真っ黒暗い暗い介
仕事帰りに鵜根川へ寄る。鵜根川は上流から下流までずっと鵜根川だが、途中の、婿鵜町を流れている間のみ『またたき川』と別名で呼ばれ、町唯一の観光名所として親しまれている。大小様々な自然石で形作られた風情ある川姿は、緩やかな流れと相俟って、見る者の心を落ち着ける。なだめる。
ちょっとしたハイキングコースのような道を少し歩くと、またたき川を間近で眺めることのできる空間に出る。正面には川、背後には森林。人工物は休憩用のベンチとトイレくらいしかない。ここは旅情ミステリーにもときどき登場するくらいの、知る人ぞ知る絶景スポット。その場合、たいていここで遺体が見つかる。
僕は仕事が山積みになったりして、ちょっと苦しくなってきたときなんかにここへ来る。ここにしゃがんでぼんやり川の流れを眺めていると、別に考えがまとまることはないけれども、でも、舞い上がったホコリのようにふわふわ浮遊している落ち着きない気分をスッとフラットに均すことができる。
考えをまとめ始めるのは、心を平らにしてからでいい。
六月なので、残業がない限りはまだ空も明るい。定時まで働いてもハイキングコースは危なげなく歩ける。虫もまだ少ない。だけどもうそろそろ、虫除けスプレーなしでは来られなくなるだろう。
川を好むカエルの変わった鳴き声を聞きながら、その居場所を石の上に探していると、背後から声をかけられる。「桶崎?」
どきっとなる。カエルの声も止んだ気がした。振り返ると、犬を連れた女の人が立っている。知らない人だ、と思うが、僕の名前を呼んだってことは知ってる人だ、と改めて思いなおし、よくよく見てみると、花村紗緒だ、中学で同級生だった。髪型は昔からショートだったけど、パーマを当てていてクルクルでわからなかった。
花村はデニムのサロペットパンツを穿いて、ダックスフントの血が混じっていそうなミックス犬をリードに繋いでいた。
花村だと確信しながらも間違っていたら恥ずかしいので、僕は小声で「花村?」と確認し返す。
「そうやあ」と花村は笑う。「桶崎じゃなかったらどうしよう?って思いながらも、桶崎っぽいしなあと思いながら恐る恐る声かけたわ」
「桶崎周平です」と僕は名乗る。「よおわかったな」
「人違いじゃなかったわ。よかった」
「でも、別に会いたかなかったわあ」
仕事帰りだし、仕事着だし、なんだか照れ臭い。それに花村とは町祭りのお神輿のときに会ったのが最後だから……あれが厄年の二十五歳のときだったから、もう八年前だ。やば。遥か昔。しかもそのときにだって花村とは特に言葉を交わしたわけでもないのだ。正直、花村が地元に残っているのかどうかすら把握していなかった。
「あっそ」と花村はあからさまに不機嫌そうにする。「ほんなら行くわ。ばいばーい」
「あー、嘘嘘。怒らんといて」
「ふ。こっちも嘘嘘。ほんなもんで怒らんわ」
「もう三十三やもんな、俺ら」
「ほやってな」笑い合ってから、花村が訊いてくる。「こんなところで何しとるんや? 思い悩んどるんか? 血迷うなや」
「ほんなんじゃねええ」
たしかに、またたき川周辺で自ら命を断つ人はときどきいる。こういう絶景スポットは同時にそういう場所にもなるってことはよくある。「仕事で疲れたときに来るだけや」
「やっぱ人生に疲れとるんやん」
「人生じゃねえ。仕事や」
「あんま悩まんときね。嫌やったら辞めればいいんやし」
「わかっとるわ。そこまで追い詰められとらん」
俺は全然平気。仕事ごときには殺されてやらない。「花村は、仕事は?」
「あははー」と花村は笑っている。「あたしは悩みすぎて無理んなったから辞めたんや、仕事」
花村は物流系の仕事に就いていたけれど、人間関係や業務内容、とにかくいろいろと複合的な問題が生じて精神を悪くしてしまい、去年の秋に退職し、今現在は無職だそうだ。
「ま、いいんじゃねえんか? 嫌々働いとっても面白くないやろ、人生」
「うん、やっぱ好きに生きたいわな。人間として生まれたからには」
「今はもう大丈夫なんか?精神」
「ん? ああ、大丈夫や。ありがとう」
「いや……」
「犬も飼って癒されたしな」
ダックスフントっぽいミックス犬。おとなしい。僕の方へ飛びかかってくる素振りもなく待機している。
「散歩中か。名前なんていうん?」
「サンドウーマンや」
「ふうん、サンドちゃんか」
「おお、よく日頃の呼び名わかったなあ」
「そう呼ぶしかねえやろ」
僕はサンドウーマンを撫でてみようか迷ったが、自分の名前が話題に上っているにも関わらず尻尾も振らない犬はなんだか怖かったのでやめておいた。噛まれそうだ。
「桶崎、結婚しとるんけ?」
花村が不意に訊いてくる。
