014 天乃さんとかくれんぼ
「……あのさ」
「んー? 別に見られても変じゃないわよ? たまたま会ったから話しているだけだもの」
セキレイはくるり、と向き直って、フェンスに肘をつく。
暑くもなければ冷たくもない、そんな風が二人の間を通り抜けた。まとめた白髪が流されて、イスカの横でぴろぴろ揺れる。
「――初めて屋上に来てみたけれど、人気がないのは納得だわ。風が強すぎるわね」
そう言ってぱしっと髪を掴む。
「さっきはお弁当箱が飛ばされそうになったわ。やっぱり中のほうが安心」
「……お弁当って、自分で作ってるの? 朝早いのに」
「気分によるわね。今日はたまたま」
でもちょっと量が少なかったわ、次はもう少し多く作らなきゃ――と、意外にも健啖家なセキレイ。
イスカはそうだ、と思いついて、紙袋を漁る。
「これ、よかったら。友達と食べるつもりで買ったんだけど、そいつ休んでるのを忘れててさ」
セキレイはびっくりしてイスカを見た。
「……何?」
「……いや、下地くんにも友達いたのね、って」
「……やっぱり自分で食べる」
「冗談よ。友達って有馬くんでしょう?」
「……そうだけど」
「仲いいわよねー。ありがとう、いただくわ」
イスカがため息をついた、まさにその時。
不意に扉のノブが回った。
がちゃり、とはっきり音が響く。
――誰か来る……!
一瞬固まったイスカに、セキレイが手を伸ばす。
「こっちに、早く!」
そう言うが早いか、セキレイはぐいっとイスカを引きずって、排気ダクトの裏へと隠れた。
「セッキー? ちょっと話があるんだけどーって、あれ?」
聞こえてきたのは、クラスでよくセキレイと話している女子――賀島エナの声だった。
(エナ……悪いことしちゃったわ)
セキレイはこっそり手を合わせる。
(……天乃さんも隠れる必要あった?)
(うーん……確かに、離れるだけでよかったわね)
――でも今から出ていく訳にもいかないし、と息を潜める二人。
込み入った場所なので、風が余計に強い。ぴうぴうと隙間を通り抜け、二人の髪を好き勝手に揺らす。
(……ふふ)
(……どうかした?)
(下地くん、鳥の巣みたいになってるわよ)
慌てて頭に手をやると――つんふわ、と変な感触がした。
捲れ上がった前髪を押さえ付け、イスカは軽くやり返す。
(そういう天乃さんこそ)
(なにかしら)
(髪が流されて……鳥の尾羽根みたいに……)
(あら、褒めてくれているの?)
(違うよ!)
慌てて否定するも、確かに印象のいい言葉しか言っていないことに気づく。
黙り込むイスカ。
そんなやり取りの間に、エナは諦めたようだった。
がちゃん、と扉の音がして、屋上は再び二人だけが残される。
「――よかった、バレなかったわね」
「いろいろと心臓に悪い……」
くすり、とセキレイが笑った。
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