023 天乃さんの小さな張り合い
クラス発表まで残り一回となった、四回目の授業。
教室の至る所で両腕を広げたくらいの大きさの紙が広げられ、そこに大小さまざまな文字が書き込まれていく。どのグループもテーマを調べ終え、発表用のポスター制作に入っていた。
イスカたちも例に漏れず、床に延ばした紙に座ってひたすらペンを走らせる。
すでに三分の二ほどは埋まっていて、残りのスペースにはカラが考察を書き入れている。すでに内容が書かれた場所はカラーペンで見出しを書いたり、イラストを入れたりという仕上げの段階に差し掛かっていた。
「イスカ、赤のペンないか? さっき使ってたんだが」
「ティトの右足のそばに落ちてる」
「――お、あった。ありがとさん」
「――下地さん、ちょっといいですか」
この項目、自分だったらどちらを先に書きます?
僕だったら……これを先にするかな。
なるほど、ありがとうございます。
作業に戻ろうと、イスカは体の向きを変えた。
セキレイがじっと、彼を見ていた。
「――下地くん。これ、どうかしら」
とんとん、と指で叩いた先には。
「……これペンだけで描いたの?」
「そうよ」
イスカの書いた項目の隣に、気合の入った攻撃機が描かれていた。
影と光で形を作り、輪郭線を描写しないそのタッチは、まるで広告イラストのような完成度。しかも主張し過ぎないように抑えられた色使いのおかげで、文章と上手く馴染んでいる。
……さすが、完璧美少女。美術センスも完璧のようだ。
「……言うことないよ。最高の出来――いや、想像の上を行ってる」
「本当? 嬉しい、すごくこだわったのよ」
やた、とこぶしを握るセキレイ。
素直に思ったままを言ったのだが、セキレイの喜びようを見ていると少し気恥ずかしくなる。さり気なく目線を外せば、さらりとした白いふくらはぎと、それを覆う柔らかそうな靴下が視界に入り、あわててそっぽを向いた。
なんだか少し、見てはいけないものを見てしまったような罪悪感。やわらかそうだ、なんて感想が頭によぎり、イスカは思いきりこめかみを突く。
「他の絵も任せて。ペンをもう一箱取ってくるわ」
そんなイスカには全く気づかず、ばっと立ち上がったセキレイは……転がっていたペンをまともに踏んだ。
意図していないスライド。足が地面を見失う。体が後ろへいきなり傾く。
(危ない!)
手を伸ばすイスカ。倒れ込む先を予測し、支えられるように腕を置く。ぎりぎり間に合った、かに見えたが。
「おっとと」
……イスカの手の位置に、セキレイは倒れなかった。
すぐに片膝をつき、膝立ちの格好でバランスを取る。ぱとん、と小さい音をたてて、ペンを踏んだ足が接地。転びかけたことが嘘のように、何事もなく静止する。
イスカの腕だけが、その後ろでぼーっと伸びていた。
結んだ白い髪が、するりと流れる。振り返った青い瞳に、ぽかんとした顔のイスカが映る。
「――――ッ!」
一瞬の後、あわてて腕を引っ込めた。
額が汗ばむ。いきなり真夏が来たみたいだ。
眩しさの源は、にま、と微笑んで――。
――ありがと。
イスカだけに聞こえる声で、ささやいた。
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