016 イスカと恋愛観
帰りの号令の直後、セキレイと目線が交わる。
小さく頷くと、同じものが返ってきた。ゆっくりした瞬きのおまけ付き。いつも通り、先に行っているという意思は伝わったらしい。
一拍おいて、がやがやと教室が騒がしくなる。荷物をまとめてさっさと出ていく者、机に集まって駄弁り始めるもの、授業の課題を解き始めるもの、様々である。
「帰ろうぜ、イスカ」
ちなみにティトとイスカはすぐ帰る組。
ティトはたまに他の友達に誘われて遊びに行くこともあるが、それでも必ず校門まではイスカと帰ってくれる。イスカに友達らしい友達が他にいないことを知っているから、気を遣ってくれているのだろう。
ありがたいような、申し訳ないような気もするが、友人なのだから変に遠慮されても困ると思う。
そういうわけで、うっすら感謝する程度に留めておいているイスカだった。
「そういえばイスカ。天乃にアプローチしたか?」
――なんとか平静を装う。
「……いや、何の話?」
「ほらこの間、天乃のこと気になってるみたいだったから。やめておけとは言ったし、まあ可能性はゼロに近いが、行動しなければゼロのままだぞ」
「あの時は否定したよね? そういうつもりはないって」
「照れ隠しじゃないのか?」
「違うに決まってるでしょ」
こっそり、胸を撫で下ろすイスカ。
セキレイとの関係がバレた訳では無さそうだ。
そもそもアプローチだの色恋だの、そういうものではないけれど。
「つまんねえなー、勇気を出すなら応援してやるのに。骨は拾ってやるよ」
「失敗前提で応援されてもなあ……しないけど」
かははっ。乾いたティトの笑い声。
それからいきなり声を潜め、
「――女子は天乃だけじゃないぞ。彼女のまわりで言えば賀島とか四重とか――わかるか? 賀島エナと四重カラ」
イスカは他人に興味ないからなー、クラスメイトの名前も覚えて無さそうだし――とティト。
僕のこと何だと思ってるんだ、と少しイラッとするイスカだったが、確かに名前くらいしか分かっていないので何も言えない。
「賀島はショートカットの元気系。自由人タイプだ。そんで四重は黒髪ロングで、真面目委員長キャラだがなかなかの美人。天乃が完璧過ぎるから霞んではいるが、二人とも相当レベルが高いと思うぞ?」
「結構女子に失礼な事を言ってない?」
「だからこうして小さい声で話してるんだ」
それから校門まで、知ろうとも思わなかったクラスの女子についてのイントロダクションを聞かされ続け、うんざりしてしまったイスカであった。
愛機に乗り込み、ぐーっと伸びをする。
――誰かと付き合う、か。嫌だなあ……そのために関係を広げるのも面倒くさいし。
話半分で聞いていたものの、やれ誰々の顔がよいだとか性格が可愛いだとか、断片的な情報が脳内でぐるぐる回っていて、わずらわしいことこの上ない。
今のままで十分だ。友達はティトがいるし、登下校を共にするセキレイもいる。
――天乃さんくらいしか、女子と話すつもりもないしな。
聞き方によっては相当理想が高いようにも聞こえるし、その場合はただのクズ男だが、そもそもそういうつもりではないので全く気付かず、イスカはセキレイが来るのを待った。
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