ああ、三十三にもなると『恋人いる?』じゃなくて『結婚してる?』になるんだな。僕もそろそろ感覚を切り替えないといけないのかもしれない。結婚……。「しとらんよ」
「しとらんのか」
「なんじゃいや。別にいいやんか」
「別にいいけど」
「花村は……しとらんよな、結婚」
「ふは。なんで決めつけるんやって」
「いや、さっきの退職の話んときにもそういうパートナーの話は出んださけ。結婚しとるんやったらそこは普通触れるやろうなと思っただけや」
「あー、そういうね」
「そういう」
「まあ結婚しとったら働きたくないよねえ。専業主婦」
「最近はなかなかそうもいかんやろ。てか家にずっとおるのもそれはそれでキツいんじゃねえ?」
「まあなあ」
しかし結婚していない我々にとっては考えても栓のない話だったので、花村は主旨を戻してくる。「彼女はおるんか?桶崎」
「今はおらんね」
「前はおったんか?」
「まあそれはおるやろ」細かく語りたい話でもないので、僕は反問しておく。「花村は彼氏おるん?」
「まあ、おるよ」
などと言っていたのに、嘘だったのだ。花村紗緒、見栄張り。帰宅してから、なんとなく母親に訊いてみたのだった。
花村も僕と同じく実家暮らし。母親同士には母親同士のネットワークみたいなものが今もなおあるらしく、花村の恋人事情は拡散されて筒抜けだった。毎日毎日自宅にいて、ときどき化粧もオシャレもせずに出掛けて買い物だけして帰ってくる花村に恋人などいようはずもなかった。恋人がいれば定期的にデートへ行くはずなので、その様子がない花村は御一人様だということだ。行き遅れの女……。
花村は特に何ということもない女子だ。中学のときからそうだった。目立つこともないし、逆に地味すぎることもない。シコシコとイラストを描いては友達と見せ合ってキャハーと興奮しているような奴だった……気がする。僕も花村のことはあまり興味がなかったので記憶が薄い。花村は取り立てて可愛くもなかったし、僕はそっちへ目が行かなかったのだ。男子中学生は面食いだから。
でも、花村なんていかにも無難に誰かと付き合ってそのまま結婚しそうな印象だったし、三十三歳にして独身と聞くと意外だった。可愛くはなかったけど、だからこそ普通、無難な人生を歩みそうな雰囲気だったのだ、昔から。まあそんなの、僕がどう思っていようと、なるようにしかならないのだけれど。僕だって自分自身、三十前に結婚するんだろうなと中学生のときには思っていたし。
「なんかそうなってくると、花村はむしろ一生独身って気もしてくるな。おそろしや」と僕がつぶやくと、母親に笑われる。
「あんたも独身やが。なんで上から目線なんよ」
「いやー、自分は棚上げやろ」
「棚の上に隠れとらんと、降りてきてはよ結婚しねや。あ、そうや。あんた紗緒ちゃんと結婚しねや。ほしたら二人とも独身じゃなくなるが」
「いや、なんでよ」なんだよ、その発想。
「あんたも紗緒ちゃんのこと好きなんやろ?」
「なんでじゃ。好きじゃないわ」
「ほんなこと言って、急に紗緒ちゃんのこと訊いてきて。気になるんやろ?」
「だから言ったやん。またたき川んとこで会ったんやって、たまたま。ほんで『彼氏おる』っつっとったから、確認してみたんやが」
「彼氏がおるか気になるってことは好きなんやろが」
「いやいや、そう来る?」
「来るやろ。ちょっと花村さんに訊いといてあげるわ。紗緒ちゃんとウチの周平、どうですか?って」
「それはマジでやめてや。それしたら町から出てくさけな」
「なんでよ。お似合いやん」
「母さん花村のことなんも知らんやろが。俺もよお知らんし」
「ほんなこと言っても、あんた、結婚どうするん? せんつもりなんか?」
しないつもりもないし、するつもりもない。そんなの、したいからってできるものじゃないし、したくなくても流れですることになったりもするのだ。僕自身の口からはなんとも言えない。ただ、親孝行っていう点では、結婚して子供を作って、それを孫として拝ませてやるってのは、してやるべきなんだろうなとは思う。僕が一人前の大人として地に足を着けたところを見せて安心させてやる、ってのも同じくだ。
「まあ、いずれするって。焦らんと待っとってや」
僕が話を終わらせようとしても、母親はチクチクと言い重ねてくる。「彼女にもフラれたクセして、望みはあるんかいね。お母さん、あんたはあの子と結婚するもんやと思っとったのに」
前の彼女にフラれたのはもう五年以上前の話だ。
最近はめっきり行ってないが、二十代の頃は釣りが趣味だった。池、海、川……ブラックバスだろうが海魚だろうが鮎だろうが、なんだって釣った。そういうわけで僕は忙しかったのだけど、自然に溶け込んでロッドを振ってリールを巻いているときに彼女からかかってくる電話がメチャクチャ鬱陶しかった。用事はないが僕がどこにいて何をしているのかを確認せずにはいられないタイプの彼女だった。そして、僕が忙しいときにこそ敢えて僕に応答させることで愛情を感じるタイプの彼女だった。
