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026 天乃さんはまた来ない

 エンジンのかかっていない機内で、イスカはバックミラーを見た。空っぽの後席が見返してくる。

 

 天乃さんが来ない。……すごいデジャブを感じる気分だ。

 

 グループ発表以来、セキレイはさりげなく声をかけてくるようになった。多分、クラスメイトは情けで絡んであげているとでも思っているのだろう。実際その方が都合がいいけど。

 

 そういう訳で、放課後に用事がある時は伝えてくれるようになり、イスカも待ちぼうけで心配になることはなくなっていたのだが。

 今日は遅れるとは言っていなかったはず。

 もしかしてまた、突然呼び止められてでもいるのだろうか。

 

「……行くか」


 コックピットから出て、翼から飛び降りる。

 前回の失敗を反省して、今回は行動が早いイスカであった。






 校門へ戻ると、ちょうど担任の教師が歩いてくるところだった。

 会釈をするイスカに声をかける。


「どうした下地。忘れ物でもしたか?」


「そんなところです。ところで先生、天乃さんを見ませんでしたか?」


「天乃セキレイか? 見ていないぞ。もう帰ったんじゃあないのか」


「……そうですか」


 それはそうと、と担任は続ける。


「……今、校内に迷子犬が侵入していてな。手が空いている先生たちで探しているところなんだよ。校舎に戻るのなら気をつけてくれ」


「犬ですか……。わかりました」


 じゃあ僕はこれで、と会釈してイスカは歩き出す。

 その背中に向かって、もし見つけたら教えてくれよ、と担任が呼びかけた。





 

 「……いない」


 教室の扉を開け、立ちすくむ。もちろん犬ではなくセキレイのことだ。

 暖色に照らされた机が並ぶ、人が去った後の空間。伸びる人影は、足元からの一つだけだった。


 ――ということは、他の場所に呼び出されている?


 まずいな、とイスカは思った。

 それではどこにいるのか検討がつかないし、すれ違う確率も高い。

 とりあえず、校舎裏にでも行ってみようか?

 そんなことを考えていると、外から声がしたような気がした。

 がらがらと窓を開けて、下を見てみると。


「――天乃さん……けどなんで走っているんだ?」


 校舎の側を、見覚えのある姿が駆けていった。庇に隠れて見えなくなる。後を追うように、犬の吠え声が聞こえた。

 

 さっき聞いた迷子犬だ。追いかけられているのか――!


 窓を閉め、教室を飛び出した。

 階段を二段飛ばしに駆け降り、それでももどかしくなって途中から飛び降り、履き替えた靴のかかとを踏んだまま走る。

 さっき上から見えた場所まで来た。柱の陰から、白く長い髪が覗いていた。


 の、だが。


「しゃがんでいる……のかな?」


 明らかに位置が低い。楽しそうな笑い声も聞こえる。

 どうやら、襲われている訳ではなさそうだった。

 ふう、と壁に寄りかかり、呼吸を整えていると。


「――ほらっ、わんわん! わおーん!」


 イスカは固まった。

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