72.蓮視点 疼く感情
お読み下さり、ありがとうございます!
今回はレンの思考なので、少し短めです
m(__)m
魔王城を後にして来た道を戻れば、途中で繋いでおいた馬が待っていた。
エルネストは前にアリス嬢を乗せ、それに続くように俺は一人で馬を走らせている。
疑うわけじゃないが、アリス嬢は本当に記憶を失っていた。
エルネストは、第二とは言えこの国の王子だ。
目を覚ましたアリス嬢は、すぐにエルネストが誰なのか理解した様子で、目を見開き戸惑いを見せていた。
ノアに言われた通りに説明する、エルネストの言葉ひとつひとつを、頷きながら真剣に聞いていたが――。自分達が国の危機を救ったと伝えても、それについては流石に信じられないのか、いまいちピンと来ていないようだ。
ま、普通そうなるわな。
却ってその反応の方が安心できる。
そして、エルネストから俺が勇者だと紹介されると、驚きながらも丁寧に挨拶をした。
アリスの記憶は過去に戻り、本来であれば幼くなるのだろうが……寧ろ、俺が初めて会った時よりも、余程しっかりとしてる印象を受けた。
甲斐甲斐しくエスコートするエルネストに、控えめになったアリス嬢。
二人はお似合いかもしれないな。
前を走るエルネストの背中を見ながら、そんなことを考える。
まさか、風を切って走る馬の背で、考え事ができる日が来るとはな。乗馬なんて自分には縁もなかったのに、必要に迫られ必死に練習すればどうにかなるもんだ。
まあ、以前とは比べものにならない程、体力がついたお陰かもしれないが。
行きとは違い、妨害が無いせいか何ともスムーズに進めた。
そのせいだろうか……。余裕ができたからか、頭の中には魔王城での出来事が甦ってきた。
怪我をした痛みや、傷が勝手に再生される不思議な感覚……正直、もう経験したくない。
それ以上に頭から離れないのは、バスチアンに捕まったベアトリーチェ嬢の姿だった。
変貌したアリスに腕を掴まれた時や、天井いっぱいに魔剣が現れた時よりも、だ。
――あの時。俺の目が、おかしくなったのかと思った。
何故だか分からないが、ベアトリーチェ嬢の姿が日向に見えた。下から見上げる状態だったし、黒髪だから、たまたまそう見えたのかもしれない。
見間違い――そうも思ったが、あれは確かに日向だったんだ。
ハッとした時には、ベアトリーチェ嬢の姿は消え、魔剣が破裂した。
バスチアンの剣が日向にむけられていたのに、俺は結局……動くことすら出来なかったのだ。相当なダメージを受けて瀕死状態のバスチアンに、魔王は何かを言っていたが、その会話さえ耳には入らなかった。
また俺は、何も出来なかった――。
その後、バスチアンは事切れると魔石になり、消えた。
呆然と立ち尽くしていると、魔石を拾いにきたロランと目が合った。その目は優しく、良くやったと小さく頷き踵を返す。
役に立てたんだ……そう思えると、少しだけ目頭が熱くなった。
アリス嬢の中のヤバい奴も、ノアが捕まえたし。エルネストはちゃんと真実を受け入れた。
腹を決めたアリス嬢の申し出には、かなり驚かされたが。
けれど、俺の意識は魔王の隣りに立つベアトリーチェ嬢にいってしまう。自然と目が追ってしまうのだ。
そもそも、魔王は何で彼女を呼んだんだ?
あんなに魔剣を警戒して、距離を置かせたくせに。
それに――。
ベアトリーチェ嬢は「二度も殺されませんから」と言っていた。日向じゃなくとも、転生者ではあったのだ。
しかも、殺されて転生か……。
ベアトリーチェ嬢が日向に見えたのは、錯覚だったのかもしれない。
けれど、凛とした美しい佇まいなのに……ちょっとした視線の動かし方、考えながら服を摘む癖が日向と被る。
やはり、ベアトリーチェ嬢が日向の可能性があるのではないか?
時々、魔王を見詰めるベアトリーチェ嬢。パートナーと言っていたが、確かに二人の間には他人が踏み込めない何かがある。
……無性に胸がチクチク痛む。
この疼きは、妹かもしれない彼女を取られてしまいそうな兄としての……寂しさから来るものなのか。それとも――。
いや、もし彼女が日向だったなら、幸せを願うと決めたんだ!
ぶんぶんと首を左右に振ると、側を走る護衛騎士に心配そうに見られてしまった。……恥ずい。
俺を召喚したバスチアンが消えた今、元の世界に帰れるかは定かではないが、きちんとケリだけはつけよう。
顔をあげると、いつの間にか山を抜けていた。
◇◇◇◇◇
やっと、見覚えのある宮殿が見えてきた。
立派な門を抜けた所で、迎えの者が数人で待っていた。秘密裏の任務だったから人数は少なくて当たり前だ。
だけど!
なんで学園の制服を着た偽物の妹ヒナタと、銀縁の眼鏡のノアが涼しい顔で待っているのか?
顔が強張ったのは、エルネストも一緒だった。
転移……狡いよ、ノア。




