60.蓮視点 困惑
――どうなってるんだ?
だだひたすらに鬱蒼とした森を進んで来て、やっと辿り着いたと思ったのに……。
アリス嬢に促されつつ護衛騎士達と共に、まるで意思があるかのような樹木を薙ぎ倒し、道なき道を進んだ。
確か、ベアトリーチェ嬢は馬車で行き着いたと言っていた。
馬車が通れる道なんて無いじゃないかっ! せいぜい馬一頭が関の山だ。
これ、絶対魔王の仕業だな。で、策はノアだ。
カルロス先生だった魔王は、何ていうか……よく分からない。パートナーって何だよ!
ベアトリーチェ嬢が大好きなことと、やたら凄い力があるのは理解できた。
だけど、俺が一番怖いのはノアだ。
あの冷たい目で見られると、どうも心の中まで見透かされているような気がする。それでもって、ノアの手のひらの上で踊らされているような……。
本当の姿は、天使にしか見えないのに。ただでさえ羨ましい程のイケメンで、あんな外見はズルい。
交換日記に書いた日向の件は、本当にヤバかったな――。しかも、優しいベアトリーチェ嬢を騙したみたいになってしまって、嫌な思いをさせてしまった。
……土下座くらいで許されて良かったよ。
まあ、代わりにとんでもない事をやらされる羽目になったけど。
そんな事を考えながら進むと、やっと視界が開けた。
ようやく頂上付近の崖に到着したのだ。
馬からアリス嬢が降りると、崖に向かって歩いて行く。
「きっと、この先に魔王は居ます! 私には、感じるのです」
振り返ったアリス嬢は、太陽の光を浴び、ピンク色の髪と白いワンピースを風に靡かせて言い切った。
あー、うん。聖女っぽい。
隣のエルネストや騎士達は、顔を高揚させ食い入るように彼女を見ていた。
確かに、何も知らなければ聖女だと信じてしまっただろう。そのくらい、神々しく美しい演出だった。
けどなぁ……。
本性を垣間見てしまったせいか、どうにも演技にしか見えないや。何で魔王復活の調査なのに、そんな汚れそうな服で来たのか疑問だったが……この為かっ。
エルネストは、引き寄せられる様に彼女の方へ向かって歩き、俺はそれに続く。
すると――。
グワンと足元が歪み、予定通りエルネストとアリス嬢と一緒に転移させられた。
「なっ……! ここは!?」
とエルネストは、息を呑む。
「なんて、禍々しい気配。……怖いです」
アリス嬢はエルネストの服ををギュッと掴み、怯えた表情だ。
禍々しい気配って何だ?
聖剣を持った時と違い、俺は何も感じないけど?
まあ、見た感じは正直いって不気味だ。
如何にも魔物がうじゃうじゃ出てきそうな外観の魔王城。斜めに歪んだ壊れ掛かった門は、入れと言わんばかりに、大きな口を開けているみたいに見えた。
いつもの綺麗で豪華な魔王城に慣れているせいか、敢えて作られてると知っていても、妙に緊張する。
――いよいよだ!
そう思って中へと足を踏み入れたのに……何故か上へと続く階段に終わりが見えない。
剥き出しの岩で出来た壁に、緩やかなカーブを描く石で作られた螺旋階段。足音だけが、カツン……カツン……と不気味に響く。
途中で各階の扉を開けるが、何故かまた階段が現れる。
エンドレスかよっ!
足が重く、上げるのもしんどくなってきた。ペースは落ちる一方だ。疲れもピークになり、エルネストも俺も会話すら出来なくなった。魔物が一匹も現れないから戦うことは無いが、精神的にやられる。
ロランに鍛えてもらってから、極力アーティファクトの力は使わないようにしてきた。
だが、そろそろ限界かもしれない。
「少し、休憩しませんか?」
背中に乗ったアリス嬢が、そう声を掛けてきた。
森の中では馬に乗っていたから心配いらなかったが、女の子の脚ではこの階段はキツいだろう……と、かなり序盤でエルネストがアリス嬢を負ぶったのだ。
どう考えても、王子に背負わすのは良くない気がしたので、結局俺が引き受けた。
「そうだな、レンもきついだろう。次は代わろう」
そう言ったエルネストも、プルプル震える足で石の階段に腰を下ろした。
いや、どう考えても無理だろその状態。
「エルネスト様、癒しをかけますねっ」
アリス嬢はぴょんと背中から降り、手の中でほんわりと小さな光をつくり出した。それを、エルネストの足に当てる。
え……。光、弱くないか?
なんだろう。
一応、アリス嬢は聖女といわれているし、聖女の回復系の癒しっていったら金色に輝く光でパァァ……ってイメージだったんだけど。
アニメと現実は違うのかもしれないが、残念な感じが否めない。
「ありがとう、アリス嬢。だいぶ良くなったから、もう大丈夫だ。レンにも頼む」
エルネストはアリス嬢に優しく言ったが、まだ顔色はあまり良くない。
「……そうですね、ではレン様」と、こちらを向いたアリス嬢の視線は俺の腕だった。
魔道具あるから大丈夫よね……って事だろう。
「あ、僕は大丈夫です。その力は、この先の為に取っておいてください」
「まあ! レン様は体力があるのですね……でも、あまり無理しないでくださいねっ」と、心配そうな口振りで満面の笑顔を見せた。
はいはい……。
大した威力は無くとも、エルネストにはまだこの先も必要になるかもしれないからな。
少し休んでまた歩き出すと、目の前に扉が現れた。
――やっとか!
三人で目配せし頷き合うと、一気に扉を押し開けた。
「「「…………!!」」」
誰も居ない殺風景な広い部屋には、真ん中に長テーブルが。その上には、美味しそうな料理の数々が湯気を立てて、良い匂いを放っている。
いつもの魔王城で振舞われる、お菓子やお茶も並んでいて、ジゼルさんが用意してくれた物だと分かった。
嬉しいけど……それってつまり、まだまだ魔王に到達しないから、頑張れってことだろうか?
『ぐうぅ―……』っと、腹が鳴ったのは俺だけではなかった。
三人で相談して……というか、毒入りでは無いと確信していた俺が、どうにか二人を説き伏せ食べることにする。毒見役を買って出て、久しぶりの食事にありつけた。
涙が出そうなくらい美味かったが、最後の晩餐にだけはなるなよ……と、肉に頼みつつ頬張った。
暫く様子を見ながら休憩して、また階段を登ることにする。座ってしまったせいか、ズシッとした足の重さを余計に感じた。
それでもまた、アリス嬢を背負いながら歩き続けると、背中で寝息が聞こえた。満腹と程良い揺れが眠気を誘ったのだろう。
肩から落ちそうになったアリス嬢の腕を、戻そうとした時だった。何か硬い物が、その腕に嵌められていた。
――まさか、これは!?




