50.進展か
「こちらの方も進展がありました。近いうちに、勇者と聖女は国王陛下との謁見があるでしょう」と、ノアは言った。
「えっ! 国王に僕が勇者として認められるって事ですか?」
事実を知ったからこそ、レンの表情は硬く手放しに喜べないのだろう。
「……はい。一応というところですね。こちらにとっては、やり易くなりますが」
ん? 何がやり易いのだろうか?
やはり、ノアの言い方には含みがあるような気がする。
謁見まで至ったのは――。
これまで魔王の復活は、他国では兆候がなかった為、あまり知られていなかった。それが商人などを通じて、少しずつだが噂が広まってきているらしい。
剣術大会のあの一件が最大の要因だ。
更に噂を加速させたのは、目撃者である学園の生徒や関係者。当然、バスチアンも一枚噛んでいるだろう。
アリス達の目論見通りってことね。
違う噂を流して、情報操作をしようと思えばできなくもないそうだが……。互いに攻防を繰り返しても、埒が明かなくなるだけだとノアは言う。
不確かな情報ほど、恐怖を煽り勝手な想像で大きく膨れ上がっていくものだから。
そして、ここぞとばかりに宮廷魔術師たちが、この国の民も不安を感じていると国王へ進言した。
ただ、魔王の復活を正式に公表するには証拠が少ないことと、必要以上に混乱を招くと懸念する臣下も多い。
宮廷内では、亀裂が生じ始めているらしい。
この国にだけ魔王が現れたなんて、噂だけで風評被害が出るかもしれないのだ。
その件が、マイナスに働く事を恐れた上位貴族は、口を噤み、国王や宰相の出方を待ち様子を窺っている。
国王陛下は、双方の意見を交えた結果――ついに勇者と聖女に魔王の討伐を依頼すると決めた。聖女と婚約したエルネストも、王族の代表として一緒にね。
ただし――。
先ずは視察として、魔王の復活が証明されるまでは秘密裏に動くようにとのことだ。エルネストの護衛として、最小限だが選りすぐりの騎士を連れて。証明されたら、国を挙げて軍も動かすと。
そりゃまあ、そうよね。
軍まで出しておいて、間違いでしたじゃ済まされない。税金を無駄には出来ないのだから。戦争なんて、簡単にしていいものじゃない。
そもそも! 復活したから何なのよ。
魔王が復活したといっても、人間界は何の被害も受けてないし、魔物だって魔界から出てきていない。魔王が眠っている間、魔石となり共に復活の時を待ち続けた魔物達が、魔王の意に反する事をする訳がない。
それ程までに、魔王は魔界にとっての絶対君主なのだ。
……普段はあんな感じだけどね。
「勇者一行が出発しましたら、魔王城へ招待するつもりです」
平然とした顔で、ノアは突拍子もないことを言い出した。
「魔王城へですか!?」
「いいえ。ここではありません」
「でも、魔王城って……」
「はい、言いました。新しく魔王に城を造っていただきます」
「はい? 新しく?」
「そうです。場所は決めてあります」
――えっと、理解不能です。
どうやら、首を傾げているのは私とレンだけのようだ。お城って、そんな簡単に建てられる物だったかしら?
チラッと魔王を見る。
目が合うと、魔王は色っぽく微笑む。
あ……そうだった。
窓の外に視線をやれば、いつの間にか復活した魔界。お城なんて一瞬で出来上がる予感がする。
ノアは一通り説明すると、其々の役割分担を言い渡した。
そして最後に、ノアから満面の笑みを向けられたレンは、ぶるりと体を震わせた。
そうか……。
初めにレンの嘘を強めに追求したのは、この為だったのかもね。策士って、怖いわぁ。
◆◆◆◆◆
一方、魔術師団の本部である魔塔の最上階では――。
「ご指示いただいた通り、あの場所に間違いないかと」
銀色の刺繍がされたマントを羽織っている男は、貴族とは違う魔術師団特有のお辞儀をすると、報告を始めた。
この国の魔術師団は、実力や実績により階級が分類されている。それを刺繍で使う糸で色分けし、傍目からでも判断出来るよう定められている。
「やはり、そうか」と、バスチアンは徐に振り向いた。
如何にも高級そうな深い黒の布地に、金色の刺繍が丁寧に施されているマントを羽織っている。それを纏えるのは、宮廷魔術師として選ばれた者だけだ。
白髪混じりの髪は一見すると年老いて見えるが、顔や肌をよくよく見ればまだ若い。
バスチアンは、重厚感ある支柱の上に置かれた魔道具を見下ろした。
まるでインテリアの様なそれは、幾つかの立派な魔石が埋め込まれている。バスチアンが魔石の一つに触れて魔力を流すと、何もない壁に地図らしきものが映し出された。
地図の中には、魔石と同じ色の光がゆっくりと動いている。別の魔石に触れると、勇者と周りの人間の会話が聞こえてきた。どうやら、勇者は学園の庭辺りで第二王子と剣術大会の再試合について相談しているようだ。
「この魔道具は、何度見ても素晴らしい! 流石は、バスチアン様です」と、男は大袈裟にバスチアンを褒め称える。
バスチアンが地図を暫く眺めていると、男子寮の位置で光は動かなくなった。
「勇者は、寮で大人しくしている様ですね。監視を側に置かなくても宜しかったのですか?」
「必要ない。勇者は、魔力も持たない唯の人間……平民と同じだ。使える力は与えてある魔道具のみ。こちらの手の上でしか動けない傀儡でしかない。学園で聖女が見張っていれば十分だ」
「そうですね。こちらには、勇者の妹という人質もおりますし。私が見つけて来ました娘は中々使えます。あの娘は決して我々には逆らえませんから。……本物が見つかった場合は、いかが致しましょう?」
自分の功績を強調する様に言うと、嫌らしい笑みを浮かべる。
「向こうの世界の者は魔力は持たない。もし、他に妹を名乗る者が出てくるようなら――処分しておけ」
「畏まりました」と、男はスッと部屋から消えた。
お読み下さり、ありがとうございました。
暫く、更新のペースダウンが続きそうです。
申し訳ありませんm(__)m




