小説家になろうの読者とその働きについて 〜今のランキングを作っているのは誰なのか?〜
先日、私のツイートがそれなりにバズった。「埋もれている名作の作り方」という表現がキャッチーだったのと、列挙した埋もれる要素に心当たりのありすぎる書き手さんが多かったことがバズった要因だろう。
ただその時の反応を諸々収集してみると、なろうのユーザー全体があたかも軽い読み物以外求めていないように受け取られていて、かなりの誤解があるなぁと思った。
そこで今回は、なろうのランキングを軸にそれを取り巻くユーザーについて考察していきたいと思う。
まず、なろうは、ざっくり3つのタイプのユーザーグループに分けられる、という仮説を私は持っている。
1番影響力のある層を私はライト層と呼んでいる。彼らはランキングにある作品を好んで読む他、似た傾向の作品を求めて新着一覧や更新一覧にも出没する。一覧でも自分の求めている作品を、タイトルから見分けて読んでいると考えられる。
また、気軽に評価ポイントを入れてくれるしブクマもしてくれる層でもある。それこそTwitterのいいね感覚で入れている人も居そう。
ただし、なろうはあくまで暇潰しの延長だと考えているから、気に入った作品を書籍化したところで買ってくれることは期待できない。だって、なろうで無料で読めるし。コミックならワンチャンあるかもぐらい。
次にミドル層。ここはかなり雑多な層で1人1人の行動様式はバラツキがあると思われる。ランキングは満遍なく読んでいて、わりとどんな傾向の作品でも面白ければ読むと思われる。彼らはランキング外から積極的に作品を探そうとはしない代わりに、外部サイトのオススメなどはチェックする。効率的に面白い作品を読むことを至上としていると言えるだろう。作者をお気に入り登録しているのも、この層がメインだと思われる。
最後にヘビー層。こだわりが強いうえ、なろうの古参ユーザーであることが多く、公式サイトではなくアプリを使って自分の読みやすい環境で読む人もいる。ランキング外から詳細検索などを駆使して探すこともあるが、ポイントは渋くブクマはしても章末や完結まで評価のほうはお預けという人が多い。ライト層が好む傾向には批判的であり、タイトルも含め従来の小説に近いスタイルを好む。しかし、ポイントが渋いせいで基本ランキングへの影響度は極小であり、彼らの好みがランキングに反映されるのは、作品が完結したかそれに類するときだけである。
グループ内のユーザーにはグラデーションがあり、全員が全員このタイプに綺麗に収まるわけではない。例えば私はヘビー層に属すると思うが、章末や完結でなくとも評価ポイントは入れている。
次にこれらのグループをなろうの導線に沿ってプロットするとどうなるかを考えてみよう。
ライト層はすでに書いた通り、ランキングに多く存在する。またそれなりの数が新着一覧、更新一覧をチェックしている。
ミドル層は原則ランキングのみに貼り付いている。一部はアルファブロガーやスコ速などの情報交換サイトで情報を収集しているので、それを経由してランキング外の作品を読んでくれることもある。
実は私も作品紹介エッセイを連載していて、紹介した作品のブクマが12時間で30前後、評価ポイントが20-30増え、毎度その作品がジャンル別ランキングにあがる。それが可能なのは、このミドル層が読者になってくれているからであろうと密かに感謝している。
ヘビー層はランキングのほか、新着一覧、完結一覧、レビューなどを万遍なく見ていて分散しているし、詳細検索で大量の除外ワードを指定して、自分の好みの作品を求めて彷徨っている。個人主義が強い印象なので、正直まったく実態は見えない。ただし、新着一覧からなろう系とは違った傾向の面白い作品を見つけてブクマしたり評価ポイントを入れるのは概ね彼らの仕事のはずだから、他のグループと同様無視できない存在ではある。
グルーブの特徴と生息域はご理解いただけただろうか?
