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53.仲間外れって

 勝手知ったる魔王城。

 湯浴みで稽古の汗を流し、着替えを済ませて城のサロンへ入ると、珍しく魔王とレンだけが揃って座っている。


 魔族の侍女達が、せっせとお茶の支度をしていた。


 この城に仕えている者全員が、心から魔王を慕っているのが伝わってくる。

 何故か、私にも温かい目を向けてくれるので、とても居心地が良い。


 魔王城に使用人が戻った時、皆を紹介してもらった。耳の尖った恰幅の良い、おばちゃん風の彼女が侍女頭だ。使用人の中で最年長らしいが、何歳なのかは……女性に年齢は聞けないので謎のまま。

 ジゼルも気が合うようで、いつの間にか魔王城の侍女達にすっかり馴染んでいる。

 

 魔王の復活前は、城には使用人が居なかったので不思議な感じだ。そういえば、お茶はいつもノアが用意してくれていた。

 

「ノアは、まだなのですか?」


 ぐるっと見渡し尋ねると、魔王は無表情のまま頷く。


 どうやら、二人だけでは全く会話が盛り上がっていなかったみたいだ。心なしか、レンは冴えない表情をしている。


「三日後に、国王陛下との謁見が決まりました」


 私が席に着くや否や、レンはそう告げた。

 謁見が決まったのなら……。


「つまり、いよいよという事ですね?」


「……はい」とレンは短く返事をする。


 声から緊張が伝わってきた。

 レンの報告で、今日の偽ヒナタの登場はどうでもいいと思えてくる。

 私達にとっては――もう、それどころではないのだから。


「心配することはないぞ、レン! 魔王様にあれだけ時間を貰って鍛錬したんだ。きっと、大丈夫だ。上手くやれる」


 ロランは、励ますように言う。


 魔道具無しでレンを鍛える事になっていたが、何如(いかん)せん時間が無さすぎた。

 そもそも、私が覚えている望月蓮は、完全なインドア人間だったのだから、筋力なんて碌に無かったはず。


 だから、魔王は時を止めた空間を与えてくれた。


 その中なら、どれ程の時間を費やしても、現実の時間は進まない。実際に私は見ていないから、詳細は知らないが。


「うん、そうだよな」とレンは顔を上げる。


 その顔には、少しの自信が見て取れた。

 どのくらい鍛錬の成果が出ているか、ロランとレン自身は分かっているのだろう。


「今日お前を抱いて思ったが、いい筋肉もついてきたじゃないか!」


「……っ!? だ、抱いて!!?」


 つい声が裏返る。

 ティーポットを持ったジゼルはピタッと止まった。表情は完全に固まり、パサッとフキンを落とす。


「ちょっと、ちょっと! ロランてばっ、抱いてじゃなくて、抱えての間違いでしょ!」


 ブハッと笑ったキーランの突っ込みで、ロランの言い間違いに気づく。

 教室での出来事を言いたかったらしい。

 思わず、失笑してしまった私とレン。ジゼルはその場に居なかったから、何のことやら理解できない表情だ。


 魔王とジゼルにも分るように、今日の教室での一件を話した。魔王は微妙に不機嫌そうになり、ジゼルは明らかにホッとし……た。


 って、んん? ジゼルったら、もしかして……。


 取り敢えず、ロランのおかげで緊張していた空気が解けた。そして、ようやくノアもやって来た。


「何だか楽しそうですね」


 そう言ったノアに、キーランがざっくりと説明した。状況を把握したノアは、チラッとだけ魔王に視線を向ける。


「まあ、偽の妹については暫く様子見で問題ありません。彼女のクラスには、オリヴィエがいますしね。宰相閣下から、指示が行っている頃でしょう」


 確かに、オリヴィエなら怪しまれずに接近できる。妹探しに関わっているのは、とっくにバスチアン達には知られているし、レンとも友人だ。偽ヒナタと仲良くなるのは自然だわ。

 ただ、オリヴィエはアリスが苦手……。

 ヒナタが、アリスよりマシな人物であってくれるのを願うしかない。


「僕らは、バスチアンに言われた通りの場所を目指せばいいんですよね?」


「そうです。その場所まで行けば、我々が転移させます。護衛の者は招待いたしません。その場で待たせておきましょう」


「……きっとパニックになりますね」と、レンは複雑そうな顔した。

 

 護衛には近衛騎士団の師団長でもある、あの青年がつくらしい。

 やはり予想した通り、剣術大会前にレンに剣を教える、特別講師としてやって来ていたのだそうだ。

 キーランが言うには、あれからミレーヌとの接触もしていないらしい。


「目の前で、勇者と聖女と王子が消えるのですから、そうなるでしょう。けれど、余計な血は流したくありませんからね」

 

 確かにそうだ。

 騎士達は、護衛対象を守るため直ぐに剣を抜くだろうから。先ず、魔族であるこちらの話など、聞く耳を持ってはくれない。

 そうなれば、どうしても応戦するなり動きを封じるなりし、対処しなければならない。

 だったら、最初から引き離してしまった方が早いとノアは言う。


「ベアトリーチェ嬢は、こちらの城で待機していてください」とノア。


「……えっ!?」


「魔族である私達と、繋がりがある事が知られては不味いでしょう。王子であるエルネストも居るのです。最悪、公爵家が取り潰しになる事だってあるのですから」

「……取り潰し」


「だから、我慢して待っていてください」とノアは言った。


 でも――。

 それは、嘘だ。

 

 そんな事を言ったら、ノア達だって令息に成りすましているのだ。その部分だけ、人間の記憶を消すことが出来るはず。今更、仲間外れは納得できない。


「隠れて見ているのでは……」

「駄目だ」


 ノアではなく、有無を言わせない雰囲気の魔王が強めの口調で言った。


 何か隠している――直感的にそう思った。

 

お読み下さり、ありがとうございましたm(__)m


誤字脱字報告、とても助かっております。早速、訂正させて頂きました。

ブクマ登録、評価、感想、誤字脱字報告、いつも感謝しております!

これからも、よろしくお願い致します!

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