羊井華純は、鋸木与一っていう高校時代の友人の姉ちゃんの友達だった。そういうルートで紹介され、僕は華純と付き合う運びになった。僕が二十四歳の頃。華純は二十七歳だった。
華純は失恋した直後で、そういう理由もあって僕に依存したがっているようだったし、頻度の多すぎる連絡もそれに由来するものだったんだろうと思う。あるいは、そもそものそういう性格が失恋を招いたという可能性もある。華純の粘性の高い愛情は、最初は可愛らしく思えるものの、慣れてしまうとだんだん煩わしくなっていく類いのものだった。
趣味の釣りを共有することは、華純が魚も虫も苦手ということで不可能だった。付き合う前は釣りにも興味がありそうな素振りだったのだけど、付き合ったあとにカミングアウトされた。まあ付き合う前後で発言が逆転するという話はよく聞く。仕方のないことなんだろう。
僕としては隣にいて愛してくれる存在が欲しかったんだけど、一方で釣りは時間もお金もかかるため、邪魔しないでほしかった。きちんとデートもしているんだから、釣りに干渉してくるのはやめてもらいたかった。もちろん口できちんと伝えた。華純は「わかったよ」と聞き分けよく頷くが、後日、僕がロッドをちょんちょんやってルアーを操っているとまたスマホが鳴る。
うんざりしすぎてしまい連絡をしばらく無視していると、ある日こんな質問をされた。「周平くんは、釣った魚には餌をあげないタイプ?」
僕は華純が釣りに興味を持ったのかと少し嬉しくなったが、妙な質問だったので首を傾げた。食べれる魚は持って帰って食べるし、食べれない魚はリリースするので、どちらにせよ釣った魚に餌なんてあげるはずないだろ。そんなような返事をしたらフラれた。
でも、今になってようやく思う。釣りをしなくなり、趣味をなくして初めて、華純の愛情は尊いものだったんだなと思い知った。恋人の姿が見えなくなったら居ても立ってもいられなくて連絡してしまうだなんて、愛らしいじゃないか。そんなふうにずっと愛してもらえたら、この先なにが起きても乗り越えていけそうじゃないか? 例えその愛情が華純自身の寂しさを紛らわせるための手段だったとしても、知らないフリをしていられそうなぐらいには、それは深くて甘そうだ。
華純とはなんだかんだで四年ぐらいいっしょにいた。別れるとき、僕は二十八歳で、華純は三十一歳。三十代になって四年間付き合っていた相手と別れなければならなかった華純のことを思うたび、僕は断崖の谷間を覗き込んだときのような果てしなさを感じる。今の僕だったら、きっとあのとき、なんとかやり直せる道を探しただろう。いくらなんでも華純を蔑ろにしすぎていた。今となっては取り返しのつかない話で、僕には華純の所在さえわからない。
会社の僕の部署に、笹谷仁良という優秀な女の子がいたのだけど、辞めてしまった。そういう関係で新人さんの教育係が不在となってしまったため、僕が臨時で担うことになった。僕は一応係長なので、緊急事態に見舞われるとたいてい白羽の矢が立つ。
新人さんは、加藤煉奈さん。女の子。二十二歳。本当なら笹谷さんみたいな歳の近い女性が適任だったのだけど、みんな手いっぱいらしくて断られてしまった。とはいえ、加藤さんは今年入社してきた新卒の子……ではなく、一年前から働いているので、そこまで教え込むのに手間がかかるわけじゃない。管理日報の入力方法、定期提出データのまとめ方、それから、近い内におこなわれる新人研修での発表資料に関して、などなど……たいしたボリュームではない。さすがに通常業務中には教えられないので残業になってしまうが。
定時後、僕は加藤さんのデスクを訪ねる。加藤さんは両膝に手を置き、姿勢よく待っている。
恐る恐る「加藤さん」と声をかける。
加藤さんは僕を見て、笑顔で頭を下げる。「桶崎さん。よろしくお願いします」
ウチは上司を呼ぶときにも別に役職名で呼んだりはしない。重要な会議などの恭しい場ではその限りじゃないが、日常的に呼ぶ場合は上司であっても名前で呼ぶ。
加藤さんはキュッとした猫目が特徴的な、明るいセミショートの小柄な女の子。ウチはたいして大きくもない田舎の会社なので、毎年必ず新卒の子を確保できるわけじゃない。なので、加藤さんの若々しいエネルギーはひときわ目立って存在感がある。
僕はまず詫びる。
「ごめんね。僕みたいなおっさんが教育係代行で。急やったし、とりあえずは僕の方からいろいろと指導させてもらうわ」
加藤さんは首を振る。
「全然。桶崎さん、三十三歳でしょう? 三十三やったらまだおっさんじゃないですよ」
「まだ……」
