011 天乃さんと初めての放課後
学生の一日は早いもので、昼食を取ったと思えばあっという間に放課後がやってきた。
「じゃあね、セッキー!」「セキレイ、また明日」
「ええ、またね」
駄弁っていたクラスメイトもぱらぱらと席を立ち、セキレイは穏やかな笑顔でそれを見送る。
ティトは他クラスの友達と遊びに行くらしく、彼は今回も誘ってくれたが、イスカはやんわりと断った。
いい感じに人も捌け、教室には二人きり。
単に「帰りは先に飛行機出しておくから、後からこっそり来てほしい」と伝えたかっただけなのだが、突然話しかけに行くと周りから怪しまれるのでタイミングを伺っていた挙げ句、放課後になってしまった。
飛行場に着いた時点で言っておけばよかったのだろうが、言い忘れたというのは、自分も割と緊張していたのだとイスカは気付く。
人との関係を云々言っておきながら、美少女と登校するくらいで緊張する自分に少しうんざり。
それはともかく、今から言ってもぎりぎりセーフだろう。そう思って鞄を手に取ると。
「――じゃあ下地くん、帰りましょうか」
「ちょっと待った」
普通に話しかけられて慌てるイスカ。
スパイ映画のエージェントよろしく、目の動きだけで周囲を索敵。……よし、誰もいないようだ。
「……話しかけないようにって言ったじゃないか」
「そうね、だけどもう誰もいないわ。それに帰りをどうするか、話してなかったから」
「ちょうどそれを伝えに行こうとしてたんだよ……」
「え、これから帰るのに? そうしたら一緒に帰るほうが早くないかしら」
「まあそうではあるけど……そうだ、天乃さんはどうなの?」
「どうって?」
「僕と二人で帰っているのを見られたりでもしたら、嫌じゃないの」
「べつに嫌じゃないわ。私、下地くんのこと嫌いじゃないし」
そういう意味ではないと分かってはいる。
分かってはいるが。
――曇りのない真っ直ぐな瞳で言われると、どうしても鼓動が早くなる。
「……あら、勘違いしないでね。嫌いじゃないし感謝しているけれど、好きってほどではないわ。普通よ」
「わかってるよ!」
男性本能として残念な気持ちもわずかながらあるものの、マイナスではなく普通だと言われたことが少し嬉しいイスカだったが。
「それに噂になったら本当のことを言えばいいのよ。やましいことはして無いのだから」
「勘弁して、有名人のゴシップよろしく民衆が押し寄せてくるから」
「民衆って……ふふ」
「とにかく飛行場までは別々、これは絶対」
「つれないわねー」
恐ろしいことを口にするセキレイをなんとか押し留めたことで、イスカはまたしても、どっと疲れてしまったのだった。
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