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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

卒業

作者: なす

大学を卒業する一か月前だった。

不安とか寂しさとか、そういうのを全部を消化するために、私たちは旅行に来ていた。


まだ案外寒くて、日本海には灰色の雲が広がっている。

行き先も適当に決めて、その場その場で行きたい場所へ行って、その終着点がこの海っていうのは、なんだか私たちにぴったりだった。

羽山は、「よっ」と言いながら芝生に座った。


「なんだかんだ、いい4年間だったね」

「そだね」


私たちの4年間をちゃんと締めくくらなきゃいけない。

それでも私は未練がましい。


「卒業しても、こんな風に遊べるかな」

「んー。無理じゃない?」

「ドライだなあ」


羽山が言うからには無理なんだろう。


「もうちょっと粘ってよ」

「私もあんたも、社会人になったら変わってくでしょ。学生気分のまま社会人になる方が問題だし。例えば私が会社のおっさんと不倫してあんたが私を許せなくなったり、会社がすっごいパワハラ気質でどんどん私の性格悪くなったり、あんたが結婚して子ども作って共通の話題がなくなったり、どんなふうにだって私たちは変わってくんだよ。二人離れて過ごして、ずっとぴったりの価値観で、今みたいに楽しいなんて都合のいいことある訳ないじゃん」

「不倫する予定なんてたてないでよ」

「例えばだって」


石を拾って海に投げる。日本海の海は荒くて、石がどこに落ちたのかも分からなかった。


「だから、いい4年間を過ごしたって。それだけでいいじゃん。私にとって大事で楽しい4年間だったよ」

「人を思い出にしやがって」

「10年後、こんな風に日本海みながら、ビニールシートもしかずに芝生に座ってられると思う?」


春は別れの季節だ。

それを何回も繰り返してきたのに、慣れることなんてない。

そのときの親友とずっと一緒にいたいと思って、でも叶わなくて、だんだんと人生は交わらなくなっていく。

羽山はそれを分かっていて、私は子どもだから駄々をこねているのだ。


「離れるのを嫌がってくれてありがとね。そういうかわいいところ、ずっと好きだったよ」

「知ってるよ」


春が来て、私たちは次の場所へ進んでいく。

社会だったり、家庭だったり。

これで本当に終わりだって分かってるから、私たちは立ち上がれない。

このまま隕石が落ちて、世界が終わればいいのになって空を見上げる。

世界は終わりそうもなく、冷たい風が心地よかった。

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