ギリギリの瀬戸際なんだろうか? 自虐してみたクセに、ちょっとショックを受ける。
「顔も若いですし」
「そうかな。結婚しとらんし老けにくいんかな……」
「彼女いないんですか?」
「今はいないねえ」
「最近別れたんですか?」
「いや、だいぶ前やね。もう五年くらい前」
「え、だいぶ昔じゃないですか。それからずっと彼女いないんですか? 寂しくないですか?」
加藤さんは興味津々といった様子でグイグイ来る。僕は早くもたじたじになる。
「寂しい気もするけど、その寂しいのにも慣れてもうた気もして、なんかよくわからん気持ちかなあ」
「前の彼女とは長かったんですか?」
「うーん、四年くらい」
「長っ。長いじゃないですか。なんで別れちゃったんですか? ケンカ?」
「ケンカみたいなもんやね」華純とのことはあんまり触れられたくないので、僕は仕事の話へ移ろうとする。「まあともかく、加藤さん」
「あはは」と笑われる。「訊かれたくないんやね。あからさまに話変えようとしましたね」
「…………」鋭すぎる。いや、僕がわかりやすすぎるのか? 「……そんなこと言うても、仕事の説明を終わらせな加藤さんも帰れんのやさけ」
「あの、煉奈でいいですよ」
「え?」
「加藤じゃなくて煉奈でいいです。私の名前。名字で呼ばれるの、あんまり好きじゃないです」
「ふうん。でも、教育係になった途端に名前で呼び始めたら、みんなから怪しまれるんじゃない?」
「あはは。気になりますー? 私は平気ですよ。周りのみんなも私のこと名前で呼んでくれてますから、大丈夫ですよ」
「そう?」
まあ僕も今現在恋人がいるわけじゃないから、仮に加藤さんとデキてるみたいな噂が社内で立ってもそこまで不味くはならないけれど。「ほしたら、煉奈さん」
「呼び捨てでいいです」
「やー、呼び捨てはなあ」
「ちゃん付けでもいいですよ」
「じゃあ、煉奈ちゃん」
「はい」と返事をして加藤さん……煉奈ちゃんは人懐っこそうに笑う。
「……煉奈ちゃん、モテるやろ?」
可愛らしい顔して。顔立ちは猫だが、犬みたいな性格……のように感じられる。判定するにはまだまだ付き合いが浅すぎる気もするけど。
「モテませんよ」と煉奈ちゃんは勢いよく否定する。「性格がキツいんで。私、けっこう思っとることズバズバ言いますし。男子はそういうの、嫌でしょう?」
「どうやろね。人によるんじゃない? そういう子の方が好みな人だっていっぱいおるやろ」
「そうですかね。桶崎さんの彼女はどんなタイプやったんですか?」
「俺の彼女の話はしないの」シャットアウト。「仕事の話をするよ」
「えっへっへ。桶崎さん面白い。ちゃんとじっくり話すの、初めてですよね」
「ええ? まあそうやねえ」
業務上の伝達みたいな感じで言葉を交わしたことはあるけれど、こんなふうに二人きりになることなんてありえなかったし、そもそも年齢が違いすぎて仕事じゃなかったら声をかける気にもならない。僕と煉奈ちゃんで十一歳差。一回りほど違う。合致する話題がないし、もはや生きている次元さえ異なっていそう。その証拠に、僕は早くも疲弊してきている。まだ本題にすら入っていないというのに。
「これから毎日桶崎さんと話す時間があるんやなあ」と煉奈ちゃんは言うともなくつぶやく。
「え、残業は今日だけやよ? 今日中に一通り説明してまうつもりやさけね」毎日残業する気はないよ。
煉奈ちゃんはニヤニヤと笑って「えー、一日で覚えきれるかなあ」と言う。
たまらん。僕は無意識的に時計を見遣る。まだ五時四十分。もしかしたら花村がサンドウーマンを連れてまたたき川をちょうど散歩しているところかもしれない、となんとなく思う。
付き合うとしたら、同い年以上がやっぱりいいかな。できればちょっと年上がよくて、最悪でも同い年。華純が三つ上だったから、僕はそれくらいの歳の差に慣れている。華純は積極的に僕を引っ張っていくようなタイプじゃなかったけれど、少なくとも僕が率先してリードしてやらなくても「しょうがないなあ」と許してくれるようなタイプだった。それは自身が年上であるという意識が為せる業だと思う。
僕の方は年下気質が身についているようで、自分から能動的に彼女を連れ出して気にかけて甘やかして可愛がるみたいなことはできなさそうだ。やってやれないことはもちろんないだろうが、たぶん疲れる。煉奈ちゃんと話しただけで疲れるんだから、煉奈ちゃんのような年下を連れ歩いていたら、どんどんやつれていきそうだ。
若々しい、とりとめのない無遠慮さに僕は耐えられそうもない。それを思うと、自分も歳を取ったんだなあということに気付く。二十代の頃は、別に女子高生とだって駄弁れるし価値観を共有することだって難しくはないと思っていたのに。この変化は、いつ、何をきっかけに始まったんだろう?
