6.侍女ジゼル視点
本日2話目の投稿です。
――お嬢様が、またやらかした。
私は、ドルレアン公爵家に仕える侍女ジゼル十六歳。正確には、ベアトリーチェ様の専属だ。
この邸にやって来たのは、十歳の時だった。
◇◇◇◇◇
実家は、ドルレアン公爵領の端の田舎にある。
父は、一代かぎりの騎士爵だ。二人の兄も、同じ爵位を目指して王都の騎士団に所属している。姉は美人でお淑やかだから、少し上の家柄の貴族に嫁ぐ予定。
それに反して、末っ子の私は取り柄がない。
女騎士を目指そうにも、この国では難しい。狭き門どころか、何か特殊な能力でもなければ、試験すら受けられないときたもんだ。
それでも、小さい頃から自己防衛できるようにと、体術だけは父から教えてもらえた。兄達に混ざって剣も少しだけ。
そんなある日、父が言ったのだ。
「ここの領主の公爵様が、侍女を募集している。年齢制限があり、十歳から十五歳までの身元が確かな者だ。どうだジゼル、面接を受けてみないか?」と。
何故、年齢制限があったのか。
それは、面接に行ってから理解できた。
ご懐妊された奥様が、長女のベアトリーチェ様が淋しい思いをされないようにと、年が近い遊び相手兼の侍女を募集されたのだ。
正直、受かるとは思わなかった。
宰相でもある当主がいる公爵家に仕えるには、もっと身分の高い者が相応しい。面接にも、沢山の中級貴族の子供がやって来ていた。
ここに勤められれば、給料もよく、地位の高い子息との出会いがあるかもしれないから、皆本気だった。
それが――。
「んっ、ん! じじぇるぅ!」
奥様の膝の上に乗って、面接を一緒に見ていたベアトリーチェ様が、私に向かって指を差して言ったのだ。
テーブルの上には私の提出した履歴書がある。一歳のお嬢様に読める筈もない。
だからきっと、直感で適当に選んだのだろう。
「あらあら。ベアトリーチェ、指を差してはいけませんよ。そう、ジゼルが気に入ったのね」
奥様は、微笑ましそうに我が子を眺めてから、私にもその笑みを向けた。
「ジゼル、貴女に決まりました。これから、ベアトリーチェをよろしくね」
なんと、決定権はお嬢様にあったのだ。
家に帰って、急いで家族に報告した。当然、誰もが驚き喜んだ。
侍女服や邸で必要な物は、全て支給される素晴らしき待遇。簡単に身支度を整えて、荷造りをすると翌日にはお邸へ向かった。
――その日から、私の生活は一変する事になる。
先ずは一週間、侍女頭さんからお屋敷についての説明と、新人指導を受けた。
自分の家とは比べ物にならない広さの邸。その上、立派な噴水の設置された広大な庭。ガーデンパーティーやお茶会用の東屋もある。
これから、成長していかれるベアトリーチェお嬢様に恥をかかす事のないように、完璧な侍女を目指さなければならないのだ。
常に素早く、要望に応えられるようにする為に、動線確認をしていた時だった。
「じじぇる、いたぁ〜」
よちよち歩きが少し安定したレベルのお嬢様が、私を見つけてタタタッと駆け出してきた。
「あっ! お嬢様、危ないですっ!」
慌てて駆け寄ると、案の定……足が絡れたベアトリーチェ様は私の腹部にボンっと突っ込んできた。
「だ、大丈夫ですか?」
「えへへ、へ〜き」
まだ少し薄く柔らかい黒髪で、大きく輝く瞳のベアトリーチェ様は、私のお腹に顔を埋めるようにグリグリする。そして、顔を上げると私を見てニッコリ笑った。
きゅうぅぅぅ〜〜んと、可愛さに胸が締めつけられる。
……て、天使がいるうぅぅ!!
もう、私の心はベアトリーチェ様に鷲掴みにされ、離れられない運命だと悟った。
それからずっと、お嬢様専属侍女としてスキルを磨いて来た。
だいぶ言葉がハッキリしてくると、ベアトリーチェお嬢様は只者ではないのだと理解した。
会話も年上としてるみたいな感覚にとらわれる。
貪欲に知識をつけたがったり、たまに出てくる不思議な言葉。初めて聞いた『しっくすぱっく』は、未だに何を指しているのか分からないが。
そして、私に体術を教えてほしいと言ったのだ。
「お嬢様……。淑女には体術は必要ありませんよ」
「でもね、ジゼル。私はあのお父様の娘よ。いつ何処で敵対する者に狙われるか分からないわ。人質にされて、護衛の足手まといにならない為にも、自分の身は守れるようにしたいの」
足手纏いって、お嬢様が人質にされない為の護衛では?
「だとしても……なぜ、私に?」
侍女になってから、実家の事や自分の特技などの話などしていない。
「え? だってジゼルの履歴書に書いてあったもの。だから、私の侍女はジゼルしかいないと思ったの」
持っていた、洗濯済みのシーツを落としてしまった。
確かに、特技の欄に護身術と書いたわよ。
「……お嬢様、あの時にはもう字を?」
「読めたけど?」
コテリと小首を傾げた三歳のベアトリーチェ様は、またしても笑みを浮かべた。
「もう少しオリヴィエが大きくなったら、剣の家庭教師がつくわ。その時に、私も一緒に習わせてもらうから、それまでのお願いよ。ねっ?」
潤んだ瞳で私の手を取り、これでもかって程の可愛らしいおねだり顔をする。
「……くっ」
私がこの顔に弱いのを知っているのだ。
「承知しました。ですがっ! 絶対に、奥様と侍女頭には見つからないよう、内緒でお願い致します」
「あは、大丈夫よ。家庭教師の件もあるし、お父様には許可をとっておくわ」
事もなげに言ったベアトリーチェ様は、三歳児にはとても見えなかった。
◇◇◇◇◇
それから、護身術と剣術を身につけたお嬢様。
事も有ろうに、お茶会で……この国の第二王子の手をパシッと軽く掴み、動きを制したのだ。
お読み下さり、ありがとうございました!
文中の侍女の名前を打ち間違えた箇所がありました。失礼致しました。
これで、年内の投稿は最後になります。
年明けの投稿再開は3日以後になると思います。
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これからも、よろしくお願い致します。
良いお年をお迎えください
m(__)m




