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第二十四話 トローシャ

 『陣形─車掛の陣』

 ネアとレイルを転移させ、速度重視の陣を作る。


「やつは、トローシャ。こいつクラスの魔物がいるからクク国から出られないんだよねぇ」

「マンティスやウルフィルは雑魚ってことかよ」


「タ……ズ……ゲ……デ……」


「話せるのか?」

「いや違う……ふざけているんだ」


 決して人語を介す訳ではない、地面に転がる人たちが最期に言ったであろう言葉を真似て遊んでいる。


「つくづく悪趣味な魔物だな」

「あんちゃん。そろそろいくぜぇ」

「応!」


 レイルが猿の側面を目指して足を回すと同時に足場を奪いにかかる。

 

 足場が消える前に察知した猿は、後方に飛び退く。

 着地地点に回り込んだ俺は全力をもって短剣で切りかかる──が体毛すら切れなかった。

 

 猿は不敵に笑いながら俺を殴り付ける。

 放たれた拳が何もとらえることなく空中で留まっていると、植物が絡み付き一瞬のうちに全身をからめとった。

 間髪いれず、猿の足元に大穴をあけ地下へと押し込み、マンティスの時と同じ要領で生き埋めにする。


「必殺のスキルコンボだぜぇ」

「……だめっ」


 ネアがつぶやくと、先刻まで猿がいた地点の土が盛り上がる。


「まじかよ」


 そのまま土は空に向かって飛んでいき、地中から這い出たいやらしい顔が俺たちを見ている。

 スキル制限の影響からレイルのスキルは後二回しか使用できない。


 土煙越しの視線がネアへと向き、瞬く間に接近する。

 とっさに植物で壁を作るネアに対して、丸太のような腕が固い下から上へ抉るように繰り出される。

 緑の壁はブチブチと音をたてながら崩壊するが丸太の勢いは衰えることなくネアを捉えた。


「ネアちゃん!」


 レイルが助けに向かおうと重心を右足に移すと同時に、丸太がレイルの正面に現れる。


「俺様死ぬかも」


 『陣形─魚鱗の陣』

 死を目前にしたレイルと上空に打ち上げられたネアを転移させ防御に特化した陣形を作る。

 猿の影になりインパクト前に転移できなかったネアに意識はない。


「助かったぜぇ」

「時間を稼ぐ、ネアを連れて逃げろ」


 スキルがあれば魔物に遅れを取ることはないと思っていた。実際にウルフィルが二体同時にでてもひとりで対処できただろう。

 だがトローシャの強さは異常だ。長蛇の陣で全力の一撃をあててダメージを与えられるか怪しいレベル。

 スキルの使用はあと三回。俺が逃げればボヘミアが蹂躙される。


「どうしたもんか」

「タ……ズ……ゲ……デェエエ!」


 避ける間もなく猿の右腕が胴体をとらえるとボヘミアから離れる方角へ一気に運ばれる。

 全身に痛みを感じる。魚鱗の陣でなければ骨は砕けていただろう。


 猿はボール遊びの要領で意識を失わない俺をもてあそぶ。

 起死回生の策を思い付くこともできず。蹂躙される俺は死を覚悟し、ボヘミアへ連れてきた人たちを思う。


 俺が連れてこなければ猿に怯えることも無かっただろうに────そうか。そうだよ。


 ある。起死回生の一手!

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