ではその理解を元に、次は作品投稿時に起きる作用について考えていきたい。
まず、ランキングでよく目にするタイプのテンプレ作品を、新人作家が長編として投稿する場合。
基本的に露出する場所は「新着一覧」「更新一覧」のみである。その場所で「どれだけ長く露出できるか」「どれだけ目立つか」「どれだけ読み手の決定を簡便にするか」が勝負となる。新着/更新読みの多くはライト層なので、あらすじ型長文タイトルを選択すれば「目立つこと」と「選択を簡便にすること」を担保できる。あとは露出の長さを工夫できれば、多くのライト層が訪れ、内容次第では一定のポイントを落としてくれる。このためランキング下位に入ることも、そうでない作品に比べると難しくはないだろう。
ランキングに上がった後は、ライト層とミドル層を中心に支持が集まる。ライト層の支持自体はどの作品にも万遍なく入るはずなので、同じ傾向の作品同士でミドル層の評価獲得を競らねばならず、そこでは「面白いかどうか」は一定評価軸として機能していると予想している。つまり同じ傾向の作品群の中で比較するのであれば、上位の作品と下位の作品では概ね作品の面白さの面で差があると判断できそうだ。
一方、テンプレ作品とは一線を画す長編作品を新人作家が投稿する場合はどうか。
「新着一覧」「更新一覧」に露出したところでライト層は見向きもしてくれない。よってヘビー層に気づいてもらう必要がある。そのためにも、やはり1日の更新回数を増やして露出頻度を伸ばしていくしかない。ただその場合 PVやブクマは増えるが評価ポイントはあまり期待しない方が良いだろう。
そんな状況を我慢しながら細々と更新を続けてブクマを増やし、キリの良い章末で読者に評価をお願いするか、完結一覧に載ることでポイントを瞬間的に多く獲得し、ランキング下位に滑り込む。これがこのタイプの作者のセオリーだ。
テンプレを使う場合と比べるとなかなかにギャンブル性の高いアプローチと言わざるを得ない。たまに特異点のような存在であるスコッパーがやってきて、力技でランキングにぶち上げてくれることもあるが、頻度としては稀だ。
それでもなんとかランキングに載った場合、その支持層はミドル層が中心である。このためどうしても伸びきれないことが多い。ランキングでは他の作品との競合が新着一覧ほど激しくないため、ライト層もタイトルだけで判断せずに一定読んでくれる可能性はある。おそらくそこをどれだけ取り込めるかで最終的な順位が変わってくるだろう。ミドル層だけだと50位ぐらいが限界ではないだろうか。
さて、そんな報われないタイプの作者だが「その作者の作風にハマった人は次の作品も読みたいと思ってくれる」ので、逆お気に入り登録は増えていく。
特に毎回作品を完結させる書き手なら、その信頼はかなり大きなものとなる。
最初はギャンブル性の高い状況であったとしても、連載開始と完結のサイクルを繰り返せば、少ないながらもミドル層を取り込んでいける。それが累積すればするほど、新作を発表した時に彼らが即座に読み、期待通りの内容ならばポイントを入れてくれるようになる。その結果ライト層を取り込まなくてもスタートダッシュのタイミングでランキングに打ち上がるのである。だから長期的に見れば、ライト層をターゲットにしている作者に対して不利な部分はある程度解消していけると考えて良い。
しかし実際は、そんな仕組みを新人のうちから知るわけもないから、ランキング作品より面白い作品を書いているつもりなのに読まれない、評価されないと、失意のうちに筆を折ったり他所のサイトに流れていくのである。
以上が読者の働きについての私なりの考察である。
ところで、今回の記事は私自身の経験と観察を土台にはそっているものの推論に推論を重ねているので、限りなく妄想に近いものだ。このため正直これが正解であるとは言いづらく、何となく今の環境をうまく説明できているからヨシ!ぐらいの気持ちである。
だからもし、この考察に違和感があったり、同意できない点があれば感想欄にて指摘してもらえるとありがたい。