散歩のお供に魔王はいかが?
よろしくお願いします。
私が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと知ったのは断罪される当日の朝だった。
いくら前世の記憶を思い出そうと当日に何が出来る?幸いバッドエンドは国外追放だけで命を奪われることはない。
「仕方ない。散歩行こ」
諦めの良い私は前世からの趣味だった散歩に行くことにした。
「あれ?卒業パーティーの準備があるから今朝は来れないと言っていなかったかい?」
公園に着くと散歩友達のマオさんが駆け寄ってきた。彼は一見すると退廃的な雰囲気の黒髪金眼の色白美青年だが、中身は早朝の散歩が大好きな好青年なのだ。
「おはようございます。大丈夫でしたから来ました。今日も一緒に散歩をしてください」
「喜んで供しよう。今日は独りだと思っていたから嬉しいよ」
私はマオさんと散歩を楽しんだ後、彼に向かって頭を下げた。
「急な話ですが、もうマオさんと散歩は出来ません」
「何故?ただ歩いているだけなのに。王子が禁止したのか?」
ゲームとは違い、私はヒロインを虐めていない。だけど王子には疎まれ、ヒロインを虐めたという噂が広まっていて学園でも家でも孤立していて濡れ衣だと証明することは出来ない。
政略で婚約した王子に情なんてないし、噂を信じて私を孤立させる同級生や家族にも関わりたくないから国に未練はないけれど、ただマオさんと会えなくなることだけは物凄く悲しい。
「今日で最後だから白状しますが、私はあなたと散歩する時間が何よりも大好きでした。いつまでもお元気で」
普段の会話でマオさんの氏素性を詳しく聞いたことはないけれど、彼が大勢の部下を抱える要職についていることはわかっていた。だから彼は王子から婚約破棄されて国外追放される私が一緒にいてはいけない人。私は返答を待たず、走り去った。
「王子の婚約者という立場でありながら、か弱い女生徒を虐めるなんて!婚約は破棄し、お前を国外追……うわっ!何だ、お前達は!?」
「どうして続編の攻略対象者である魔王がここに!?私、王子より魔王がいいわ!」
王子とヒロインは卒業パーティーの開始と同時に私を断罪しようとしたが、突如なだれ込んできた魔族達にあっという間に拘束されてしまった。
「君が王妃になるなら侵略しなかったが、君に罪を着せて放逐する国なら話は別だ」
大勢の魔族を従えたマオさんが私に手を差し伸べる。
「君を愛してる。これからも一緒に」
「ええ、一緒に」
散歩をと続ける私の唇に、散歩の供はこれからも僕だと彼の唇が優しく塞いだ。
読んでくれてありがとうございました。