイ。ラフな格好とも相まって、学校での清楚なイメージからは思いもつかない活発な印象を感じさせる。
潮風に背中を押されて、イスカも後を追った。
数歩先で右に左に、純白の後ろ髪が揺れている。
振り返った。
「――いい景色」
イスカも隣に立つ。
さらさらと歌う丘の下に、色とりどりの飛行機が並んでいる。そしてその奥にどこまでも広がる、ちりちり眩しい青い海。
しばらくの間、二人は景色に見とれていた。
それからゆっくりとセキレイが一歩を踏み出して、イスカも続いて、丘上までの短い段差をこつこつと登っていった。
「ここね!」
雑誌の簡単な地図を見て、上を見上げて、セキレイは大きく頷いた。
風に揺られて、木彫りの看板がきゅいきゅいと軋む。前から見た飛行機の下に、コーヒーカップがデザインされたものだ。カップの部分には、こげ茶色で「FLAP」と書かれている。
白塗りの壁は少しペンキが剥がれかけていたが、それがかえって素朴さを醸し出していた。
おしゃれなカフェ、という記事の紹介に身構えていたイスカだったが、それを見て少し気持ちがほぐれる。
「それじゃあ、行きましょ!」
待ち切れない、といった様子で、セキレイはノブを回す。ぶ厚い木の扉が開いて、ちりん、とドアベルが鳴った。
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