71.偽物だらけ
「これで、全部……とは、言えないんだぁ。悔しいけど」
ちぇ〜っと、キーランはテーブル上の魔石を指でツンツン転がしながら言った。
「この魔石って……」
鉱物の魔石ではなく、魔族の核に近い気がした。
ただ、輝きは鈍くはっきりとは断言できない。気味が悪いのは、全ての魔石があまりにも似過ぎている事だ。それが、なんだか引っ掛かった。
ノアは、魔石を摘み上げじっくり眺めると、少しだけ力を入れパキンッとそれを砕いた。いつかの髪飾りを思い出す。
えっ!? 核じゃないの?
「……そういう事ですか」
渋い顔でノアが呟くと、「うむ」とカルロスは返事する。
「それは……。その魔石は、魔族の核でしょうか?」
思わず訊いてしまう。
「……当たらずと雖も遠からず。そんな所ですかね」
私の問いかけに、ノアは明言を避けた。代わりに、それを持ってきたキーランが答える。
「それさ、バスチアンの作った魔剣と一緒なんだよ。つまり、偽物。バスチアンの魔力を使って、自分の意思で動かせる仲間を増やしていた――って感じかなぁ」
「……!? それって、バスチアン自身をコピーしたってこと?」
「複製か……うん、そうだね。そんなとこ。だけど、見た目は皆、バスチアンじゃなかったけどね。もちろん、化けさせていたんだろうけどさっ」
そうね。
うじゃうじゃ同じ顔のバスチアンが居たら怖い。
キーランはバスチアンの魔力を辿って、あちこち転移しそれを回収していたらしい。この短期間にこれだけ集めてきたのだから、それは疲れもするだろう。
回収方法については……聞くのは止めておく。
バスチアンは、コピーをあらゆる場所潜伏させ、情報収集や逆に噂を流したり、使えそうな人間の弱みにつけ込み利用していたのだ。
ただ、この魔石のクオリティーを見る限り、それ程の魔力を持った者は作られていないだろうとノアは言った。
「それで、多分これがオリジナル」
キーランが、コトリと置いたのは魔王城で見たバスチアンの核だった。
見覚えがあった。さっき引っかかったのは、全ての魔石がこれに似ていたからだ。
「キーラン。多分ということは、違うかもしれないと?」とノア。
その問いにキーランは頷く。
魔王の臣下であったバスチアンの核にしては、魔力の量が少なく、核の中心が歪な形なのだとか。カルロスやキーランには、この魔石が外に魔力を垂れ流しているみたいに見えるらしい。
「うん。簡単に見つかったのは試作品か失敗作。まだ、他にも居そうだけど見つからないんだ。精巧な偽物が残っているのか……もしかしたら、本物は別にいて、これが偽物って可能性もあるんじゃないかな?」
「それは、彼奴の最大ともいえる能力だったからな。だからこそ、魔王軍の幹部でもあった」
遠い過去を思い出すようにカルロスは言う。
魔王軍なんてものがあった事にも驚きだが……。
反旗を翻したバスチアンは、魔王を討つ為だけに長年備えて来たのだろう。
だから、バスチアンの能力が向上している可能性も、考慮しておかなければならないと付け加えた。
「……あの、ベアトリーチェ様。私にも解るように説明していただけませんか。魔王軍て……バスチアンとは一体何者だったのですか? それに、皆さんは?」
この状況と、話の進みについていけないレイモンが、痺れを切らして口を開いた。
「バスチアンは魔族だったのよ」
「そんな……」
レイモンは目を見開き、息を呑む。自分が魔族と手を組んでいた事実に青くなった。
「さて、勇者レンに偽物の妹は必要なくなりました。ヒナタ嬢、あなたの役目はこれからです。あなた方が助かる道は一つです。選択肢はありません。どうしますか?」
選択肢が無いと言いつつ、どうしたいか尋ねるノア。いつもの如く、レイモンを試しているみたいだ。
「私は……私の妹は、カルロス様とベアトリーチェ様に助けていただきました。自分がお二人の役に立てるなら、どんな事でも致します」
ノアはその答えに満足したのか、カルロスを見た。
カルロスがパチリと指を鳴らせば、レイモンは男の姿に戻る。
「おおっ、これが本来の姿か。こっちの方が話しやすそうだ」と、ロランはバシッとレイモンの肩を叩いて笑う。
あ、痛そう。でも、なんだか少し嬉しそうだ。
そして、ヒナタ改めレイモンとして自己紹介すると、ノアが新魔王城での一連の出来事を話した。
自分の想像を遥かに超える内容に、レイモンは唖然としている。
「そ、それで……どう考えても皆さんは魔族ですよね? しかも、カルロス様は魔王様……。その、ベアトリーチェ様は?」
「人間よ」
レイモンは少しだけホッとした様子だ。
やはり、魔族の中に一人だけ人間というのは不安なのかもしれない。
「レイモン、貴方がすべき事はバスチアンの手下のあぶり出しです。本来の役目は、勇者レンを上手く使うための人質役だったのでしょうから。それに関わった者達と、後見人となった貴族、証拠を全て提出してくだい」
証拠? そんな物があるのだろうか?
「分かりました、提出します」
あ、あるのね。
レイモンはいざと言う時のため、自分が不利にならないように、相手の弱みになりそうな物はちゃんと握っておくのだそうだ。
今まで何度も危ない橋を渡ってきたからと、小さく笑う。
「そして、勇者一行が戻ったタイミングで、妹が人質にされていると助けを求めるのです。今の彼等なら、味方になってくれるでしょう」
当然、ノアなら前もって、地固めは完璧にしておいてあるのだろう。本当に頼りになる。
「勇者には、正直……申し訳ない事をしてしまいました」
「ああ、レンはあなたが偽物だと知っていますから、大丈夫です。そうですよね?」
チラッとこちらを見てノアは微笑む。
「ごめんなさいね、レイモン。レンの妹の容姿は別人なのよ。ついでに性格もね」
「……え」と、レイモンは言葉を失う。
ポンッと唐突にロランがレイモンの頭を撫でた。
「男なら細かいことは気にするな」
何故かロランは気遣うようにフォローする。あんな格好をさせられていたレイモンに、同情したらしい。
そして――。
バスチアンと深く関わっていたあの高慢な魔術師ゴーチェ。偽ヒナタが学園に入るための後見人、ダンテス伯爵の存在が浮上した。