またたき川のせせらぎを聞きながら不鮮明な川面を眺めていると、「桶崎」とまた声をかけられる。花村だ。
「また悩み事? 最近よくおるやん」
「仕事が忙しいんや」とだけ言い、僕は振り返る。
サンドウーマンを連れた花村は、今日はジャージ姿だ。
「忙しいんやったら、働かな。こんなとこにおる場合じゃないやん」
「やめれや。ここでぐらい仕事のことは忘れさしてくれや」
煉奈ちゃんに対する教育は残すところ新人研修に向けての指導だけとなったが、他の業務がまだまだてんこ盛りなのだ。もう少しで今現在の山場は凌げそうだけど、もう少しで力尽きそうでもある。正念場。
「冗談やあ。お疲れ様」
花村が僕の隣に腰を下ろす。サンドウーマンは花村を挟んで僕の反対側でお座りをする。「偉いなあ、桶崎は。偉い偉い。頑張っとるなあ」
花村の声を聞きながらしゃがんでいると、なんだか眠たくなってくる。帰って寝ないと。あくびも出る。
「あんがと。もうちょっとで忙しいのも終わるはずや。そしたらしばらくは楽できるはず」
「繁忙期なんか?今」
「ウチはな。たぶん繁忙期」
「ほしたら、それ終わったらお疲れ様会するう?ここで」
「ここでかいや」自然しかないぜ。「まあなんでもいいけど。花村はいつもここ散歩しとるん?」
「だいたいな。来んときもあるけど」
「そうか。わかった」
「ふ。ここで会う必要もないんやけど。連絡してや」
たしかに。またたき川が待ち合わせ場所みたいになっているけど、普通に連絡を取り合うこともできるのだ。なんか、強いて連絡を取ってまで話したいことがあるわけでもないし、偶然に任せる形で構わないかなと僕は思っていたが……。会えたら喋ればいいし、会えなければ会えないで気にしないし……という考えでいた。
「繁忙期終わったらデートせんけ」と僕は言っている。
「え」
「や、デートって、別に恋人になってってことじゃねえしな。ただなんか、ごはん食べに行かんけ?ってことや。お酒は飲める?」
「お酒は少しだけやな」と花村。「エッチなことしようとしとる?」
「わからん。状況次第じゃない?」
「ほしたら、それは無理やわ」花村はぴしゃりと断ってくる。「あたし彼氏おるさけ」
「いや、おらんやろ」と僕はすかさず切り込む。「彼氏おらんやん、花村」
「いや、おるんやって」
「そんな見栄張らんでいいさけ」
「おるんや」と花村は静かに言う。それから、左手の親指で背後を指す。「この辺りに、いつもおる」
花村の背後には別に誰もいない。夕方の、薄暗くなった空間があるだけだ。しかし花村があまりに真に迫った表情で指差すので、僕はぞわりとする。
「おめえ、いきなり変なこと言うなや。怖ぇな」
ありきたりなリアクションでとりあえず笑って見せるけど、花村は真顔だ。
「ここら辺に立っとるんや。それがあたしの彼氏」
「…………」おいおいおい。「なに言うとんじゃ。誰もおらんやん。なんも見えんぞ」
「今はおらん」
「……もしおったら、俺にも見えるんか?」
「見えんと思う。あたしの彼氏は真っ黒やけど、たぶん他人には見えんと思う」
「…………」
ちょっと待って。今、またたき川のハイキングコースには僕と花村とそれから犬しかいないのだが。いや、真っ黒な彼氏はいなくて当然なんだけど、要するに、僕を除いたらあとは真顔で変なことを言っている花村と花村の犬しかいないってことだ。この状況、怖すぎる。
「今、彼氏の姿見えんさけ言うけど、あたしも桶崎とごはん行きたいよ? でも彼氏が許してくれんと思うんや」
「いやいや、なあ、その彼氏って……お化けってこと?」
こんな質問を誰かにする日が来るとは。
「いや、お化けじゃないと思う……」
「ほしたら、イマジナリーフレンドみたいなもん?」
イマジナリーフレンドってあんまりよくわからないけど、その名称が咄嗟に頭に浮かんだ。「脳内彼氏的なヤツ?」
「そっちの方が近いかも」
「ええ……」
なんか引く。いや、脳内彼氏ぐらい勝手に作って楽しめばいいけど、他人に言うなよ。素知らぬ顔して黙って付き合っていればいいんだし、自分の外側へそれを広めようとするな。
「ごめん」と花村が謝ってくるが、何に謝っているのかもうわからない。
「まあ俺は脳内彼氏に負けたってことやね」
「いや、違うんやって。勝ったとか負けたとかじゃなくて、桶崎とデートしとるのバレたら、あたし酷い目に遭わされるんや」
