035 天乃さんと夏への期待
イスカたちが住む四一区から東へまっすぐ飛んだ先に、目的地のFLAPはある。
爽やかな日差しを浴びて離陸したストルクⅡは、キャメルイエローの翼を青空のもとに広げながら、すいすいと進んでゆく。
ところで、飛行機の事故が最も多いのは離着陸のタイミングである。
それに、人間は緊張が緩んだ時にミスを起こしやすい。
操縦講習でそのことを嫌と言うほど叩き込まれたイスカは、離陸後もしばらく集中したまま、計器とにらめっこし続けている。
後席のセキレイは、ミニチュアのような景色をのんびりと眺めていた。
新緑の時期も終わり、濃くなってきた緑色。
たまにその上を、木造の小さな家が横切っていく。
白い点々は牛か羊。灰色の橋が架かった小川。前方にはスパンコールのようにきらきら煌めく、空の境目が見えてくる。
畑と風車の丘を飛び越え、目下にばっと広がったそれは――。
「海だわ!」
セキレイが歓声を上げた。
まだ少し冷たそうな、けれど楽しそうに飛沫を飛ばして、ヒスイ色のベールが揺れている。
座席に背中をぴたりとつけて、計器盤から距離をとりつつ目を休めていたイスカも思わず、ガラスに顔を近付けた。
「下地くんは、海に行ったことある?」
「……小さかった頃に一度だけ。天乃さんは?」
「私もそんな感じ。でも一度だけではないわ」
――どちらにせよ、大きくなってからは来たことがなかったわね。眩しさを目に焼き付けるように、セキレイはじっと波間を見つめた。
「――泳いでみたい! 水着って近くで売ってるかしら?」
「……さすがにまだ寒いんじゃないかな」
「やっぱりそうよね……」
あんなに綺麗なのに、と残念そうな顔。
すぐにぱっと切り替えて、手を叩いた。
「じゃあ、夏休みにまた来ましょう。水着もちゃんと買って、あとは……うん、何するかも考えておかなきゃ」
天乃さんの水着かあ――と、気づけば脳内の肌色比率が増え始め、ぶんぶんと頭を振るイスカ。
どんな水着だろうと、セキレイは着こなしてしまうのだろう。実際に何を着るのかは、僕には関係のない話。
「だから下地くんも水着買っておくのよ? ずっと浜にいたならお水かけるから」
「……待って、僕も行くの?」
「他に誰と行くのよ。一人で行けってことかしら?」
「いや違うけど。――ほら、賀島さんとか四重さんとか」
「私絶対はしゃぐもの、素がバレちゃうわ。もし二人と行くのなら……その時は覚悟を決めた時ね」
――僕と行く時の覚悟はいらないのか……。
セキレイとどうこうなるつもりは全くないけど、少しは意識してほしいイスカだった。
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