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夏の夜道

 夏のホラー2024用に書きました。

 うわさの要素は薄いですが、この夏に書きたかった話を書きました。

 前半と後半で雰囲気をわけてます、ホラーはホラー以外が混じってた方が面白いと思ってるからです。

 個人的には好きな感じですが、読んでいただいて面白いと思っていただけたら幸いです。

 今日は早く帰りたい、という時に限って遅くまで残る羽目になる。

 想定外だった残業は私の心と体を疲弊させ、一刻も早く帰りたかったはずの足取りも自然と重くさせる。

 夏の夜、お祭りでもあったのか駅前の大通りはまだ賑やかさをまだ失っていない。

 人々も帰路に着く途中だろうが夏の思い出と夜の煌めきが名残惜しいのか道端に留まっていた。

 いつもの帰り道ではあったが、楽しそうな人々をかきわけるようにして進んでいく気力はなく、私はあっさりと一本それた脇道を進むことを選んだ。


 不思議なもので、初めて通る道というのは目的地に上手くたどり着けない事が多々ある。

 その理由の一つは、無意識的に道というのは碁盤目のように綺麗な直線だと思い込んでいるという事。知らず知らずのうちに緩やかなカーブを歩かされて徐々に進行方向を曲げられていく。気付かずに目的地から少しずつ遠ざかっていくなんてことすらある。

 もう一つの理由は、よくない道を進んだ時だ。

 道にも良い悪いがある。道と言うのはそもそも通るために存在しているもので、本来留まるような場所ではない。しかし、道の場所自体に強い存在理由が出来てしまうと道というよりもその場所に重きが置かれ、通り道としての役割を失ってしまう。だからといって通る者にとってはそんなことは関係ないので画、進行を阻む要因があるということが何かの拍子に悪い作用をすることがあるらしい。

 そうはいっても何もなければそんな事は気にもならないし、道は道である事に変わりないのだから気にしなければいい…


 道の端に置かれた何かのオブジェの残骸が強い存在感を放っていたが、違う道を通るには結構戻らなければいけない事もあって少し早足で進んでいく。

 片側の民家のない自然から葉擦れの音と羽虫の音が混ざって耳に届く。

 蒸し暑さを気にし始めるとじとじととした汗が体を伝う感触にすら不快に感じられてくる。

 この道に漂っている不穏な空気を体が敏感に感じ取って、とにかく嫌な気分になった。

 やっぱり少し引き返してでも違う道を通れば良かった、そう思いチラリと後ろを振り向くと一つの人影があった。 距離はまだ遠くシルエットしかわからないが、恐らく男性がかなりの早歩きで迫ってきているのが見えた。

 背が高く姿勢の正しい歩き方だったので男性だと感じたのだが、その頭が異様に大きく見えた事に直観的な恐怖を感じ、私も早足になる。

 見間違えだろう。きっと帽子か何かで膨らんで見えただけだ。

 自分を安心させる言葉とは裏腹に心臓の鼓動はドンドン大きくなっていく。

 後ろの男はかなり早足に見えたが、足音は自分のものしか聞こえない。

 そろそろ追いついてもおかしくないくらいの時間が経ったのではないか…

 ヤメテオケという頭の中の言葉を振り切って後ろを振り向く。


 私の後ろ、5メートルほどの間を開けたところに男がいた。

 上下ジャージのようなラフな格好をした背の高い男は、何かのキャラクターかのように頭が大きく、顏についている全てのパーツもふざけたように大きく、とてつもなく不気味だった。そのまん丸に見開いた両の目は私を凝視していて…今にもこちらに向かって走り出しそうだった。

 「ヒッ!」

 息の詰まった声にならない悲鳴を上げた私は前を振り帰った動作のままに全力で走り出す。

 男の顔を見たのは一瞬だったが、人間なのかどうかわからない、とにかく気味が悪かった、見てはいけないものだと感じられた。

 走り出した私に後ろの男がついてきているかはわからなかったが、振り返ったらあの不気味な顔が視界に入るのかと思うと怖くて出来ない。

 幸いな事に走り出してすぐにコンビニの明かりが前方に見えた。

 コンビニの強い明かりは眩しすぎてうっとおしいくらいに思っていたが、今離れた位置からも存在を確認出来てすごく安心できるものだと理解できた。

 無事にコンビニへ辿り着くことが出来た私は急いで中に入ろうと自動扉の前に立つがすぐには開かない。

 センサーが認識するまでの間のタイムラグがもどかしい。焦りつい振り向くとすごい形相で迫ってくる顔の大きな男が見えた。

 早く開いて、とう気持ちと裏腹に自動扉は沈黙している。

 おかしい、いくらなんでも時間がかかりすぎるんじゃない??

