表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/114

70.胸騒ぎ

 周りの視線などお構いなしに、カルロスは私を抱えたまま颯爽と廊下を歩く。

 くっ、視線が痛い。

 また、病弱な公爵令嬢ベアトリーチェになってしまいそうだ。……いや、もうなっているわね。


「ビーチェ、行きたい場所はあるか?」


 保健室に着くや否や、唐突にカルロスは尋ねてきた。

 

「行きたい所ですか?」


 カルロスが何を言いたいのか、理解できなかった。思わず首を傾げてしまう。


 その質問よりも、久しぶりのこの状態でいる事が何より恥ずかしく、早く下ろしてほしかった。


 更に、気になったのは……。


 魔族のみんなが、一時的とはいえ学園から消えて、ここには代わりの保健医がいたのだ。室内に視線を巡らせたが、やはりカルロスの他は誰も見当たらなかった。


 たった一晩。……もしかしたら、今朝の僅か数時間で、学園の皆の意識を操作してしまったのだろうか?


「ほう? 忘れたのか」


 いまいち反応の悪い私に、ほんの少しだがカルロスの眉が上がる。

 忘れた……とは?


「あの、先ずは下ろしていただけませんか?」

 

 私の返事に少しだけ目を細めると、何かを思いついたのか、カルロスは口元に弧を描く。

 いつもなら、椅子に座らせてくれるのに……ボスッとベッドに落とされた。そして。


 ――えっ!?


「別に、私への褒美はデートでなくても良いのだぞ?」


 カルロスの挑発的な物言い。


 褒美……デート……んぁあああ!! 

 そうだった。レイモンの妹の理不尽なお礼の件だ!


 慌てて起き上がろうとするも……カルロスの両腕に挟まれる体勢で、真上からは美しい顔が見下ろしている。

 吸い込まれてしまいそうな瞳。耳にかかっていた、黒紫の艶やかな髪がハラリと落ちた。

 熱を帯びた視線が、大人の色香でヤバすぎる。


 ひいぃぃっ、近い! 動けないっ!


「す……すみません。デートでお願いします」


 絞り出すように、そう言うのが精一杯だった。


「………。そうか、それは残念だ」


 カルロスはパッと離れると、後ろを向いた。


「……カルロス、先生?」


 一瞬、怒ったのかと思ったが、肩が小刻みに震えている。

 またしても揶揄(からか)われたっ!

 今の私は、怒りなのか恥ずかしさなのか……のぼせたみたいに顔が熱い。とにかく、真っ赤になっているのが鏡を見なくても分かる。


 それを誤魔化したい一心で、思いついた事を口にした。


「行きたい場所、決めました! アリスの……ミュレー男爵領に行ってみたいですっ」と。


 ピタッとカルロスの笑いが止んだ。


「ふむ。……悪くない」

「え?」


 前世の姉だった魂が、アリスに関与した場所は男爵領ではないかと考えていた。

 だから、私が()()へ行くことは……正直、駄目だと言われると思っていたのだ。


 しかも、デートの場所としてだなんて。あっさり了承されて拍子抜けだわ。


「では、今度の休日に行くとしよう。勝手に行くと、ノアの小言が(うるさ)いからな」


 確かに。

 カルロスが勝手に動けば、後々苦労するのはノアのような気がする。


「まあ、その前にやる事もありそうだ」


 カルロスが視線を移す。

 いつから居たのか、ケリーがちょこんと窓の外に座っているのが見えた。長い尻尾をしなやかに揺らし、窓を開けてもらえるのを待っている。

 キーランとしてではなく、ケリーの姿でやって来るのは珍しい。


 直ぐに窓を開けると、ピョンと中へ入って来る。


 そのままトコトコ歩き、窓から離れカーテンの影に隠れた。「ミャア〜」と、ひと鳴きするとキーランの姿になって出てくる。


「魔王様、ヒナ〜、ただいまぁ! 俺、今日は授業無理みたい」


 それだけ言うと、ポンっとまたケリーの姿に戻り、さっきまで私が押し倒……コホンッ。座らされていたベッドに飛び乗った。

 ケリーはそのまま丸くなり、スヤスヤと眠ってしまう。

 学園で、城に居る時みたいに私達を呼んでしまうなんて、相当疲れているのだろう。カルロスも察したようだ。


「キーラン君はこのまま休ませる。ベアトリーチェさんは授業に向かいなさい」


 扉を開け、急に先生口調になったカルロスに促され、保健室を後にした。


 きっと、キーランはまた何かを調べに行っていたのだろう。転移でやって来なかったという事は……その魔力が無かった、とか。つまり魔力不足。


 あのキーランが?


 ピタッと、廊下を進む足が止まる。

 確かあの時、キーランはカルロスからバスチアンの核を受け取っていた。カルロスとキーランに共通する魔眼。いったい二人には何が見えていたのだろうか。


 ――バスチアンは本当に死んだの? 


 有り得ない疑問が浮かぶ。

 いや、まさかね。


 バスチアンが消滅し、魔石になるのをこの目で見たのだから。

 放課後、レイモンも保健室に呼ばれている。その時に話を聞けば分かるだろう。


 この胸騒ぎが、私の気のせいであってくれればいいのだけど……。



 ◇◇◇◇◇

 


 正に、心ここに有らずだわ。

 全く授業に身が入らないまま、放課後を迎えてしまった。


「失礼いたします」と、声をかけてから保健室へ入る。


 カルロスの前には、偽ヒナタ姿のレイモンが居心地悪そうに、小さくなって座っていた。

 その他に、元気を取り戻したキーランと、ノアとロランもやって来ている。


 レイモンは、私の顔を見ると表情を和らげた。

 

 魔王であるカルロスと、やたら身分の高い令息達に挟まれ、かなり緊張していたのだろう。はたから見れば、可愛い女生徒がイケメンに囲まれている図だが、残念ながら全員男だ。

 それに、レンの妹として紹介されただけの関係だもの……何故このメンバーがここに居るのか、今の状況に戸惑うのも当たり前ね。


「揃ったな」


 カルロスは、そう言うと保健室を異空間に繋げる。


 保健室には不釣り合いな立派なテーブルが現れると、キーランがそこにずらっと魔石を並べた。


 ――この魔石は!?


 背中に冷たい物が流れた。


 

 

お読み下さり、ありがとうございました。


誤字脱字報告、いつもありがとうございます。

その都度修正させて頂いておりますm(__)m

気をつけているつもりでも見落としが……すみません。


ブクマ登録、評価、感想も頂き、とてもやる気に繋がっております。本当にありがとうございます。


不定期の更新ではありますが、これからもよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