93.お買い物からの……
「ベアトリーチェ様、これなんていかがでしょう?」
珍しくはしゃぐオレリアは、美しく飾られていたコサージュを手に取り私とミレーヌに見せた。
「まあ! とっても素敵ですわ、オレリア様」
「ええ、本当に!」とミレーヌも瞳を輝かせる。
今日は、オレリアとミレーヌと一緒に貴族街にあるアクセサリーショップを訪れていた。
目的は、ダンスパーティーで、お揃いで身につけるアクセサリー探しだ。
最後の学園祭は、せっかくなので初めて行ったクラブ活動のように、皆で楽しもうとなった。
もちろん髪型は、例のヘアアレンジ豪華バージョンに決めてある。
「お客様方、大変お目が高くていらっしゃいます。そちらは特殊な加工がされており、ライトの光で色々な輝きを見せてくれます。ドレスに付ける以外にも、髪飾りや、手首につけてもよろしいかと。更にリボンの色や素材を変え、ドレスの雰囲気に合わせオリジナリティを出すことも可能です」
ピチっとしたスーツを着こなした、ショップの支配人は手を揉みながら次々と提案してくる。
「確かに、それも面白いですわ。リボンをパートナーの髪色に合わせるなんてどうでしょうか? シンプルな色の場合には、自分で刺繍を施すなど……」
オレリアは、新しい流行発信にノリノリだ。
学園に婚約者のいるオレリアは、濃いブルーのリボンに目をやった。
「ふふ、さすがオレリア様。ダンスで動くたびに輝くお花と、美しく揺れるリボン……ワクワクしますね。きっと、皆様が真似をしたくなりますわ」
学園祭でそれが評判になれば、在校生はもとより、今回のダンスパーティーに間に合わなかった者は、社交界に出てから流行らせてくれるだろう。
そして、互いに好きな色を選び注文した。
出来上がり次第、それぞれの邸宅へ届けてもらよう伝える。
「では、そろそろ次へ参りましょうか」
上客用に用意れていたソファから立ち上がり、店を出ようとした時だった。
「ベアトリーチェ・ドルレアン様宛に、お預かりしている物があるのですが」
支店長に声をかけられた。
「私宛ですか?」
「左様でございます」
誰からとは言わない、支店長の言葉に首を傾げる。
この店に来るのは内緒で、私達の侍女しか知らないはず。だとしたら、私の動向を知ることが出来るのはカルロス達だけだろう。
「オレリア様、ミレーヌ様、先に馬車に戻っていてくださいませ。受け取ったら、すぐに参りますので」
二人は顔を見合わせて「では、馬車でお待ちしておりますわ」と、ニッコリ微笑み先に店を出た。
支店長について店の奥へ入ると、一見するとオルゴールみたいな形の、美しく装飾が施された物を目の前に置かれた。
普通、プレゼントなら、ラッピングがされているのでは……。違和感を抱きつつも、それを受け取った。
「どうぞ、開けてみてください」
蓋を開けたら曲でも流れるのかしら?
底にゼンマイでもあるのかと、指で探すも見つからない。
魔道具の一種かもしれないと、不思議に思いながら、蓋に手をかけてゆっくり持ち上げた。
「これは、どなたからからのプレゼントでしょう?」
「とても、品のある紳士の方でした。そう、鮮やかなグリーンのお髪が印象的な……」
「え……緑の髪!?」
これは危険だと思った時には――もう、遅かった。
パカっと開いてしまった蓋の裏には鏡があり、私の顔がしっかりと映っている。
その刹那、景色が歪み視界が反転し、目眩に襲われた。
◇◇◇◇◇
――静寂。
瞼を閉じていても分かる眩しい光に、だんだんと意識がハッキリとしていく。
どにか上半身を起こして、ぶんぶんと重い頭を左右に振る。光で眼をやられないように、片目ずつゆっくり開いた。
『やっと、起きたね』
聞きたくなかった声が頭に響いた。
眩しさに目が慣れ、声の主を確認しようと辺りを見回す。カルロスの作り出す異空間に似てはいるが、真っ白でなんとも神々しい。
天国――そう言われたら、信じてしまいそうな場所だ。
『ねえ、君。無視するとか、不愉快なんだけど』
――えっ?
次の瞬間には、私の目と鼻の先に……ノアとよく似た顔があった。いや、似てるを通り越して瓜二つ。
ただ、髪と瞳の色がノアとは違い、鮮やかな緑色をしている。
目が……逸らせない。
息が止まりそうな程の恐怖を感じ、身体が強張る。
カルロスやノア、魔族の皆からは向けられたことのない視線。バスチアンでさえ、ここまでではなかった。
背中を冷たいものが伝っていく。
「あ……あなたは、誰?」
『君、図々しいね。勝手に喋らないでくれる?』
不機嫌さを隠そうともせず、私の額に指を押し付ける。
「……っ」
逆らうと危険だ。
とにかく、私が置かれている状況を把握しなければ。表情を気取られないようポーカーフェイスに徹し、頭の中で状況を整理していく。
私は、あのオルゴールみたいな箱の蓋裏に嵌められた鏡を見た。それに自分が映った瞬間、目がまわってしまい意識を保っていられなかった。
そんな中、何かに吸い込まれた感覚だけは残っている。
可能性としては、私は鏡の中に居るのではないだろうか?
いつも、私に危険が迫ると……鎖骨下の印が熱を持ち、勝手に発動していた。それが、今回は全く何も起こらない。
つまり――。この空間内では、魔法が使えないのかもしれない。
緊張からか、口の中が乾いてパサパサになってくる。
『君さぁ、あの時なんで魔王と一緒にいたの?』
「……魔王とは?」
掠れた声で、そう答えるのがやっとだった。
知らぬ存ぜぬを通さなければ……。
男爵領で会った時、この天族はカルロスが魔王だと気づいていたのだ。そして、わざと気づいていない振りをして、私達を泳がせていた――何のために?
『人間のくせに、魔王の妃になるつもりだなんて何様だよ。人間が魔界の王妃なんて、笑えるんだけど』
……は、い?
今、この緑頭はなんて言った?
「……妃って?」
額に置かれた指先を徐々に下げ、私の鎖骨下……印の位置を強く突き、綺麗な口元を歪めて言った。
『王妃の印があるくせに、しらを切るなんて。本当に人間は愚かだね』と。