「……お仕置きされるってこと?」
「うん」
僕は白目を向く。脳内彼氏はドSってことね。嫉妬深いサディストってわけだ。作り込みがすごい。そしてそんなの僕に教えてくるな。
「まあ、お幸せに」
僕は総括的にコメントしてお開きにしようとするが、花村は照れてもいないしのろけてもいない真剣な顔つきで「幸せじゃないわ」と言う。「あたし怖いんやって。こんな彼氏嫌や。もう逃げ出したい」
僕は理解が追いつかない。「お前が自分で作ったんやろ?」
「わからん。作ったつもりなんてない。いつの間にかおったんや。ほんで、あたしに『他の男と話すな』『他の男と遊ぶな』『幸せになろうとするな』って囁きかけてくるんやって」
「いや、そんなんお前が作ったんじゃないんなら脳内彼氏じゃないやろ」
精神的に不味くなってるだけだろ、それ。
「でもあたしにしか見えんし、聞こえんし」
「いつからおるんよ?それ」
「いつから? わからん」
「仕事辞める前からおるんか?」
「え、わからん」
「わからんて……」
「仕事辞める前からおった気もするけど、仕事辞めてからやった気もする」
「…………」
「ねえ、桶崎」花村が僕の腕にしがみついてくる。「あたしもう嫌や。あたしの彼氏、ここやと言葉でしか攻撃してこんけど、夜になると夢の中まで追いかけてきて、あたしのこと殴るんやって。ほんでそのままあたしのこと犯して、あたしの指の骨を一本ずつ順番に折りながら、朝までずっとニタニタ楽しんどるんや」
「いや、怖い怖い怖い怖い。怖いですって」と煉奈ちゃんは怯える。「桶崎さん、そんな人と関わっちゃダメですよ」
残業中、急遽上司より言い渡されたデータの更新をやっていると、煉奈ちゃんが手伝いにきてくれた。助かる。煉奈ちゃんにもできることはたくさんある。日頃のお礼だと言うので、遠慮なく作業を振らせてもらった。
その最中、デスクを隣同士にしていたので花村に関する相談を雑談程度にしてみたのだが、そうすると当たり前といえば当たり前なのか、煉奈ちゃんはドン引きしたのだった。
煉奈ちゃんは桃岡出身なので、婿鵜町周辺の僕や花村とは関わりがない。だからこそ花村のことも赤裸々に相談させてもらった。正直、同性の仕事仲間には言いがたかったし、僕の人間関係内で唯一話しても問題なさそうなのが煉奈ちゃんだったのだ。
しかし、煉奈ちゃんの人生経験からは有益な考えは何も捻り出されなかった。
「その人、変なこと言って桶崎さんの気を引きたかっただけじゃないんですか?」
さすが二十二歳。
「でも、俺は既にごはんに誘っとるんやぞ? 別にこれ以上気ぃ引かんでもよくない?」
「まあ」
「やから、嘘なんやとしたらわざわざ言わんでもいいと思うんやけど」
「不思議ちゃんアピールじゃないですか?」
「でも逆効果でしかないやん」
「気付いてないんじゃないですか? 頭おかしくなっとるんでしょうし」
「うーん」
「三十三歳で不思議ちゃんアピはやばすぎると思いますけどね」
「そんな感じじゃなかったけどなあ」
「頭がおかしいのは間違いないです。あんま近づかない方がいいですよ」
「頭がおかしいっつってもなあ……精神疾患でああなっとるんやとしたら、そんなふうに突っぱねるのもよくないさけなあ。それやったら花村自身が悪いわけじゃないってことやん?」
「桶崎さんは優しいですね」煉奈ちゃんが僕をしげしげと見てくる。「桶崎さんはその人のこと、好きなんですか?」
優しくしたら好きだと思っちゃうのは、若さなのか、煉奈ちゃんの気質なのか。
「別に好きとかじゃないよ。好きかどうかもわからんくらいの時間しか共有しとらんし」
「時間とかじゃないですよ。気分ですよ、気分」と煉奈ちゃんはなぜか得意げに言う。「好きじゃないのに、したいんですか?その人と。桶崎さん、意外とエロいですね」
そこは話さなきゃよかったなと遅ればせながらに悔やむ。
「それこそ気分や気分。なんかそういう気分やったんや、あのときは。今となったらなんであんなこと言ったんかわからんもん」
「え、チャラ。それもちょっとどうかと思いますよ」
「え、十歳も下の子に蔑まれとる?」
「何歳下とか関係ないですよ」煉奈ちゃんはあきれたふうに目を細める。「桶崎さんも桶崎さんでおかしいですけど、その人の方がだいぶおかしいんで、あんまり関わらんといてくださいね。ちょっと遠くから様子見るぐらいにしといた方がいいですよ」
