表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/114

61.バスチアンとの対面

「それで……令嬢には、お前の姿は見られなかったのだな?」


 高慢そうな男の声には、聞き覚えがなかった。


「はい。背後から気絶させる予定でしたが、勝手に気を失ってくれましたから。余程、弟の姿がショックだったのでしょうね」


 ――ゴトゴトと揺れが頭に響く。


 馬車の中に入れられ、私は縛られた状態のままで横に寝かされている。向かい合わせの椅子には高慢男と偽ヒナタが座っている――目を閉じているから見えないけど。

 目立たないように、ありきたりの質素な馬車を使っているようだ。公爵家の馬車とは違い、何ともクッションが悪い。


 これ、頭にコブでも出来そうだわ……。


 作戦の準備が完了した直後に、この男はやって来た。

 事情を説明した偽ヒナタに、途中で私が意識を戻さないよう、念のため睡眠薬を嗅がせておけと指示を出したのだ。

 偽ヒナタは躊躇なく、薬を布に含ませると私の鼻と口に押し当てた。


 はい、想定内です。

 

 レイモンに与えられていた薬品は、2本だけではなかった。オリヴィエに使用した物の他に、私を捕らえる為の分まであったのだ。

 当然、中身はただの水に変えてある。

 

「こんな弱々しい人が、本当に魔王を復活させたのですか?」

「あのお方がそう仰ったのだ」

「もし違ったら……この人、公爵令嬢ですよ?」


 偽ヒナタの質問に、少しの沈黙が流れた。


「そうだな、もしも間違いであったなら……私の妻にするのも悪くない」


「……えっ!?」と、偽ヒナタの唖然とする声。


 はぁっ!? 私もちょっと意味が解らない。


「どの道、暫く失踪するのだ。無事に帰ったとして、よからぬ噂は立ってしまうだろうからな。傷物の令嬢として、もう良い相手など見つかるまい。何せ既に一度、婚約破棄されているしな」


 むっ……! 破棄ではなく、白紙に戻っただけよ。


 目を閉じていても感じる、ねっとりとした視線。全身が粟立つ。

 馬車の中で高慢男が動き、気配が近づいて来る。ここまで来て、目を開ける訳にもいかず体が強張った。


「手籠めにしてしまえば、逆らえま……」と、男が言いかけた時だった。


 ――ガタンッ!!


 大きく馬車が左右に揺れ、ガン、ゴンッと鈍い音の後「痛っ!!」と言う声が聞こえた。

 腰を上げていた男はバランスを崩し、馬車の壁に打ち付けられたようだ。あの音からして、かなりの衝撃を受けた筈。


「……っく、何事だっ!」っと、窓から御者役の手下を怒鳴りつける。


「もっ、申し訳ありませんっ! 急に馬が暴れだして」


 高慢男は出血でもしたのだろう。鉄の臭いをさせながら、ぎゃあぎゃあ騒いでる。隣の偽ヒナタが応急処置をしているみたいだ。お陰で、私に向けられた気持ちの悪い視線は感じなくなった。


 ん? ……おかしいわ。


 私自身、予期せぬ出来事で魔法は何一つ使っていない。

 なのに、衝撃を全く受けなかった。いや、衝撃というよりも、揺れさえ感じなかったのだ。まるで、ほんの数センチだけ空中に浮いていたみたいに。


 そして、馬車はまた動き出した。


 

 ◇◇◇◇◇



 暫くすると――。


 目的地に到着したのか、馬車はゆっくりと止まる。


 高慢男は自分の事でいっぱいいっぱいなのか、出迎えた者に私を担がせると、バスチアンの居る最上階へ連れて行くように言った。


「おいっ、私が行くまでバスチアン様に余計なことは言うなよ」


 偽ヒナタに釘を刺し、高慢男は自分の怪我の手当てに向かった。

 さっきの馬車での話は、あの男の勝手な言い分で、バスチアンには聞かせたくないのかもしれない。


 魔術師団の本部でもある塔は、縦に長い構造で、とにかく高く、遠くからでもよく見える。

 ただ、外から見たことはあっても入ったことはない。

 聞いた話では、塔の上に行けばいくほど地位の高い魔術師の仕事場があるそうだ。

 そして、最上階には宮廷魔術師バスチアンの部屋があるのだと。どうやら、バスチアンはあまり正門を使わず、転移魔法で宮廷と魔塔を行き来しているらしい。


 確か小説では、勇者召喚の儀はこの塔で行われたのよね。


 私は見知らぬ男に担がれた状態のまま、最上階まで転移陣で移動するようだ。体格の良い男はボソボソと詠唱し其れを起動する。

 すると、急にぐゎんっと浮遊感にみまわれた。しかも、それは数秒間続く。


 ……うっぷ。酔うわ、これ。


 いつもの転移が、どれほど素晴らしく秀逸なものなのか良く分かった。



 バスチアンに入室を許可されると、男は私を中まで運び込み、椅子らしき場所に寝かせる。

 そのまま、挨拶をすると男は部屋から出て行った。


「其方も、外で待て」

 

 一緒にやって来た偽ヒナタにも、バスチアンは退室をするよう促した。

「かしこまりました」と不自然に思われないように、レイモンらしく返事をし踵を返した。


 さて、私はこれから何をされるのか……。そう思った瞬間。


 バシャ――ンッ!! と大量の水が降ってきた。



 ――ぐはぁっ!!?


 鼻と口に一気に水が押し寄せて、息が出来ずゴホゴホとむせ返る。鼻もツーンッとして痛い。

 苦しさで思わず目を開けると、剣術大会で見た白髪混じりのバスチアンが、こちらを見下ろしていた。


「目が覚めましたか? ドルレアン公爵令嬢、手荒なことをして申し訳ありません」


 全く悪いと思ってなさそうなバスチアンは、そう言った。


「……こんな起こされ方、初めてですわ」

 

 ポタポタと雫を垂らしながらキッと睨んだ。


「これでは風邪を引いてしまいますから、さっさと乾かしてくださいませ。それと、この縄も解いてください。私は、逃げも隠れもいたしません!」


「承知しました。確かにその状態では……話し合いには、向いていませんね」 


 とバスチアンは無詠唱で縄を切り、一瞬で服を乾かして見せた。

 

 ……これは、一体どういうこと?


 握りしめている手に力が入る。手の中に隠し持っていた蝶のペンダント。

 バスチアンの纏う魔力の色は、今まで見たことがない、深い紫に闇のような黒い(もや)がかかった異様なものだった。


「私と手を組みませんか? 貴女は聖女アリスが憎いでしょう?」


 自分の力を見せつけ、不敵な笑みを浮かべたバスチアンに悪寒がした。


 



 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