閑話 魔王のある一日
お読み頂き、ありがとうございます!
今回は、短めの閑話です。少し時間は遡ります。
本編の方は、もう暫くかかりそうです。
すみませんm(__)m
――長い……長い眠りから目が覚めた。
隣には、懐かしくもあり愛おしい、いつも先にいなくなってしまう娘が眠っている。
繋いだ手から自分の魔力を流していく。凍えていた自分の中に、温かい力が循環し戻ってくる。握っている手の温もりに心が安らぐ。
どれ程、この存在を待ち望んでいたことか……。
初めて出逢ったのは、遥か昔。
正確には、興味を持ったと言った方がしっくりくる。
私は生まれたばかりの存在で、魔王としての覚醒は曖昧だった。まだ、魔族と天族が殆どで、人間は僅かに誕生するくらいだったと記憶する。
そんな中、真っ赤に燃える様な髪色をした人間の少女がいた。何の力も持たない、神の気まぐれから生まれた人間という存在。
その少女の魂は希望に溢れ、輝き美しかった。
そうだ。只々、見ていたかった。
けれど、人間とは儚いもので直ぐに一生を終えてしまう。次にその魂を見つけた時は、何とも言えない感覚だった。何度も繰り返す一生を見続け、触れてみたくなった。
全ての種族が共存する混沌の時代。出会うことは容易かった。
彼女は自分をビーチェだと名乗ったが、私は名を聞かれて困ってしまった――名前など、考えたこともなかったから。
取り敢えず、彼女が男として生きていた時代の名前を拝借し、カルロスと名乗ることにした。
ビーチェに触れ温もりを感じ、歓喜する日々。
「カルロスといて、幸せだわ」
そう言った彼女から、幸せと言う意味を教わったのだ。
ただ……。やはり、人間の一生は短かった。
「また、出逢えるわ」と言ったビーチェは、私が魔王だと気づいていたのだ。
初めて、目から涙という物が流れた。
彼女を忘れられない私を、愚かな幼い王だと周りは嘲笑う。
私は後悔した――。
見ているだけにしておけば良かったのだ。
いつしか混沌の時代も幕を閉じ、天界、人間界、魔界に分かれた。
私は完全に覚醒し、魔界を統べる者となった。
もう関わるまいと思い、見守るだけにしたビーチェの魂。
だというのに――ある日、それは人間によって魔界へ落とされた。
その時のビーチェはまだ幼子だった。
双子として忌み嫌われ、生贄として一人だけ崖から落とされたのだ。
何故、人間が私に生贄を捧げて来たのかは解らない。ノアが言うには、人間界は災害に見舞われ、それを魔界の所為だと考えたらしい。
災害の度に、人を此方に捨てられても迷惑だからと、対応は全てノアに任せた。
正直……。ビーチェの生まれ変わりを魔界に送った者には、褒美を与えたいくらいだったが。
幸いビーチェは、魔界のこの城で『姫』と呼ばれすくすく育った。少々面倒だったのは、今回は光属性と神の加護持ちだった事だ。
それが顕現したのは随分経ってからだった。
人間が勝手に落としたのだからと、上には秘密にしておいたが――人間の魂の管轄は天界だ。奴らは色々と煩すぎる。
だが、まさかあんな事になるとはな……。
まあ、よい。ビーチェは今、私の元に戻ってきたのだから。
「うぅ……ん」と唸るが、ビーチェはまたスゥーッと寝息をたてる。
まだ、暫くは起きそうもない。
もう一度、魔力を流すと私も目を閉じる。
手から感じる鼓動が早くなり、ビーチェが目覚めたのが分かった。――いつの間にか、一緒に眠っていたようだ。
この時間が永遠だったらいい。
そんな風に思いながら目を開けずにいると、前髪にビーチェの手が触れた。心地よい。
だが結局、ビーチェの瞳を見たくて目を開けてしまう。
まだ寝ぼけているのか、黒く艶やかな瞳は私を凝視する。
徐々に赤味を帯びる頬がまた愛おしい。
思わず「ビーチェ」と呼んでしまった。たしか今の名は、『ベアトリーチェ』だっただろうか。
もっとこの時間を堪能したかったが、ビーチェの侍女ジゼルが勢いよくやって来た。
主人思いのジゼルに部屋から追い出されたが、ビーチェの身体の為だから仕方ない。
そう、時間はまだある。
自然と口元が緩んでしまう。
「我が王よ。嬉しいのは解りますが、程々にお願いいたします」
「……無理だな」
私の返事に、ノアは大きな溜息を吐いてくる。久しぶりに再会した私の片腕は、相変わらずだ。
「頼りにしているぞ」
「かしこまりました」
何だかんだノアは嬉しそうに言った。
手に残るビーチェのぬくもり。
今度は何があろうとも――決してあの手を離すものか。