 店内に直接助けを求めようとカウンターを見ると、初老の店員がこちらを見ていた。確かにこちらを見ているように見えるのだが何も反応がない。まるで岩か無機物かのように微動だにしていなかった。

 気配に振り向くと顏のデカい男が本当に目の前にまで迫っていた。

「イヤァァァァーーーーー!!!」

 咄嗟に、生まれてから今まで出したことないくらいの大声が自分の体から出た。

 それと同時に私は自分の中にもの凄いエネルギーがあふれ出してくるのを感じていた。

 恐い、でも誰も助けてくれないなら戦ってやる。

 そう心に言い聞かせた時にはもう体は勝手に動いていた。

 私は手に持っていたハンドバッグをためらいもなく力任せに振り回した。

 遠心力を載せたハンドバッグは男の頭のど真ん中にヒットする。的が大きいのだから外すはずがなかった。

 ぐにゃりとめり込むような柔らかい感触を残して男の体は横に打ち付けられた。

 立ち上がる間を与えず男の頭髪をがっしりと掴み持ち上げる。

 体がぐにゃぐにゃとして柔らかく不気味な男の体は予想よりずっと軽く、それがまた気持ち悪かった。

 ほんの気持ち助走をつけた私は男の頭をつかんだままコンビニの扉に思いっきり打ち付ける。

 ガンッ!と鈍い音がした後に反応の悪かった扉はさも今起きたかのように急いで開いた。

 最初から開けよ、と扉のセンサーを睨みつけてコンビニの中に入る。もちろん男の頭はまだ掴んで引きずったままだ。

 この異様な光景を目にしてもカウンターの向こうの老人は表情を変えなかった。そのことが私を無性にイラつかせた。レジの真正面にある商品棚に男の頭を擦りつけ、そのまま商品棚の反対側まで押し付けて走りぬける。

 「うらぁぁぁーーーーーー!」

 ガシャガシャガシャとものすごい騒音と長い雄叫びが夜の店内に響き渡る。

 ゆっくりと振り向くとレジカウンターの向こう側で遠目にもプルプルと震えている老人の姿が見え、満足した私は男を放り出して老人へ歩み寄る。

 老人の震えようは尋常ではなかった。

 あまりにも震え方が大げさなのでバカにしているのかと声を荒げそうになったが、ふと違和感に気が付く。老人の厚みが薄すぎてペラペラとしていたのだ。こんな薄い骨格はあり得ないんじゃないか?なにかの病気なのか、それともまっとうな人間ではないのか…

 でもそんなことどうでもよかった、今の私はこの老人が私を助けなかった事、知らん振りしたことに対する怒りを押さえられないだけだ。

 ペラペラの老人の頭を掴み、カウンターに強く打ち付ける。

 ガンッ!と大きな音をたてて跳ね返って上がった老人の顔には苦痛の表情が浮かんでおり、その勢いのまま後ろへとひらひらと倒れ込んだ。ペラペラだから後ろから倒れても大丈夫みたいだった。なんだこれ…

 店内の電灯がチカチカと点滅していて目が痛かったので私は気持ちを落ち着けながら店を後にしたのだった。


 夜道を一人歩いていると疲れと暑さで頭がぼーっとしてくる。

 ふと、先ほどあった事を思い返してみるとあんな乱暴な事を私がしたのだろうか、本当に?

 記憶は曖昧としている。思い出される事は非現実じみていてどこまで本当の事なのか判別ができない。

 なんだったのだろうか、やはりよくない道は通るべきではなかった。

 しかし、心地よい疲れを感じていてそんなに嫌な気分ではなかった。


 後々に聞いた噂によると、あの道の付近では夜の騒音が度々問題になっており、つい最近も女性の雄叫びが夏の夜に30分近くも響き渡ったことがあり住民が怯えているのだという。


 お祭りってあまり好きじゃありません。

 伝統だからやってるってだけで祭りの意味を誰も求めないからです。

 調べるとあんまりいい意味じゃなかったりします。

 でも続いてるのは、群れを成す、寄り集まる、という行為自体に本能的な習性があるのでしょう。

 それは人間だけじゃなくいろんな生物が持つ生存戦略の一つとして、集まる事で強固になるって事だと思います。

 よくないものが見えたり集まったりするのはそういうことの延長だって思ってます、いつも悪意を持ってるんじゃなくて、ただ寄りたい時もあるんでしょう。誰にも知ってもらえないのはやっぱり寂しいんですよ。


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