表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/114

6.侍女ジゼル視点

本日2話目の投稿です。

 ――お嬢様が、またやらかした。


 私は、ドルレアン公爵家に仕える侍女ジゼル十六歳。正確には、ベアトリーチェ様の専属だ。

 この邸にやって来たのは、十歳の時だった。



 ◇◇◇◇◇



 実家は、ドルレアン公爵領の端の田舎にある。

 父は、一代かぎりの騎士(ナイト)爵だ。二人の兄も、同じ爵位を目指して王都の騎士団に所属している。姉は美人でお淑やかだから、少し上の家柄の貴族に嫁ぐ予定。

 

 それに反して、末っ子の私は取り柄がない。


 女騎士を目指そうにも、この国では難しい。狭き門どころか、何か特殊な能力でもなければ、試験すら受けられないときたもんだ。

 それでも、小さい頃から自己防衛できるようにと、体術だけは父から教えてもらえた。兄達に混ざって剣も少しだけ。


 そんなある日、父が言ったのだ。


「ここの領主の公爵様が、侍女を募集している。年齢制限があり、十歳から十五歳までの身元が確かな者だ。どうだジゼル、面接を受けてみないか?」と。


 何故、年齢制限があったのか。

 それは、面接に行ってから理解できた。

 ご懐妊された奥様が、長女のベアトリーチェ様が淋しい思いをされないようにと、年が近い遊び相手兼の侍女を募集されたのだ。


 正直、受かるとは思わなかった。


 宰相でもある当主がいる公爵家に仕えるには、もっと身分の高い者が相応しい。面接にも、沢山の中級貴族の子供がやって来ていた。

 ここに勤められれば、給料もよく、地位の高い子息との出会いがあるかもしれないから、皆本気だった。

 それが――。


「んっ、ん! じじぇるぅ!」

 

 奥様の膝の上に乗って、面接を一緒に見ていたベアトリーチェ様が、私に向かって指を差して言ったのだ。

 テーブルの上には私の提出した履歴書がある。一歳のお嬢様に読める筈もない。

 だからきっと、直感で適当に選んだのだろう。


「あらあら。ベアトリーチェ、指を差してはいけませんよ。そう、ジゼルが気に入ったのね」


 奥様は、微笑ましそうに我が子を眺めてから、私にもその笑みを向けた。


「ジゼル、貴女に決まりました。これから、ベアトリーチェをよろしくね」


 なんと、決定権はお嬢様にあったのだ。


 家に帰って、急いで家族に報告した。当然、誰もが驚き喜んだ。

 侍女服や邸で必要な物は、全て支給される素晴らしき待遇。簡単に身支度を整えて、荷造りをすると翌日にはお邸へ向かった。


 ――その日から、私の生活は一変する事になる。


 先ずは一週間、侍女頭さんからお屋敷についての説明と、新人指導を受けた。

 自分の家とは比べ物にならない広さの邸。その上、立派な噴水の設置された広大な庭。ガーデンパーティーやお茶会用の東屋もある。

 これから、成長していかれるベアトリーチェお嬢様に恥をかかす事のないように、完璧な侍女を目指さなければならないのだ。


 常に素早く、要望に応えられるようにする為に、動線確認をしていた時だった。


「じじぇる、いたぁ〜」


 よちよち歩きが少し安定したレベルのお嬢様が、私を見つけてタタタッと駆け出してきた。


「あっ! お嬢様、危ないですっ!」


 慌てて駆け寄ると、案の定……足が絡れたベアトリーチェ様は私の腹部にボンっと突っ込んできた。


「だ、大丈夫ですか?」

「えへへ、へ〜き」


 まだ少し薄く柔らかい黒髪で、大きく輝く瞳のベアトリーチェ様は、私のお腹に顔を埋めるようにグリグリする。そして、顔を上げると私を見てニッコリ笑った。


 きゅうぅぅぅ〜〜んと、可愛さに胸が締めつけられる。


 ……て、天使がいるうぅぅ!!


 もう、私の心はベアトリーチェ様に鷲掴みにされ、離れられない運命だと悟った。

 

 それからずっと、お嬢様専属侍女としてスキルを磨いて来た。


 だいぶ言葉がハッキリしてくると、ベアトリーチェお嬢様は只者ではないのだと理解した。

 会話も年上としてるみたいな感覚にとらわれる。

 貪欲に知識をつけたがったり、たまに出てくる不思議な言葉。初めて聞いた『しっくすぱっく』は、未だに何を指しているのか分からないが。


 そして、私に体術を教えてほしいと言ったのだ。

 

「お嬢様……。淑女には体術は必要ありませんよ」


「でもね、ジゼル。私はあのお父様の娘よ。いつ何処で敵対する者に狙われるか分からないわ。人質にされて、護衛の足手まといにならない為にも、自分の身は守れるようにしたいの」


 足手纏いって、お嬢様が人質にされない為の護衛では?


「だとしても……なぜ、私に?」


 侍女になってから、実家の事や自分の特技などの話などしていない。


「え? だってジゼルの履歴書に書いてあったもの。だから、私の侍女はジゼルしかいないと思ったの」


 持っていた、洗濯済みのシーツを落としてしまった。

 確かに、特技の欄に護身術と書いたわよ。


「……お嬢様、あの時にはもう字を?」

「読めたけど?」


 コテリと小首を傾げた三歳のベアトリーチェ様は、またしても笑みを浮かべた。


「もう少しオリヴィエが大きくなったら、剣の家庭教師がつくわ。その時に、私も一緒に習わせてもらうから、それまでのお願いよ。ねっ?」


 潤んだ瞳で私の手を取り、これでもかって程の可愛らしいおねだり顔をする。


「……くっ」

 私がこの顔に弱いのを知っているのだ。


「承知しました。ですがっ! 絶対に、奥様と侍女頭には見つからないよう、内緒でお願い致します」


「あは、大丈夫よ。家庭教師の件もあるし、お父様には許可をとっておくわ」


 事もなげに言ったベアトリーチェ様は、三歳児にはとても見えなかった。


 

 ◇◇◇◇◇



 それから、護身術と剣術を身につけたお嬢様。


 事も有ろうに、お茶会で……この国の第二王子の手をパシッと軽く掴み、動きを制したのだ。


お読み下さり、ありがとうございました!

文中の侍女の名前を打ち間違えた箇所がありました。失礼致しました。

これで、年内の投稿は最後になります。

年明けの投稿再開は3日以後になると思います。

ブクマ登録、評価を頂き、いつも励みにさせていただいております。

これからも、よろしくお願い致します。

良いお年をお迎えください

m(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