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63.蓮視点 悪い予感

お読み下さり、ありがとうございます!


少しですが、流血シーンあります。

すみませんm(__)m

 途中で何度か休憩したり、アリス嬢を背負うのをエルネストの希望で交代しながら、どうにか進み続ける。


 エルネストは、アリス嬢の寝顔を愛おしそうに眺めていた。

 これが、本当に優しい女の子だったら、喜んで二人を応援できたのに……。俺の心境は複雑極まりなかった。

 

 しかも、アリス嬢の腕にあった硬い物――あれは、俺と同じアームレットではないだろうか? 


 いや、全く同じとは限らない。

 俺のハイリスクな物と違って、プラスにだけ働くアーティファクトなのかもしれない。なんせ、彼女はバスチアンと手を組んでいるのだからな。




 やっと階段の先に、今まで見てきたのとは違う扉が現れた。


 ようやく辿り着いたらしい。……長かったな。

 扉の左右には、屈強そうな魔物の石像が槍を持ち立っている。


 いかにもな雰囲気だ。


 普通なら、それが動きだして一戦……てな事になりそうだが、その気配は無い。

 まあ、ウエルカムってところだから当たり前か。 


「レン、聖剣を出しておいた方がいい」


 扉に手を掛け、エルネストは開ける前にそう言った。


「ああ、そうだな」


 返事をしてアーティファクトから聖剣をとり出す。内心では、聖剣擬きなんて持ちたくないが。

 眩ゆい光を纏った剣が空中に現れ、俺の手の中におさまる。 

 ああ、ほら……全身に鳥肌が立つ。禍々しいって、こういう事だろ。


「いいか、開けるぞ!」


 エルネストの合図と共に、大きな扉を一斉に押した。


 大ホールみたいに広い魔王の部屋は、恐怖を煽る造りになっていた。

 そして、入り口から遠く離れた場所に玉座が見える。


「結界を張りますね!」


 アリス嬢は、聖女らしく両手を組み祈る様なポーズで結界を張った。


 ……って、オイ!

 今、二の腕の所がちょっと光ったぞ!


 エルネストは、完全にアリス嬢を聖女だと思っているせいか、純粋に感嘆のため息を漏らす。

 エルネストの位置からは見えないし、ましてや白い服の下がほんのり光ったくらいでは分からないだろう。

 取り敢えず、一つの機能は結界だと判明した。


 三人で目配せをすると、玉座へ向かって歩き出す。

 

 近づけば、玉座には本来の姿の魔王が座っている。無表情なのはいつもの事だが、迫力が違う。

 その左右に、ノア、ロラン、キーランも魔族の姿で立っていた。

 ただ、ノアは翼を出してはいなかった。やはり、天使だと勘違いされないようにだろうか?


 エルネストを見ると、顔面蒼白になっている。


 みんなの顔は学園にいた時と然程変わらないから、エルネストは彼等が誰か分かったのだ。

 反対にアリス嬢は、瞳をキラキラさせて魔王に見惚れ、悦びを隠そうともしない。


 アリス嬢のこの反応……嫌な予感がする。


「エルネスト殿下、ようこそお越しくださいました」


 ノアの言葉に、エルネストはビクッと身体を震わせた。


「……ノアなのか? そっちは、ロランにキーラン……魔王は、まさかカルロス先生?」


 震える声で、確かめるようにエルネストは言う。


「御名答です。我々は、人間に成りすまし様子を探っておりました。ただ、それは人間界を滅ぼす為ではありません。どうでしょう、互いの領域を侵さない条約を結びませんか?」


「……そんな事っ、信じられない!」


「まあ、口約束ではそうでしょう。エルネスト殿下は、正式な誓約書を持ち帰って国王陛下とご相談ください。そして、よくお考えになることです。対立した場合、どれ程の人間や魔族の命が奪われるのかを。今、我々が人間を傷つけていないことも、理解してくださいね」


 冷静な口調で話すノアに、エルネストは反論が出来ない。

 王族の役目は、国と民を守ることだ。自分の安易な判断で戦争を起こせないと判断したのだろう。

 今回は、あくまでも視察。戦うには不十分なのだ。


「……国王陛下に伝えます」と、エルネストは絞り出すように言った。


「では」


 とノアが魔王を見れば、パチリと指が鳴り空中から誓約書が現れ、エルネストに向かって下りて行った。


 ――と、その時。


「だめよ、それじゃ。カルロス様は、私のものにならないと!」


 アリス嬢は、聖女らしからぬ欲に満ちた笑顔でそう言い放った。


「ア、アリス嬢? ……何を言っているんだ?」


「エルネスト様、レン様、魔王を倒してください。そして、私に捧げて下さいな。私がどれ程この時を待っていたのか……ふふ」

 

 もう、魔王しか見えてないアリスは欲望剥き出しだった。


「こんなの……アリスではない。お前は誰だっ!?」


 後退り、エルネストは叫んだ。

 

「やだわ、エルネスト様ったら。私()アリスです。ただ、人格が二つあるだけですよ。ミュレー男爵家で虐げられていたアリスは、そこから逃げるために、私という別の人格を作り出したのです。ですから、もう一人のアリスはここで眠っています」


 自分の胸元に手を当て、ニッコリと微笑む。


「嘘だ……」


 エルネストは膝から崩れ落ち、項垂れた。


 マジか……。


 多重人格ってやつ?

 いやいやいや、それってちょっと変だ。さっきの口振りだと、かなり前から魔王に執着している感じだった。


「おやおや。嘘はいけませんね、偽聖女様。あなたは昔から、強欲だ。さっさと、アリスから憑依を解きなさい」

 

「まあ! ノア様、魔族の貴方と聖女の私。どちらが嘘つきなんでしょう? 勇者レン様、騙されてはいけません。聖剣で魔王を倒してください!」


 アリスの言葉で、腕のアーティファクトが勝手に作動した。聖剣を持つ手に勝手に力が入り、自分の意思に反して振りかぶる。


「……っ! 魔王っ!」と、叫び訴えた。


 魔王は頷くと、指から紫の光を放ち、俺の腕に嵌められていたアーティファクトを破壊する。

 ガクンと力が抜け、粉々になったアームレットは床にパラパラと落ちた。


 服は焦げたが痛みはなく、自由になった無傷の腕が見えた。

 

「あら? 勇者様、裏切りは駄目ですよ。あれが無いと力不足でしょう」


 アリスは機敏な動きで聖剣を持った俺の腕ごと掴むと、魔王に向かって刃を向けた。

 

 この力、二つ目の機能か――!


 とにかく凄い力だ。抵抗するが、抑えられない。かと言って、このまま魔王を刺したら……俺が木っ端微塵だ。アリスは絶対、直前で逃げる気がする。


 チラリとノアを見れば、今だと頷いた。


 ――くっそぉ!! やってやるよっ! 


 アームレットをしていなかった片手だけ、ロランと相当鍛えたんだ。力を入れてどうにかアリスを振り解くと、そのまま素手で刃を掴み、自分の手を食い込ませた。


「……なっ!!?」


 焦るアリスを無視して、更に掴んだ手に力を入れる。血が滴り落ち、聖剣擬きは反応を始めた。


 光輝いていた魔剣は、みるみるうちに輝きを無くしていく。魔力のない俺の力を吸収し、奪ってあった光属性の魔力に上書きしていく。


 そして、光を失いただの魔剣に戻った。どうにか成功だ。


 でも、痛ってぇ……。


 手からドクドクと流れ出る血と、想像をこえる痛みで意識が遠のきそうになる。


 やっぱり、勇者なんてなるもんじゃないなっ!




 



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