「うーん」
「心配しとるんですからね?私、桶崎さんのこと」
真っ黒な彼氏とはなんだろう? 花村に恋人を作らせまいとし、幸福への道を阻む不可視の存在。それは花村の『自分なんかが幸せになってはいけない』みたいな負い目というか、卑下の気持ちが生み出したものなんだろうか? でも花村からはそんな、自分自身を下等なものと見なしている様子は感じられなかった。まあ八年ぶりに再会して少し会話をしただけなので、僕が全然把握していない要素ぐらいたくさんあるんだろうけど。
あるいは、『彼氏もできず幸せになれない自分』を真っ黒な彼氏のせいにして逃避しているということはありえるか? 真っ黒な彼氏が禁じてくるから自分はそれを遵守して幸福の追求をやめているのだ、と言い張りたいがために生み出した線。
だけど、夢の中にまで現れて自分自身を痛めつけ傷つけてくる真っ黒な彼氏に花村が恐怖しているのも疑いようのない事実っぽかった。間接的に自分の精神を保護する役割だった存在が、行きすぎ、暴走して反乱しているということなんだろうか? 要するに、軽い気持ちで作ったはずのものが時間と共に洗練され、無意識下でも機能するように進化してしまった?
もしくは、本当に花村の意識とは無関係なんだとしたら、花村はお化けじゃないと否定していたけれど、あれは『生前、恋人に執着していた男の霊』だったり『他人の幸福を憎む霊』だったりしてもおかしくはないんじゃないか? それが何かをきっかけに花村に取り憑いてしまった、とか?
いや、やっぱり花村の精神状態を注視する方が自然だろうか。花村は仕事を辞める前後で精神的不調に陥っていた。そこを起点に何かが生まれてしまったと考えるのが、やはりどうしても一番しっくり来てしまう。花村の心の脆さを指摘するみたいであまりいい気分にはならないが。
僕もときどき、左後方に気配を感じる。ぶるりとなるときがある。でもそれは花村の話に影響されて錯覚しているだけで、真っ黒な彼氏が僕のところへ来ているとかではないはずだ。真っ黒な彼女でもない。僕には声も聞こえないし姿も見えない。夢でも会わない。
僕は花村のことが好きなんだろうか? いや、煉奈ちゃんにも言った通り、別に好きってわけじゃない。友達でもないし、幼馴染みというほど古くからの付き合いでもない。けれど、だったらただの知り合いなのかと問われるとそれも微妙な気がする。よくわからないというのが正直な思いだ。でも、嫌いではない。僕は花村のことが嫌いではない。嫌いじゃないんだったら、今後、花村は僕にとっての何かになり得るはずだ。それは親友かもしれないし、他の何かかもしれないし。
仕事を終え、自宅で着替えをしてから改めて花村家へ向かう。先んじて連絡しておいたので、花村が家の前で待ってくれている。
「うす」と僕は言う。
「お疲れさん」と花村は言う。
乗ってきた車を花村家の敷地の隅っこに停めさせてもらい、僕と花村は散歩を開始する。ドライブはしない。
「たまにはサンドウーマン不在の散歩もいいやろ?」
「そうやね」と花村はちょっと笑う。「今さっき、そのサンドウーマンとの散歩から帰ってきたばっかりなんやけど。私歩きっぱなしや」
「健康的でいいんじゃない?」
陽が沈みかけている婿鵜町を歩く。まだまだお互いの顔ははっきり見える。
「今日はどうしたん?」と花村が訊いてくる。
「んー? 別に」
俺はチラリと花村を窺う。さっきから浮かない表情だし、動作もなんだか、なんというか、違和感。ぎこちない。来ているのかもしれない。真っ黒な彼氏が。「会社の忙しいのが、とりあえず一段落したんや」
「おお、よかったな。おめでとう」
「ありがとう。ツラかった」
「これでしばらくまたたき川には行かんくて済むんか?」
「どうやろな。花村が散歩しに来るんやったら、俺も行くかもしれんな」
花村の反応を確かめるようにそう言うと、花村は苦笑して肩をすくめる。苦笑というか、上手く笑えなかったみたいだ。
「あたしは行く日と行かん日があるさけな」
「うん。俺も行く日と行かん日あるさけ」適当に歩く。婿鵜町……といっても花村家の周辺はあまり詳しくないので、本当に適当だ。思いつきで道を折れたりする。「花村って今、よく遊ぶ友達とかおるんか?」
