010 イスカとお節介な友人
旋回して着陸の順番を待ちながら、イスカは伝声管に話しかけた。
「駐機とかはこっちでやっておくよ。天乃さんは先に教室行ってて」
「……? 手伝うわよ?」
「いやいいよ、一人で十分。それより、僕と来たことがバレない方がいいから」
「あー……あまり肯定したくないけど、確かに。みんなゴシップ好きだから……噂になっちゃうわね」
クラスでのイスカは、嫌われてこそないがあまり関わりを持たれない、下の方の立ち位置だった。
そんなイスカとカーストトップのセキレイが一緒に通学していると知られれば、あらぬ噂や誤解が広まることは必至だろう。
「――わかったわ。悪いけど、先に行ってるわね」
「助かる。あと、クラスでも話しかけないでくれると」
「……わかっているわ。わかってるけれど……うぅん」
――そうこうしているうちに順番が来て、イスカは着陸コースに機体をゆっくり滑り込ませた。
飛行場から十分ほど歩いた先に、第五統合学校はある。中高一貫校であり、イスカたちが通う高等部は中等部からのエスカレーター組と編入してきた外部組が入り混じり、中々の生徒数を誇っている。
遠距離通学の生徒も多く、バスの運行範囲より外の生徒はスクールエアを利用したり、イスカやセキレイのように自家用機で来るものも少なくない。
ちなみにバス通学ができるほど近くに住んでいる生徒は少数派である。
イスカが教室に入ると、セキレイはいつものように囲まれていた。
「――それでねセッキー、ここの問題なんだけど……」
「――これはそうね、この公式を変形させれば解けるわよ。xをこっちに持っていって――」
フランクで落ち着いた声が聞こえてくる。
男女別け隔てなく同じように対応する様子はまさに人気者そのもので、自分なら疲れそうだなぁ……と思いつつイスカは鞄を机に置いた。
「よう、イスカ」
「ああ……おはよう、ティト」
イスカにも一応、友達はいる。一人だけ。
有馬ティトはイスカと同じ黒髪の男子だが、その性格はイスカとは似ても似つかない。
筋肉質で言葉遣いが荒いが、明るくて情に厚い。
イスカとは入学当時に席が近かったという理由で話して以来の縁である。
「……なんかお前、疲れてないか?」
「まぁ……いろいろあってね。悪夢も見たし」
「いろいろ、か。そりゃ災難だったな。仕方ない、肩でも揉んでやろう」
「いいって」
かはは、と笑うティト。
――いい奴だよなあ、とイスカは思う。
天乃さんといいティトといい、どうしてこう自分と釣り合わないような人とばかり関わりが生まれるのか。
ふとセキレイの方を見ると、相変わらずの笑顔で話している。今朝のことはちゃんと黙ってくれているようだ。
「――お、イスカもとうとう色恋に興味が出てきたか?」
「――まさか」
目線を辿られたか、ティトがにやにやしてこちらを見ていた。
「――天乃か。確かに惚れても無理はない。容姿性格成績、どれを取ってもパーフェクト。女子に免疫が無さそうなイスカがほいほい好きになりそうだ」
「だから違うって」
「だがその分、競争率は高いぞ? クラス――いや、学年でもトップを争うほどの美少女だ。他クラスの奴から告白されているのもよく見かける」
「話を聞いて、狙ってないから」
「かくいう俺も、実はいいなと思っていたりする」
「聞いてないよ」
かはは、とティトはまた笑う。
それから真剣な顔で言った。
「だがなイスカ、天乃はやめておけ。おそらく彼女の理想は天より高い。天乃に告白した奴は全員撃沈しているそうだし、もしかして女子が好きなのではという噂もあるくらいだ」
「やめるもなにも……」
「まぁ女同士ってのも俺的には唆るが」
「だから聞いてないって」
イスカは半笑いでため息をついた。
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