笑わないと。
笑っていないと
離れていく。
私がいつも笑顔でいる理由。
それはみんなのため。
お母さんのため。
みんなが笑顔になるため。
私の…ため。
小さい頃に、
お母さんに言われた。
「あなたの笑顔は本当に素敵ね。まるで太陽みたい。私も笑顔になるわ。あなたは私の光よ」
そう言われた。
私が中学二年生の時、
お父さんが死んだ。
入院中にガンで亡くなったそうだ。
お父さんがいないなんて、
信じられない。
お父さんが亡くなったその日から、
母は部屋に篭もるようになった。
「お母さん、学校行ってくるね」
「…」
当然返事はかえってこない。
でも私は信じてる。
お母さんがまた部屋から出てくる日を。
だから私はその日のために、
ずっと笑顔でいる。
いつか出てきてくれると。
お母さんが好きだと言ってくれた、
私の笑顔。
だから保ち続ける。
学校に行くと、
みんなにあいさつされる。
「おはよう!」
「おはよう!今日もにこにこだね!」
みんなも笑顔になって欲しいから。
私は笑う。
でも中にはそれが気に食わない人もいる。
「あいつの笑顔って貼り付けてるよな」
「気持ち悪い…なんでいつも笑顔なの…?」
「偽物の笑顔だよね」
偽物。
そう言われた。
何を言っているんだろう。
私の笑顔は本物なのに。
家に帰ると、
私はまたお母さんの部屋の前に立つ。
「ただいま、お母さん」
「…おかえりなさい」
「!」
お母さんが返してくれた。
久しぶりに声を聞いた。
私はそれが嬉しくて、
今しかない。と思い、お母さんに聞いてみた。
「お母さん、なんで出てきてくれないの?」
「…あの人が死んだのは、私のせいなの」
「え…?」
どういうことだろう。
お父さんはガンでなくなったはず。
「お父さんはガンで死んだんでしょ?お母さんのせいじゃないよ」
「ガンなんかじゃないわ…
私が…私が自分の力で殺したのよ」
お父さんは昔からあまり健康とは言えない体だった。
そのため、よく入院していた。
今回の入院は、ガンで入院したそう。
だから私はそれで死んだのだと思った。
でも違ったらしい。
お母さんはお父さんに不満があった。
なにもしてくれないお父さんに。
私が小さい頃、
世話をひとつもしなかったお父さんに。
お母さんは毎日欠かさずお父さんのお見舞いに行っていた。
そんな生活が続く中、
お母さんは参ってしまった。
近くにあった枕を寝ているお父さんの上に置き、押さえつけ、
そのまま窒息死させたらしい。
それがバレるのが怖くて、
私に嫌われるのが怖くて、
お母さんはずっと部屋にこもっていたらしい。
「…お母さん、私がそんなことでお母さんのこと嫌いになると思う?」
「私はお母さんが大好きだよ
お父さんなんか、私の中に元からいないことになってるから」
お父さんはDV気質だった。
病院から帰ってくる度、私とお母さんは殴られ、蹴られた。
私とお母さんの体には、至る所にアザがある。
治らなく、跡になったアザが。
「だから出てきて?
私と一緒にご飯食べよう?
今まで通り、一緒に過ごそうよ」
「…あなたは、こんな私でもいいの?」
「お母さんだからいいんだよ」
「ありがとう…ありがとう…」
その日から、また私はお母さんと一緒に過ごした。
とても幸せだった。
学校以外ではね。
学校に行くと、また机に落書きがされている。
『偽物』『偽善者』『気持ち悪い』
そして今日は花瓶が置かれていた。
ユリの花。
私はそれを笑顔でみる。
「とても綺麗なお花が置かれてるなぁ」
「これ、誰が置いてくれたの?」
私は無邪気な笑顔で周りに問う。
「優しい誰かが置いてくれたんじゃない?」
「良かったねぇ~」
その花を置いたであろう人達が、
笑いながら、私に対してそう言う。
だけど私は怒らず、
「そうだね、嬉しいなぁ」
と言う。
こういうと相手はだいたい怯むからだ。
「な、なによ…つまんないの…」
「行こ?こいつ気持ち悪いよ」
そう言って彼女らは教室から出ていった。
私には、味方になってくれるクラスメイトが多い。
彼女たちの居場所は、明日にはあるだろうか。
「大丈夫?」
「あいつら酷くね?」
「嫉妬してるんだよきっと。ほっとこ!」
そう言いながらみんな近づいてくる
「そうだね!みんな、この落書き消すの手伝ってくれる?」
「もちろん!」
「俺雑巾持ってくるわ!」
「私も手伝う!」
「ありがとう!」
笑顔で返す。
みんな優しいクラスメイト。
笑顔で言えばすぐに力を貸してくれる。
言わば私の奴隷たち。
今日もまた一日が始まる。
偽物の笑顔を貼り付けながら。
家に帰ると、久しぶりにお母さんが出迎えてくれた。
「おかえりなさい」
「ただいまっ!お母さん!」
「ふふ、どうしたの?そんなニコニコして」
「お母さんがいてくれるのが嬉しいから!」
「あらあら可愛いわね
あなたの笑顔は本当に可愛いわ」
お母さんに可愛いと言って貰えた。
お母さんの前では
ちゃんと笑顔でいれてるだろうか。
私はいつしか笑顔が癖になっていた。
人前に立つと、必ず笑顔になってしまう。
笑いたくない。
これ以上、
笑いたくない。
でも笑顔でいないと。
みんなに嫌われてしまう。
だからまた明日も作る。
貼り付けた笑顔を。
また良い一日が始まるといいな。