「おらん」花村は首を振る。「知っとるか? ほとんどの幼馴染みが県外に行ってもうとるんやよ」
「なんとなくわかるよ。俺も昔の友達にはずっと会っとらんわ」
「仲良かった子らも、今はどこにおるんやろな。結婚は……しとるやろうな」
「やろうな」
三十三歳だしな。多様性の時代というが、僕のイメージだと三十三歳なら大半の人が一度は結婚していそう。田舎にいる僕達だけが取り残されているのか、それとも、取り残されるような奴だから未だに田舎にいるのか。
路地を進んでいくと大通りが見えてきて、パチンコ屋の跡地に出る。僕が子供だった頃には営業していたパチンコ屋。更地にしてからけっこうな時間が経過している。
僕は立ち止まる。「花村」と呼ぶ。
僕よりわずかに先行する形になった花村も、しかし同じく立ち止まる。「なんや?」
確認だ。「今日は彼氏はおるんか?」
「…………」花村は少し躊躇うような、戸惑うような間を空けてから「おるよ」と言う。
「どこら辺に?」
「…………」前と同じように、左の親指で後方を指し示す。「ここら辺や」
「っらぁ!」僕はそこへおもむろに飛びかかる。「おめえ何が彼氏じゃいや! 花村に迷惑かけとるだけやが! 花村の人生の邪魔するんやったら消え失せろ! 俺がバラバラにしてやるわ!」
花村の左後方で僕は暴れ回る。真っ黒な彼氏を殴ったり蹴ったり、腕で裂いたり、とにかくそのクソ野郎が澄まし顔で立っていやがりそうな位置を攻撃しまくる。端から見たら一人で苦しんでもがいているようだったかもしれない。でも僕は必死だ。腕一本一本、足一本一本の動作が真っ黒な彼氏に対する打撃なのだ。
「…………」花村は唖然としているが、構わず続行する。
「おめえ、今度花村になんかしてみろや! 俺が夢にまで会いに行って、おめえをもっと悲惨な方法でぶっ殺してやるさけな! ここで死んだ方がマシやったっつーほどの悲惨な方法じゃ! わかったら今死ねや! クソが!クソが!」
当初の予定では、真っ黒な彼氏と話し合うつもりでいたのだ、僕は。しかし、元気のない花村を見ている内になんだかボルテージが上がってきて、僕は凶暴だ。真っ黒な彼氏の欠片すらも残してやらないぞという意志のもとに、僕は何もない空間に潜む不可視のクズめがけて暴力を叩き込む。
五分近く格闘していると、一人で暴れているだけでも疲労が滲んでくる。三十三歳の会社員。息が切れる。膝に手をつき、酸素を思いきり求める。
「…………」
花村は何が起こったのか理解できないといった様子で、呆然と目を丸めている。真ん丸になった両目で僕を見ている。
「……彼氏は消えたか?」
僕が尋ねると、花村は大笑いを始める。
「何やっとるんやってー、桶崎。びっくりしたがいね。酔っ払いかいや!」
「驚くべきことに素面じゃ。おめえのためにやったんやぞ。ほんで、あいつはどうなった?」
花村は笑いを止められないまま、笑いすぎてフラフラしだし、僕にしなだれかかる。僕は体力の限界だったが、ここは踏ん張らないと、と花村を抱き止める。
「おらんくなったよ」と花村が僕の顔の近くで目を細める。「床に落ちたプリンみたいに、クチャクチャになって消えてもうた」
「すまんな。彼氏おらんくなってもうたわ」
「ぷふ。あーもう、ラブラブやったのになあ。カップル狩りかいや」
僕も笑う。意外とあっさり倒せた。いや、全然あっさりじゃない。メッチャ疲れた。喉が擦り切れたみたいにツラいし足もプルプルしている。しかし、僕の気迫が姿形を持たないあいつにも届いたんだろう。
「よかった」
「ありがと」と花村は言い、今度はいきなり泣きだす。声は上げないが、僕の胸に顔をくっつけて啜り泣く。
「もう大丈夫や」僕はあやすように花村の頭を撫でる。「もうお前の人生を邪魔するもんはおらんし、好きに生きれや」
「……うん、うん」
「自分の意思で選択して、自分の意思で決めれや」
「…………」
「ほんで、俺からのごはんの誘いも断るなや」
「…………ふ。エッチなことする?」
「せんよ。気分じゃない」
でも、僕の誘いを受けるかどうかはゆっくり考えればいい。今すぐに決めなくたっていい。花村には花村の思いがあるだろうし、それはまだまとまっていないかもしれないし、そして僕は真っ黒な彼氏と違ってゴミカスではないので、女子の答えを急かしたりしないのだ。