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生贄侍女ミシェルと9の黒薔薇 ~死に戻り令嬢に虐げられる侍女が、洗脳から抜け出して時の神(曇らせ好き)に愛されるまで~  作者: 神野咲音


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第50話 失敗

「メリザンド・キャステン、並びにキャステン公爵家当主を捕らえよ」



 シモンの声が、神殿の前庭に響き渡る。


 引きずられ、地面に膝をつかされたメリザンドは、呆然としながらもまだ暴れる元気があった。



「痛い! やめなさい! あたしを誰だと思ってるの!?」



 対して、その隣に押さえつけられた公爵は、普段の大きな態度が嘘のように縮こまっていた。


 メリザンドは忌々しげにシモンを睨みつける。



「あんた誰!? 許されると思ってるの!?」



 シモンは大きくため息をついた。



「あんなに頻繁に来てたのに、ぼくのことも分からないとはね。お兄さまたちが目当てだったのは知ってるけどさ」


「なんのこと!?」


「ぼくは第三王子、全知の伴侶シモン。サクスピエンティムの意思を伝えるために、ここにいる」



 投げやりに名乗って、シモンはさっと手を上げた。


 彼の周囲を固めていた王宮騎士たちの中から、茶色い髪の青年が歩み出る。



「ここにおわすは、建国神、全知を司る神、サクスピエンティムである」



 ティムは、シモンが座る椅子の背もたれに手を置き、薄く微笑んだ。


 ロズの前で見せるような気さくさは感じられない。まるで彫像のように整った表情は、一切の人間性を削ぎ落として、見る者すべてに存在の差異をつきつけている。


 ティムはシモンの耳元に顔を寄せ、何事か囁いた。


 シモンは大きく頷き、声を張り上げる。



「サクスピエンティムの御言葉である。メリザンド・キャステンは神を愚弄し、課された祈りの役目を怠った。その結果、守るべき世界の時だけでなく、時の神ロズノアテムの身をも危険にさらした。これは、決して許されざる大罪である」



 不思議なことに、その声は丘の麓にいる人々の下にまで届いているようだった。


 ぶるぶると体を震わせるメリザンドに向けて、シモンははっきりと告げる。



「よって、メリザンドは斬首刑とし、また手を貸したキャステン公爵も同罪として刑に処す。キャステン家は爵位を剥奪、後に家名抹消となる」



 一拍おいて、人々の歓声が爆発した。


 愕然とした後、何かを喚き散らしたメリザンドの声が、あっさりとかき消される。


 公爵はもはや、一足先に魂が抜け出てしまったかのように、ピクリとも動かなくなっていた。


 ティムがまた何かを囁き、シモンは応じて声を上げる。



「これまでキャステン家が担ってきた役目に関しては、今ここで花を咲かせてみせたミシェルが務めることになる。彼女は神に選ばれた真の伴侶である!」



 騒ぐ人々の頭上を、シモンの声が駆け巡っていく。


 ミシェルの全身に、一斉に視線が突き刺さった。


 壇上から見下ろすと、神殿まで続く道を人々が埋め尽くしているのがよく分かる。その行列はロズノア市まで続いているようだった。


 そんなにも多くの人々が、期待を込めた眼差しをミシェルに向けている。


 実際には、ミシェルの姿が見えている人はほんの一握りだろう。けれど、注目されることなど生まれて初めてのことで、どうしようもなく足が竦んでしまった。



「ミシェル、大丈夫だよ」



 石の黒薔薇を握る手を、ロズがそっと上から包み込む。



「何も心配しなくていい。やることはひとつだけだ」



 ああ、そうだった。ロズの封印を解くために、ミシェルは今、ここに立っているのだ。他のことなんて、気にしなくていい。


 ミシェルは微笑んで、その場に片膝をつく。黒薔薇をロズに向けて捧げ持ち、心を込めて呼びかけた。



「時の神、ロズノアテム」



 間違ってもこの口が滞らないように、慎重に言葉を紡ぐ。



「時の伴侶として告げる。どうか、姿をお見せください。世界に正常な時をもたらしてください」



 時の伴侶がどういう働きをするのか、ロズとティムから聞いていた。祈りによって縁を繋いだ伴侶役は、ロズの力を強め、広めるための媒介となる。だから、この一年祈り続けたミシェルが呼べば、使い果たしたロズの力が戻って封印が解けるはず、と。


 そして、それ以外に方法は無いとも。



「……?」



 何も起こらない。


 何かが光ったり音がしたりするでもなく、ただ冷たい冬の風が吹き抜けるだけ。


 見上げると、ロズが苦虫を噛み潰したような顔をしていた。



「ミシェルはちゃんとできてる。……何が足りない?」



 ハッとしたロズが視線を巡らせるのと、メリザンドの絶叫が上がるのは同時だった。



「ミシェルお前っ! 裏切ったな!!」



 メリザンドがめちゃくちゃに暴れている。ふんわりと巻かれた髪は千々に乱れ、その隙間からギロギロとした憤怒の目が光っていた。


 騎士たちが抑え込もうとした時、メリザンドは一番近くの騎士が腰に佩いていた短剣を抜き取った。怒号が飛び交う。シモンが避難させられている。



「短剣を取り上げろ!」


「伴侶をお守りするんだ!」



 騎士たちの注意が、恐らく一瞬だけ、ミシェルとシモンに逸れた。



「違う! メリザンドを止めろ!」



 そのシモンが、抱え上げられながら必死に出した指示も虚しく。



「主役はこのあたしなんだから!!」



 メリザンドは両手で握りしめた短剣を、自分の胸に、突き立てた。



「メリザ!!」



 隣で抜け殻になっていた公爵が、息を吹き返して悲鳴を上げる。



「あはっ、あははははッ!!」



 高笑いを上げながら、蒼天に届けとばかりに血を撒き散らし、メリザンドが倒れる。


 その瞬間、世界の端が崩れ始めるのが見えた。



「うそ……」



 ロズの封印を解くことができなかった。メリザンドは死に、また時間が戻る。


 また、やり直しだ。



「ミシェル!!」



 必死の形相になったロズが、痛いくらいの力でミシェルの腕を掴んだ。



「とにかくメリザンドから逃げるんだ!」


「ろ、ロズ」


「『次』、あいつに何されるか、」



 わからない、と言い募るロズの声も、ミシェルを心配して歪む顔も、小さな黒い欠片になって消えていく。


 ――九つめの黒薔薇が、教会の外壁に咲いた。

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