019 天乃さんと予期せぬ接点
「今回から四人一組でグループワークをしてもらう。内容は『先の大戦に関すること』、それを守ればテーマは自由だ」
歴史の教師がチョークを振るう。
黒板に大きく踊る内容を見て、イスカは唇を噛んだ。
幼き日のトラウマ、炎上する機体。
――思い出したくもないことを……!
とはいえ授業ならば仕方がない。心に蓋をし平静を装う術は、生きてきた十年ちょっとの間に習得済みだ。
無心でこなそうと決意するイスカ。
「さて、グループのメンバーだが――」
その一声で、クラス――特に男子――の空気が変わった。
教科書の陰、誰かの背中越し、チラ見やガン見、あらゆるところからの視線が一人に集中する。
――天乃セキレイと一緒のグループになりたい……!
近くでその視線に気付いたカラがため息をついた。
イスカはというと……少しだけ視線を向けた。
そんな教室の空気には全く気付かず、教師の話は続く。
「――出席番号順もクジ引きも他の授業でやっているだろうし、ここはいつもと違うメンバーでやってみようじゃないか。今回は横一列の机、四人ずつで組みなさい」
――ぴし、と空気が割れる音がしたような。
少し間が空いて、皆が指を動かしたり席を立ったりして、自分のグループを探し始める。
自分のグループはどうやらティトが一人目らしく、少し安堵するイスカ。ティトの隣のイスカは二人目。通路を挟んで三人目がカラ、そして最後の四人目は。
――天乃セキレイ。
……とうとう皆の前でセキレイとの接点ができてしまった。しばし固まるイスカ。
ちらっとセキレイを見ると、あらら、とでも言いそうな顔をして口元を押さえていた。
(ラッキィだな、イスカ)
ティトがにやつきながら脇腹を小突く。
黙って小突き返すがそれよりも……。
痛い。男子勢からの、なんであいつが、という視線が痛い。しかもティトは交友関係が広いからか見逃されている気がするし。
イスカは気付かないふりをして、そそくさと机を動かした。
「……それで、テーマはどうするよ」
「戦争関連なら、開戦のきっかけとか各国の動向、あとは戦時中の生活あたりがよくあるテーマですね」
手帳にすらすら、カラがペンを走らせる。
世界全土を巻き込んだ、十年前の「大戦」。
様々な国の思惑が絡み合い、あらゆる土地が焦土と化し、世界人口のおよそ半数が犠牲となった、人類史上最大の世界大戦。
終戦後の国際協力や復興政策により、現在は不自由のない社会が実現されてはいるものの、いまだに戦争の爪痕は風化していない。
それがイスカたちの住む世界の現状であった。
「戦時下の食事とかいいんじゃないか? 俺たちも産まれてはいたが、小さい頃の飯なんてあまり覚えてないし」
「確かに。でも他のグループと被りそうな気もしませんか?」
「ありきたりではあるか……イスカは何かあるか?」
「……戦前と戦後で変わったものとかはどうかな。具体的には思いついてないけど」
ほう、と感心した顔をするカラ。
「いいですね、現代の生活と結びつけられるテーマだと評価も高くなりそうですし」
「――それだったら、飛行機なんてどうかしら?」
楽しそうに、セキレイがぱん、と手を合わせた。
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