第24話 ロズノアテム
まずはね、ミシェル。僕は最初から、君を利用しようとしてた。
あの女の侍女で、いろんな情報を持っていそうだった。それに君は、時間がおかしくなっていることを知ってるだろ。
うん、僕も知ってる。でも僕には、消えてしまった時間の記憶がない。だから、そうだね。
ミシェルこそが、僕にとっては初めて見えた光明だった。
元凶であるメリザンドを廃して、時間の流れを元に戻すための。
僕があの女に認識されるわけにはいかない。だって僕は、記憶を持ち越せないんだから。あいつと敵対してしまって、後手に回るわけにはいかなかった。
とはいえ、それだと解決はできない。時間は壊れたままだし、メリザンド・キャステンは野放しだ。
そうだよ。この事態は、あの女が招いたことだ。
直接の原因はまだ分からないけど、あいつが何かをやらかした。それは確実だよ。
それを突き止めて、僕は時間を元に戻さないといけない。そのために、ミシェルを僕の味方にしたかった。メリザンドから引き離して、僕の手元に置きたかった。
でもさ、君の事をかわいそうだと思ったのも、本心なんだよ。
だって、僕がミシェルをキャステン家に送らなければ、君はもっと幸せな人生を送れていたはずなんだから。
責任感、は違うかな。罪悪感も違う。
僕にもよく分からないんだ。だって、誰かのことをかわいそうだなんて思ったのは、初めてで。
とにかく、僕には思惑があって、君の世話を焼いてた。
それだけじゃないけど、ミシェルを騙してたってところに関しては、僕とメリザンドは同類だ。
だからミシェル、君は僕に怒っていい。どうしてそんな酷いことをしたんだって、詰ってもいい。
後でいくらでも受け止めるから、今は、僕の話を聞いて欲しい。
……うん、ありがとう。
じゃあ、改めて自己紹介するよ。
僕はロズ。ロズノアテム。二番目に産まれ落ちて、兄である空間の神と共にこの世界を創った、時間という概念そのものだ。
この世界の時間でもあり、時の流れを正しく保つ役割を持つ神でもある。
そんなに神像と見比べなくても……。あれは、わざと似てない姿で作らせたんだよ。だいたい、今のこの体だって仮の姿で、本当はもっと違う見た目だから。あんなおっさんじゃないよ!
たまにね、人間の体で、神殿に遊びに来るんだ。時の神ロズノアテムじゃなくて、『ロズという神官見習い』としか認識できないように、ちょっとだけ細工してね。
それで、えっと、そう。僕の仕事は、時の流れを一定にして、正しい方向に導くこと。
一つ瞬きをすれば日が暮れる。今日の後に昨日が来る。そういうことがないように、僕は力を使うんだ。年の初め、時訪祭で行われる儀式がそれだ。
キャステン家の伴侶役は、毎日の祈りによって僕を支えるために選ばれる。祭りの儀式で、僕と共に世界の時間を正常に保つんだ。
先代の時までは問題なかった。先代が死んで、先々代が代理で伴侶役を務めた時も、何もなかった。あの女になってから、世界の時間が壊れてしまったんだ。
メリザンドはまだ、時訪祭で伴侶役を務めてないって?
時間が戻ってるのに、「まだ」なんて通じないんだ。僕は何も覚えていない。時間が壊れた時に何があったのか、誰も知らないんだ。
だからこそ、メリザンドだって何度も死に続けてるんだろう?
……僕が覚えていない理由? それは簡単だよ。メリザンドがやらかした時に、僕は力をほとんど使い果たしたらしいんだ。そして、この仮の体に封印されてしまった。
今の僕は、神としての力なんてひとつも使えない。ただの人間と同じだ。元々、そういう風に創った体だから。何も覚えていないどころか、自力で壊れた時間を直すこともできない。じゃなければ、とっくに元に戻してるよ。
だから、ミシェルが鍵だと思った。ずっとあの女の傍にいた君なら、記憶を持つ君なら!
なんでもいい、ほんの僅かな手がかりでも、欲しかったんだ。
どうして時間が壊れてしまったのか。何をすれば、解決できるのか。それを知るために。
でもミシェルは、奴のことを盲信してた。奴の不利になるようなことは、知ってても言わないだろうなって思ったよ。
だからとにかく、君のことを懐柔することにした。
結果は……、君も、知っての通りだよ。
……ごめんね。
メリザンドは本当に酷い人間だ。あんな邪悪な人間を、僕はほかに知らない。絶対に裁かれるべき人間だし、僕に対する不敬もある。人と神、両方の世界で罰を受けることになるだろう。
でも、本当のことを知った時、ミシェルが悲しむだろうなってことも、分かってたんだよ。
愚かだなって、ずっと思ってた。間違った相手を信じて、付き従って、自分がどれだけ損なわれても気づいてなくて。
どんな顔をするのかなって、いろいろ想像してた。きっと、すごくかわいそうな顔をするんだろうなって。
君が殴られた時、「ほらね」とすら思ったよ。
……こんな風に、怪我をさせたかった訳じゃない。
楽しみにしてたのに、これじゃ全然楽しくないよ。
それに……、それに。
君に確認しなきゃいけないことが、もう一つ増えちゃった。
本当は今すぐ確かめたいんだけど、少しの間我慢するよ。
ねぇ、ミシェル。
僕は、僕のために君とメリザンドを引き離した。今もまだ、君を利用しようとしてる。
やってることは、あの女と大して変わらない。君に優しくして、思うように操ろうとしてる。
かわいそうだから助けてあげたい、って言うのも本音だけど、もし君が時間の修復を邪魔する立場なら、最初から手を差し伸べたりしなかった。
今度こそ、君が決めるんだよ。僕に誘導されるんじゃなくて。あの女の為になる方でもなくて。
ロズノアテムと、メリザンド。
ミシェルは、どっちを選ぶ?




